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穴の中の君に贈る手紙【ショートショート】

穴の中の君へ。

君が穴に入ってから、4年の月日が過ぎました。

小学4年生だった孝介は中学生になり、幼稚園児になりたてだった綾乃は、ランドセルを背負って、小学校に元気に通っています。

僕も体を壊すことなく、仕事も順調です。子どもたちのことや家事の多くは、君のお母さんが協力してくれて、本当に助かっています。

あの日、意気揚々と仕事に向かった君は、スカートを履き忘れていたね。周囲の目線が自分に向くことに違和感を感じて、初めて下着姿で歩いている自分に気づき、ダッシュで家に帰って来た。

「穴があったら入りたい」

そう叫んだ君は、家の側でちょうど良い穴を見つけ、本当に入ってしまった。

お母さんが食事や水分は放り込んでいるし、紐を垂らせばちゃんと反応を返してくれる。子どもたちも「お母さん元気そうだね」と喜んでいるよ。

ねえ、そろそろ出て来ませんか?

あの日のことは、もう誰も覚えていないよ。
だから、顔を見せてほしい。

今日も外は快晴です。

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