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2人の路上ミュージシャンの夢 〜嘘みたいな嘘の物語〜 SS.

アオは幼少期から歌うことが好きで、それは小学校、中学校と成長しても変わらなかった。

周りからもその歌唱力は称賛され、小さな大会で賞を貰ったこともあった。

ギターを練習し、曲も作れるようになり、アオは上京した。1人でも多くの人に自分の歌を届けたい。

そしてアオは武者修行の場所として、新宿駅前の路上を選んだのだった。

アカは目立つことが大好きな子供だった。自分が何かをすることでみんなが笑ってくれるのが嬉しくて、いつも誰かを笑わせることを考えていた。

歌も目立つ為の手段のひとつ。自分が歌うことでみんなが笑顔になるのが嬉しくて、アカは次第に歌にのめり込んでいった。

独学で覚えたギターを弾きながら、歌いながらステップを踏む。より多くの笑顔を求めて、アカも上京し、新宿駅前で歌うようになった。

意気揚々と上京した2人だが、思うようには行かない。何処の馬の骨ともわからない路上ミュージャンに足を止める程、コンクリートジャングル、大都会東京は甘くない。

「俺ら平和の象徴だぜぃ。ケチケチしないで餌ぐらいよこせよぉ、ぽろっぽー」
そんなことを言いたげな鳩だけが、2人の周りをウロついていた。

2人はお互いの存在を認識していた。

アオは「彼の明るさは自分に足りない物だ」と思っていたし、アカは「彼のように人の心に響く曲が、僕にも作れたら良いのに」と思い、互いに惹かれあっていた。

いつしか2人はセッションをするようになり、一緒に歌うようになった。何かが掴めそうだと感じていた。けれど、思っていた以上に都会の風は冷たい。足を止めるどころかゴミを投げられることもあった。

「さっさと稼いでさぁ、神聖な俺らに餌買えよぉ。平和の象徴だぞぉ、ぽろっぽー」
相変わらず鳩だけが彼らの常連だった。

「俺らダメなのかな…」
アオが言った。
「潮時かも知れないな…」
アカが言った。

自分達を認めてくれない世間への怒りや悲しみ。それはやがて疑問に変わって行った。

「なんでだろう」
アオがメロディに乗せ、ギターを弾きながら歌い始めた。
「なんでだろう…なんでだろう」
「アオ!それだよ」
アカが一緒に歌いながら、踊り始めた。
「なんでだろ〜なんでだろ〜」

アオがギターを弾きながら歌い、アカが歌いながら踊っていると、1人また1人と聴衆が集まり始め、気がつけば人だかりが出来ていた。キャッチーなメロディに一緒に歌い始める者が現れ、陽気な踊りを真似する者も現れ、その場にいた全員が笑顔だった。

「餌買えよなぁ、ぽろっぽー」
鳩もその光景に安心し、飛び立っていった。

こうして生まれたのが、かの国民的名曲、
テツandトモの『なんでだろう』である。

…全部嘘ですよ。


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