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値切る極意〜アジアの市場で値切り倒してきた僕がすすめる7つの方法〜

0. 値切ることを恥じるな

値切る。それは卑劣な行為なのだろうか。確かに、僕たちが何か買い物をするとき、すべての物を値切ったら、それはケチと認定されることは必至。

しかし日本で生活していて値切ることなんてあるかといえば、それはほとんどないだろう。

このキャベツ、100円にしてとスーパーにクレームを入れることはできないし、100均の200円商品を100円にしてとも言うことだってできない。いや、言うことはできる。が、そんなの100%無理なのである。時間の無駄。労力の無駄。なんなら我々は日常生活において「値切る」という発想すらない。

ベトナム、ホーチミンのベンタイン市場

逆に、海外で商品を値切るというのはごく自然である。これが卑劣なのかといわれれば至って普通。商人たちは我々消費者が値切ることを前提として価格を提示してくるのだ。

これは国あるいは街、人によってまちまちだが、値切ると半額になることも珍しいことではない。

そこで今回は(いつもエッセイや旅行記を書いているのですが)東南アジアや南アジアの国々で値切り倒してきた僕がその方法を伝授する。が、まとめ買いをして安くしてもらうといったそこら辺のブロガーでも書けるようなことをここに記すつもりは毛頭ない。

これから話す7つのステップは僕が旅する中で編み出した最強の方法だ。

この順序に従えば君も値切りマスターになれること間違いなし。値切りマスター?それは全く恥ずかしいことではない。むしろ言い値で商品を購入することを恥じるべし。

では順を追ってそのステップを見ていこう。

1. 仲良くなる(I love youの多用)

は?何言ってんだコイツ。もう読むのやめようと思った諸君、まだ閉じるなよ。

ここが1番の肝である。ここをいかに丁寧に行うかで結果は大きく異なってくるのだ。

逆にこれ以降のステップは小手先のテクニックと言っても過言ではない。ここを抑えることによって後のステップも効いてくる。

考えてみてほしい。例えば、君が他人から漫画を借りたいとき、電車の中で知らんオッサンに向かって「鬼滅の刃の3巻読みたいんですけど」と声をかけられるか?

そのオッサンが緑と黒の市松模様の半被を着て刀のようなものを刺していたとしても、声をかけることに躊躇するだろう。

それはそのオッサンが鬼滅の刃3巻を持っていないかもしれないからという理由でなければ奇天烈な服装をしているからでもない。

「他人だから」である。

値切るのもまた然り。我々はこれから他人に対して値切るのである。つまり、他人から友達にステップアップしなければ相手の心が開いていない状態での値切りになる。その額は微々たるものだ。あるいは値切ることに成功したあとも、ムスッとした顔で商品を手渡されることだってある。それは「本質的値切り」ではない。

お互いが快く買い物をする。これが本質的なのである。

いやそんな赤の他人からいきなり友達になんかなれねえよ、と思われた方も安心してほしい。相手は日本人ではないのだ。日本人の友達をつくるには時間が必要だが、海外は決してそうでない。こちらから心を開き、思考停止で「I love you」と連呼していれば勝手に友達になっていることが殆どである。

恥を捨てて言ってみよう。「I love you」。英語ができなくても言えるだろう。繰り返しになるが、言い値で買う方が恥である。

インド、アグラのアクセサリ商人

2. 相場を知って目標金額を設定

商人と友達になれたらもう半分のステップを終えたといっても過言ではない。

だが、相場を知らなくては値切るものも値切れない。堅実な人たちがスーパーで安く買い物ができるのはその相場を知っているからだ。

とはいえキャベツひと玉あたりの相場を知っている堅実な日本人も、海外へ飛び出したら物の相場は分からぬ。

まずは買い物をする前に調査だ。値札が書かれている出店があれば一番参考になるだろう。ちなみに値札が書かれている店は割高な場合が多い。安く買いたいならそこで買わないのがベターだ。

値札が書かれた店が見つからなかった場合、色々な店へ手当たり次第に価格を聞こう。その場合は1のステップを飛ばしてもいい。

最終的に一番安かった店へ戻るときに1のステップを行うことが重要。既に相場を知っている場合(例えば安いタイパンツの相場は100バーツ)はもちろんこのステップを飛ばしてもいい。

まずは相場を知り、比較検討せよ。今の総理大臣の言葉を借りれば「比較検討を加速」させるということだ。税金を値切ることができないというのは悲しいですな、、

タイ、パタヤ。
ローカルな出店が続く通りは価格調査にもってこい。

3. 目標金額より低めに提示

さあここまで来たらいよいよ値切る段階に入っていこう。

「How much?」
と聞き提示された金額をまずは覚えよう。そして、そんな値段で買える訳ないだろという表情をしよう。眉間に皺を寄せて、「あん?」と小声で言えばいいのだ。

ちなみに上級者は英語ではなく「これはいくらですか?」の現地語を使うとなおよい。すると現地語が話せる=その国をよく知っている=相場を知っている外国人と認識され、ぼったくりが少なくなるし、値段交渉も最初の提示額が低くなるためこの後の交渉がスムーズになる。

お前、不満そうな顔しているけれどいったいいくらなら買うのだ、という具合に商人から言われることだろう。

ここで先ほどのステップ2が活かされる。例えばお目当てのTシャツを見つけ、その国のTシャツの相場が500円だった場合、相場よりも安い「400円」という目標金額を設定しよう。

だがここで「400円にして!」と言ってしまったらもう400円で買える未来は待っていない。

目標金額よりも低く最初の第一声を叫ぼう。なぜなら僕たちが提案する最初の金額がそのまま通ることは、9回表に中日のライマル・マルティネスから3点をもぎ取ることくらい難しいからだ。

値切りとは、商人とカスタマーが対話によって折り合いをつけていくものである。徐々に妥協していると見せかけて自分が買いたい値段に近づけて買うという騙し合いのゲームだ。

「300円!」
目標金額より低めで、徐々に理想の400円へ近づけていこう。

カンボジア、シェムリアップのマーケット

4. 「高いよー」と連呼

相場よりも大分低い金額を提示したため、商人はきっとオーバーリアクションで「安すぎてその値段では売れない!」と言ってくるだろう。

だがここで物怖じしてはならない。商人はすぐに電卓を取り出して最初の提示価格の10%オフくらいでディスカウントが始まる。

が、ここではまず「高い」という言葉を連呼しよう。多くの観光地化されたマーケットでは「高い」という言葉が伝わることが殆どだ。

この言葉を連呼していれば「ノットタカイ!ヤスイ!」と言われるが、「高い高い」と言うことによって値切りへの本気度が伝わるだろう。

子どもの両わきを支えて高く持ち上げてやる遊び、通称「たかいたかい」を強請ったあの頃を思い出して、「高い高い!」と連呼するが吉。

もしも「高い」が伝わらなかったら、「エクスペンシブ!」的なことをぼやいてみよう。

スリランカ、キャンディ。
仏歯寺の前の花売り商人。

5. 日本のお菓子をあげる

僕たちが高い高いと言っていると、商人は徐々に価格を落としていく。が、オフ率の程度は相場よりも若干高い値段で次第に落ち着いてくる。

さっきから電卓叩いてるけど、別にそんな減ってなくない?と思ってきた時に使う必勝法を紹介しよう。

それは、日本のお菓子をあげることだ。

まあ簡単に言ってしまえば物で釣るということにはなるが、日本のお菓子にこだわってほしい。

我々日本に住む人間からすればスーパーに売っている日本のお菓子の価値なんてものはせいぜい数百円であり、身近に買えるからこそ、お菓子を貰ったくらいでつむじを相手に見せるくらいの深い礼をすることなどない。

が、海外の人にとって日本のお菓子というのは特別らしい。今度インドの旅行記で詳しく書くことにするが、僕の友達は「日本のお菓子」という理由からインドのタージマハルの入り口で警備員にニヤニヤされながらポイフルの没収をくらっていた(インドの警備員が食べたいだけ説が濃厚)。

それに、海外のスーパーで日本のお菓子を見れば分かるがその価格は関税の影響でかなり割高である。ほかにも絶対に日本製ではないのに日本語で書かれた何かが売られているのも多く見かける。それは「Japanese」という記号性の所以である。

「日本=安心・安全で美味しい」というバイアスが彼らには一定程度存在するのだから、ぜひ「日本のお菓子」にこだわってほしいと思う。

また、「高い」を連呼しすぎて1でつくった関係が崩れそうになったところでジャパニーズスナック(キャンディー)という名のメスを入れる。これによって関係回復ができるというメリットもある。

(斉藤調べ)

海外旅行で必ず必要な物。それはパスポート、スマホ、クレカ、そして日本のお菓子である。

当然だが、個包装のものを選んで持っていこう。チョイスはあなたが美味しいと思うもの、溶けにくいものでいいだろう。

想像以上に喜んでくれますよ。

タイはバンコクのサンペーン市場。
巨大なローカルマーケットだ。

6. 学割

これは学生に限られる話かもしれないが、海外の露店やマーケットでは学割が効くお店が多い。そしてその殆どが学生証の提示を必要としないのだ。

単純な話で、海外旅行に来る時点で現地人からすると「金持ち」という色眼鏡を通して我々は見られている。だが、「学生である」という話をするだけで、「金をあまり持っていない旅行客」と見なされるという訳だ。

「アイム、ステューデント」
この言葉を狂ったように言えば、同情からの値下げが期待できる。

「仕方ねえな、おまけだぞ」
という心理を狙って学生であることを主張していこう。

学割とは学生のみが持つ当然の権利である。使わない手などない。

既に社会人の君が学割作戦を決行すれば非倫理的であるから、薄っぺらくてヨレヨレのTシャツを着て、いかにもお金を持っていない感を演出することで、学割作戦とほぼ同等の効果をもたらすことができるだろう。

逆に言うと、海外インスタ映え目的オシャレ大学生たちがこれを使っても無意味という訳である。

旅は地味な格好くらいがちょうど良いとよく言われるが、それは汚れが目立たないからでもスリの標的に合わないためでもない。学割作戦の効果を上げるためなのだ。

インド、デリーのチャンドニーチョウクは世界一カオス?なマーケット。

7. 帰るふり

さあ、ここまでやっても自分の目標金額まで値下げを達成できなかったら、伝家の宝刀「帰るふり」である。

分かった、じゃあもう帰る。グッバイ。

意を決して、しかめっつらでその場から離れよう。一度は友となった間柄でも別れはやってくる。それが買い物の前か後かというだけの違いだけだ。

だが、このグッバイをすると8割くらいの確率で別れを止められる。

「分かった。この価格にするから!」
商人は黙っちゃいない。

最後の値下げ交渉は別れ際に行うべし。これは心理学的に言うと「サンクコスト効果」であろう。ここまでのステップ、特に1のステップで人間関係を構築したのだから、ここまで来て何も買わずに帰られるというのは商人からすると辛いことだ。

ただ、残りの20%くらいは何も引き止められない。これは一世一代の賭けといっても過言ではないだろう。マカオやシンガポールでカジノをする時間があったら、値下げ交渉の最後の賭けに出た方がいいだろう。

ちなみにその20%の理由は1のステップで関係性を構築できなかったことが大半だろう。

ここまできて失敗しても、それはそれで経験だ。僕だって幾度となくグッバイを言い渡されてきた。

値切りは1日にして成らず。自分が納得いくまでたくさんトライして安く買い物をする術を身につけよう。

ラオス、ルアンパバーンのローカル市場

値切ること、それは旅すること。

ここまで「安く買う」ということにこだわってきたし、この著者はまじで卑しいなと思われたことだろう。

だが、「安さ」というのは各々の主観である。値札の存在しない店で、その物の価値を見出すのは商人ではなく我々カスタマーだ。

それに、発展途上国の平均給与を調べると度肝を抜かれることが多い。これだけしか貰ってないの?と、調べればきっとそう思うはずだ。それは経済的に低迷していると言われつつも日本が豊かであるからだろう。

もし目標金額に届かなくても、「この人から買いたい」という理由が見つかればそれは永遠の思い出になる。

帰国して、マーケットで値切って買った物を見ればいつでもそこへ戻れるのだ。商人たちとの会話をいつまでも繰り返すことができる。

逆に言い値で買ったものにも思い出はあるが、その思い出は値切れば値切るほど強固なものになっていくのだ。それほど時間をかけて買ったものだから。

値切る。これぞ旅なのである。

ベトナム、ニャチャンの値切り友達(ネギトモ)

↑スリランカ、キャンディでの値切りエピソード。note×ほんのひととき【#わたしの旅行記】で受賞した作品です。値切りは受賞を呼ぶのですね(勘違い)。

「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!