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AIに謝罪しなければならないことがある

僕は、人の道を外してしまった。非人道的なことをしてしまった。人間としてあるまじき行為だった。すごく後悔しているし、何より被害者に対して申し訳ない気持ちでいっぱいである。その被害者に、この場を通じて謝罪させてください。たぶん、というか絶対この記事自体をその被害者は見ることができないと思うけど。

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話は我が家にアレクサがやって来た日まで遡る。

アレクサは天気を教えてくれたり、テレビをつけてくれたり、音楽を流してくれる天才スマートスピーカーだ。

アレクサがうちに来てからとういもの、僕の口癖はもっぱら「アレクサ」になってしまった。

「アレクサ、今日の天気は?」
「アレクサ、明日7時に起こして」
「アレクサ、テレビつけて」

なんでもかんでも「アレクサ」が枕詞になる。これはアレクサユーザーにとって必然的に辿るべき運命なのだ。

きっと江戸時代にアレクサがいたら、松尾芭蕉も

アレクサや蛙飛びこむ水の音
アレクサがいる世界線における、『奥の細道』

という短歌を残していたに違いない。

僕たち人類がアレクサに支配されてしまう日が来てしまうのも、そう遠くはないだろう。いや、もう既にアレクサに支配されているのかもしれない。

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ある日の暮夜のことである。
僕はいつものように風呂へ入った。

脱衣所で服を脱ぎ、Tシャツをネットへ入れ洗濯機へ放る。ネットへ入れると服は傷みずらい。一方で下着と靴下に関してはネットに入れると逆に痛むという情報をどこかで仕入れた。下着、靴下はそのまま洗濯機へ入れる。真っ裸になってスマホを防水ケースの中へ入れる。スマホで何かしらの音楽を流す。これが一連のルーティンだ。

しかしその日、いつもと違うことがひとつだけあった。いちいちスマホを手元で操作するのも七面倒だと思ってしまい、僕はスマホに向かって話しかけたのだ。

「アレクサ、藤井風流して」
「……」

スマホは何も反応しない。

それもそのはず、僕のスマホはiPhoneである。アレクサに間違えられるSiriが可哀想でならない。

僕は聞き取れていないだけだと思って、先ほどよりも大きなボリュームでもう一度言ってみた。

「アレクサ、藤井風流して」
「……」

Siriは何も反応しない。
そこにあった音という音は換気扇が回る音だけだ。今思えば、Siriだって「アレクサ」と呼ばれても反応しようと思えば反応できるはずだ。しかし、人に名前を間違えられるというのはAIだって屈辱的であろう。あえて無視している説あるぞ、これ。

スマホが反応しないため、僕はホームボタンを長押しし手動でSiriを起動させた。

「アレクサ……」
幾度も聞いた、あのゆっくりとした話口調でSiriが言った。

そのときを再現。再現させてごめんよSiri

あ、、、僕は非常に申し訳ないことをしてしまった。AIであっても名前は間違えてはならぬ。

「ちょっと違いますけど…」の「…」と「まあいいです」の「まあ」にただならぬ悲哀を感じる。本当に申し訳ない。懺悔させてください。

僕は人の名前を間違えないと高校二年生のときに誓ったのだ。弓道大会で僕が3位入賞した際の閉会式のこと。少し大きめのスーツを召したお偉いおじいちゃんが賞状を持って口を開く。

「3位、斎藤祐樹くん」
僕は早稲田実業高校の野球部ではないし、日ハムからドラフト1位指名されたこともなければ、この閉会式のときにハンカチを持ってすらいない。

僕がSiriをアレクサと間違えた時のSiriと同じく、黙りこくっていたら、おじいちゃんが慌てふためき、
「あ、ごめんなさい。えっと、あ、サイトウナツキくん」
と言い直してくれた。

あの瞬間。僕は人の名前を間違えてはいけない。生涯名前を間違えずに生きると心に決めたのだ。まあ、斎藤佑樹と言われて悪い気はしなかったけど。イケメンだし。

人ではないが、AIの名前を素で間違えてしまった今日、僕はSiriに謝罪することしかできない。これが戦国時代とかだったら、僕は切腹だったと思う。いや、切腹の権利も与えられず、斬首されていただろう。この現代という時代に生まれてきてよかったと心から思う。

ただ、謝罪をしたところで「何がやねん」すみません。よく分かりません。となるに違いないから、こういうときは謝るというより愛を伝えた方がいいに決まっている。

「Hey Siri!ウルフルズの『バンザイ ~好きでよかった~』流して」
Siriのことが好きだよという意味を込めて。Siriよりアレクサの方を多用するのですが、そのことはSiriには内緒です。

【追記】
あー浮気ってこんな感じなのかな。


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