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アニメで学ぶ物語文読解力向上#1「宇宙よりも遠い場所」第1話-1


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こんにちは、中受ママサポです。「アニメを使って物語文の読解力を向上させる方法」をご紹介する連載、いよいよ本編です。

良質なアニメをうまく使うと、物語文を正確に読みとれるようになります。それは、正確に読むために必要な「技術」が身につくから。ではその技術とは具体的にどんなものなのでしょうか。

それをお話する前に、中学受験国語の物語文ではそもそもどんな内容が問われているのかを確認しておきましょう。

物語文の読解で問われることはだいたい決まっている


物語文を読み取る時に一番重要で、そして最も多く問われるのは登場人物(特に主人公)の心情です。これは、

1. 登場人物の心情の変化、その変化の理由

を問われることもあれば、

2. ある時点での人物の心情(「この時の○○の気持ちを答えなさい」)

を問う設問となる場合もありますが、物語文の設問ではこれを問われることが圧倒的に多いです(某大手進学塾の2019中学入試レポート内での分析によれば「人物の気持ち」に関する出題数は401、物語文の設問全体に占める割合は55.2%だったそうです)。

その他の設問も、登場人物の心情(とその変化)を理解するベースとなる

3. 登場人物の性格

を問う問題や、登場人物の心情変化のきっかけを理解する鍵となる

4. 場面分け(例:この物語を3つの場面に分けるとしたらどこで?)
5. 場面や情景の描写

を問うものが多く、結局のところ「登場人物の心情とその変化」を理解するための設問になっています。

アニメで学ぶ物語文読解には「語彙の制約」がない

良質なアニメでは、この5つ、つまり

  1.登場人物の心情の変化とその変化の理由
  2.ある時点の登場人物の心情
  3.登場人物の性格
  4.場面分け
  5.場面や情景の描写

をとても楽に学ぶことができます。それは、語彙の制約がないからです。

物語文では、登場人物の性格や場面、心情の移り変わりを表現するために、作者はさまざまな語彙を駆使しています。ですが、これらは人生経験のない小学生には難しいことが多いです。それは、文字としては読めても、語彙の問題集で読んで意味を知ってはいても、実体験を伴わないためにピンとこない言葉がとても多いから。

この点、アニメーションでは難しい言葉を使うことはほとんどなく、しかも動画が理解を助けてくれますので、言葉の難しさにまどわされることなく、1~5の理解に集中することができます。これが読解力を大きく向上させてくれるのです。


論より証拠。さっそく、「宇宙よりも遠い場所」第1話の前半、8分30秒(キマリとめぐっちゃんが駅の改札で別れるシーン)までの動画を見てみましょう。

※動画はAmazon Primeで視聴できます。その他にも視聴できるサービスがあるかもしれませんので、「宇宙よりも遠い場所」「動画」で検索してみてください。「○分○秒」の記載はAmazon Primeの動画にしたがっています。

* * *

――いかがでしたか?では、次の質問に答えてみてください。

問1.   キマリはどんな思いで何をしようとしていますか?そして、その結果はどうなりましたか?

問2.   キマリはどのような性格の女の子だと思いますか?問1の答えや キマリの行動、セリフに注意して答えましょう。

たった一回通してみただけでは答えにくいかもしれませんが、なんとなくでも良いので一度答えてみましょう。お子さんとお互いにこうだと思う、と話し合ってみても良いですね。

では、いよいよ答え合わせです。物語文の設問に「根拠をもって」答えられるようになるための練習ですので、動画の最初に戻って、一つひとつていねいに見ていきましょう。

学校をサボってあてのない旅に出たいキマリ

まず、1分39秒~でわかるのは、キマリには「高校に入ったらやりたい」ことがあったらしい、ということです。それが

  ・日記をつける。
  ・一度だけ学校をサボる。
  ・あてのない旅に出る。

で、手帳の次のページには
  ・青春、する。

とだけ書いてありました。その後キマリが泣き出した理由は、3分51秒頃~明らかになります。高校時代には何かをしなきゃ、何となくはよくない、と思っていたのに、高校2年生になった今もまだ何もできていない自分にあせっているのですね。(←このあたりが物語が開始した時点での主人公=キマリの「心情」です)

そんなキマリが「とりあえず実行しよう」と思ったことが明らかになるのが、4分18秒~。まずは東京まで行ってその後、あてのない旅に出る。そのために学校をサボる。――つまり、手帳に書いたやりたいこと3つのうち2つを同時に実行しようとしているわけです。

さて、ここまでを見たことで問1の前半=キマリはどんな思いで何をしようとしていますか?の答えはわかってきました。

高校時代を何となくすごしたくない、何かをしなければいけないという強い思いで、一度だけ学校をサボってあてのない旅に出ようとしている

こんな感じでしょうか。

さて、残りの時間では、問1の後半=そして、その結果はどうなりましたか?を見ていくことになります。

ここで、同時に、問2=キマリはどのような性格の女の子だと思いますか?もわかってきますので、セリフと行動をていねいに追うようにしましょう。


キマリの性格は見た目ほど単純ではない

4分27秒でめぐっちゃんが「明日?」と聞いています。キマリはどうやら思い立ったら即行動!なところがあるようですね。手帳を見つけた翌日にはめぐっちゃんに「まず東京へ行ってそこからあてのない旅に出る」と話していますので、すでに計画を立てていたようです。そしてその決行日が「明日」というのですから。

では、キマリは「単純」で「行動的」「明るい」「ちょっと考えなし」なだけの女の子なのでしょうか?実はそうではない…ということが、このあとのやりとりで見えてきます。

4分32秒~「えー休むんだよ?ズル休みだよ?」「そのくらいって…」

からはどんな性格が見えてくるでしょうか?もしもお子さんが「ズル休みはできないマジメな性格」と答えたならそれは違います。(←※物語文で傍線部とその近くだけを読んで解答するクセがあるとやりがちな間違いです)


4分54秒 「じゃあさ、じゃあさ、じゃあさ…」(2回目)

のあと、キマリは何を言おうとしているのでしょうか?めぐっちゃんの言葉から判断すると「だったら一緒に行こうよ」といったことなのでしょうね。思いたったが吉日!で即行動する単純なタイプなら、決行を明日に控えた時に友達を誘ったりしないのではと思うのですが。このあたりの違和感の正体は7分頃~明らかになっていきます。


キマリの行動はどこで変わったか(心情と場面変化)

キマリの性格に関するこれらの疑問はいったん横に置いて、問1の後半=そして、その結果はどうなりましたか?を考えましょう。キマリは「一度だけ学校をサボってあてのない旅に出る」ことができたのでしょうか。

6分50秒頃~を見るとキマリは学校に来ています。あれ?旅はどうなったのでしょうか。キマリの行動をよく見てみましょう。

5分36秒~でキマリは母親に「どうしたのそのカバン?」と聞かれて「友達から体操着借りてて」とごまかし、駅へと出かけていきます。この時点では行く気十分に見えます。

6分3秒~でキマリはめぐっちゃんに電話をします。「心配しなくても学校には連絡いれておいてあげたよ」「泊まりになる時はちゃんと口裏合わせてあげるから心配しないで行って来い」と応援してもらっています。

やる気も十分。お母さんもなんとかごまかしたし、学校のほうがめぐっちゃんがうまくやってくれている。あとは行くだけ…のはずなのに、キマリは迷ってしまいます。その様子を描いているのが6分43秒~数秒間の映像です。

電車を見送り、傘のしずくがポタポタとキマリの靴の上にたれている。旅に出るならここで踏み出せば良いのに、傘のしずくをはらって動き出すことができない。そして、6分47秒。キマリのしずくがたれている傘は別な場所に置かれています。これは学校の昇降口です。セリフのないこの数秒の情景描写が、問1の後半=そして、その結果はどうなりましたか?の答えを表しています。つまりキマリは

駅までは行ったものの直前で迷いが生じてしまい、結局電車に乗って旅にでることはできなかった。

のです。傘としずくという小道具を使ってそれを上手に表現しているシーンです。このあたりは、文章で表現すると非常に繊細な描写(しかも短い)となりますので、子どもだと高確率で読み飛ばしてしまいそうです。そんな表現もアニメになっているとわかりやすいし印象に残りますね。

キマリが旅に出なかった理由は結局何だったのか

いよいよ、問2=キマリはどのような性格の女の子だと思いますか?がわかってくる場面です。

「なんでここにいる?」とめぐっちゃんに問われ、キマリは「いやあ、雨だし、ていうか、やっぱりズル休みはいけないかなあって」(6分56秒~)と答えます。くどいようですが、これも文字通りに「ズル休みはいけないと思っている(→マジメな性格)」とらえてはいけません。

キマリは「飛行機落ちるかもしれないし、新幹線大爆発するかもしれないし」と続けます(7分15秒~)。注目していただきたいのは、こう言いながらキマリが足を組んでもじもじと動かす描写があることです。これはどんな意味なのでしょうか。

めぐっちゃんはここでツッコミを入れることにしたようです。「…隕石落ちてくるかもしれないし」と続けます(7分21秒)。言われたキマリは「わかってるよ、わかってる」と少し大きな声で言います。これ、何が「わかっている」のでしょうか。

隕石が落ちてくるなんて、まあ、ほぼありえない話ですよね。そんなことを心配して外出を取りやめる人はいない。ですからここでめぐっちゃんは「(隕石が落ちてくるのと同じぐらい確率が低い)飛行機が落ちるかもしれないとか、新幹線が大爆発するとか、そんなことが本当に心配で旅に出るのをやめたって言うの?(→ほんとはそうじゃないでしょ?)」と言いたいわけです。

それが伝わったのでキマリは「わかってるよ、わかってる」と答えました。足をもじもじさせていたのは、自分の言っていることは自分でもおかしいと思っており、それはめぐっちゃんにもバレていることがわかっているので「きまりが悪い」という気持ちの表れなのです。

失敗が怖くて踏み出せない、そんな自分が嫌い

キマリは、旅に出なかった理由は今言ったことではないと認め、自分の本当の気持ちを話し始めます。8分10秒のキマリのセリフ「でも私は嫌い。私のそういうところ大嫌い」の「そういうところ」が指すものは7分台で語られています。

「直前まで来ると怖くなる。やったことがないことを始めて、うまくいかなかったらどうしよう。失敗したらいやだなあ、後悔するだろうなあってギリギリになるといつも」キマリは失敗が怖くて一歩を踏み出すことができない性格なのですね。
しかも「私、いつもそうじゃん」と言っているところをみると、ずっとそういう性格だったようです(そういえば、4分台ではめぐっちゃんに「あんたは中学のときも何もしなかった」と言われていました)。


このあたりまで見てくると問2=キマリはどのような性格の女の子だと思いますか?がわかってくると思います。キマリの性格は、

明るく天真爛漫な性格。直情径行(=感情のおもむくに任せて思うとおりに行動する)。一方で未知のことに挑戦して失敗することを恐れるあまり、行動を起こすことができない一面も持っており、そんな自分を嫌だとも変えたいとも思っている。

文字数を気にせずに書くならこんな感じでしょうか。

さらに付け加えるなら、キマリにはめぐっちゃんに対し、精神的に依存しているところがありそうです。

4分54秒の「じゃあさ、じゃあさ、じゃあさ…」でめぐっちゃんに「一緒に行こうよ」と言おうとしたキマリ。これを思い出してみると、電車に乗る前にめぐっちゃんに電話をかけたのは、心細かったからなのか、やっぱりやめなよと言って欲しかったからなのか。いずれにしても、めぐっちゃんは一緒に行くともやめろとも言ってくれなかった。その結果、キマリは自分で自分を止めてしまったのかもしれません。

「よどんだ水たまり」の決壊と解放まで、あと少し


未知のことに挑戦して失敗することを恐れるあまり、行動を起こすことができない。そんな自分を変えたいのに、変えることができない――動画冒頭のナレーションにあった「よどんだ水がたまっている」は、そんなキマリの中にたまったエネルギーの象徴です。

これまで(外に出せずに)たまってきたキマリのエネルギーが、何かのきっかけで「決壊し、解放され、走り出す。よどみの中でたくわえた力が爆発してすべてが動き出す」――それこそがこの物語の始まりです。

その「きっかけ」が訪れるのは、8分30秒頃。キマリが改札でめぐっちゃんと別れた直後のことです。

続きが楽しみですね!

* * *

いかがでしたか?
1回目に見た時よりも、主人公の心情やその変化、主人公の性格をしっかりとつかむことができた!と感じられたのではないでしょうか。

次回は第1話の後半を見ていきたいと思います。どうぞご期待ください。

2019.04.02追記 
「宇宙よりも遠い場所」第1話-2公開しました。こちらからご覧ください。

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