見出し画像

アニメで学ぶ物語文読解力向上#2「宇宙よりも遠い場所」第1話-2


(これまでの記事:プロローグ前半後半読解力向上#1

こんにちは、中受ママサポです。今回は「宇宙よりも遠い場所」第1話の残りをみていきますが、その前に、最近の中学入試国語が難しい/難しくなっていると言われている理由のひとつについて、少しお話をさせてください。

傍線部を読んだだけでは解けない問題が増えている

2019年の中学入試を終えて2~3月に参加した大手塾の入試分析会で、国語に関する出題傾向の説明として印象に残ったのは、

「難関校といわれる学校ほど、表面的に情報を処理するのではなく、文章の核心をつかみ、それを説明できるのかという本質的な力が問われます。」
(出典:早稲田アカデミー「中学入試を振り返って 中学入試報告会2019」)

のような指摘でした。

表面的な情報処理とは、たとえば「傍線部の前後」をよく読んだだけで前後の表現をなんとなくつなぎあわせて登場人物の心情を答えるような解答のしかたを指します。こうした方法では解答できない入試問題が最近増加していることを反映し、大手塾も復習テストや組み分けテスト、模擬試験で同様の問題を出題するようになっています。お子様が国語(物語文)の記述問題で得点できなくなったとお悩みの方、もしかすると、こうした問題が出題されているのかもしれません(ぜひ一度、実際の問題をご覧ください)。

表面的な情報処理でないのなら、どんなふうに読めばいいの?――四谷大塚では、2019の開成中学の物語文に関して

「抽象度の高い表現の意味を正確に理解し、その味わいまでも享受した上で的確にしかも短く要約するという、極めて高度な読解力、表現力が求められている」
(出典:四谷大塚「中学入試レポート2019 難関校から見た入試問題の傾向)

と総括しています。


心情とその変化を客観的に読み取れれば大丈夫

なんだかとても難しそうに思えてしまいますが、ここでもういちど「物語文の読解で問われることはだいたい決まっている」を思い出してください。結局のところ、大半の設問を解くカギは「登場人物の心情とその変化」です。

「物語・小説では『人物の気持ち』を問う問題が半数以上にのぼった。『できごと』や『表情・言動・態度』を丁寧に読み取り、客観的に人物の気持ちを読み取るスキルを身につけたい」
(出典:四谷大塚「中学入試レポート2019 難関校から見た入試問題の傾向)

この点を念頭に置き、今回は「宇宙よりも遠い場所」第1話の残り=8分30秒~1話のラストまでを通してみてみましょう。今回、特に注意を払っていただきたいのはキマリの行動です。行動を注意深く追っていくことで、キマリの心情の変化を読み取りたいと思います。

変化の兆し① 積極的に行動するキマリ

見終わったところで、次の課題を考えていただきればと思います。

19:29の映像でキマリの部屋はきれいに片付いていました。この行動に込められたキマリの気持ちはどのようなものだったと思いますか?

なぜこんなことを聞くのかと思われるかもしれませんが、実はここは重要なシーンです。そしてこの意味を読み解くためには、キマリの心情が徐々に変化していくことを表している「行動」をおさえる必要があります。

* * *

では早速、08:30以降のキマリの行動を追っていきましょう。

08:57 落とし物(封筒)を拾い、落とした人を大声で呼び止めようとする
09:45 拾った封筒(百万円入り)を学校に持参してめぐっちゃんに相談
10:04 百万円を落とした女子生徒を探そうとする
10:43 探している女子生徒(=しらせ)を追って女子トイレへ
11:00 勇気を出してトイレのドアをノックしようとした
11:38 しらせに「何?」と言われて一瞬ひるむが封筒のことを伝える

――こうして文字にしてみるとちょっと意外な感じがしませんか?

前回の範囲(~8:30)を見て、私たちは、キマリのことを「未知のことに挑戦して失敗することを恐れるあまり行動を起こすことができない性格」と理解しました。ですが、今回の範囲を見るとキマリは一貫して行動を起こしていますし、ちょっと怖いなぁと思うことにも挑戦しています。キマリにはもともとこういう一面があったのか、それとも、しらせ(※以下、漢字で「報瀬」と表記します)との不思議な出会いがこんなふうに行動させているのかはまだわかりませんが。

ただしこの時点で「キマリが変わった」ととらえるのはまだ早いようです。なぜなら、キマリは百万円入りの封筒のことを真っ先に相談し、落とし主も一緒に探してもらうなど、相変わらずめぐっちゃんに頼っていますので。

変化の兆し② めぐっちゃんへの依存も減少

キマリにはめぐっちゃんに対し、精神的に依存しているところがありそうだ――前回の記事では、そんな話をしました。たとえば、

04:48 学校をサボったことがあるめぐっちゃんを尊敬する表情
05:11 協力してあげる、と言われて喜ぶ表情

などの行動からは、キマリがめぐっちゃんに全幅の信頼を寄せていることがよくわかります。しかし、そんなキマリの行動にも変化が表れます。

報瀬から聞いた南極に行くとの決意とその理由をめぐっちゃんに話したキマリでしたが、思うような反応は得られません。その後のめぐっちゃんに対するキマリの行動は、

14:15 (南極に)行けるわけないのにね、と言われて即座に言い返す
14:37   報瀬は「変人」だと言われて表情を曇らせうつむく
14:48  誘いを「今日はちょっと」と断ってひとりで図書館へ
(→ 図書館で報瀬の母が書いた南極の本を探し出し、借りて読みふける)

のようになっています。

これらは「めぐっちゃんの言うことは絶対」「いつもめぐっちゃんと一緒でなければ心細い」と言わんばかりのこれまでの行動とは大きく違うもので、キマリの心情が変化しつつあることが読み取れます。

変化の兆し③ 即断と勇気で報瀬を救う

そろそろ帰宅しようと何気なく窓から外を見たキマリは、報瀬の姿を見つけて嬉しくなり、あとを追いかけます。しかしやっと見つけた報瀬は上級生に「札束持ってるんでしょ?お金貸してよ」とからまれていました。その現場に出くわしたキマリの表情と行動を丁寧に見てみましょう。

16:05 これはまずい、という表情
16:07 首を左右に振る(→誰か助けてくれそうな人はいないか探す)
16:09 決心した表情
16:11 「先生が呼んでいる」と嘘を言って報瀬を救い出す

16:07で誰か助けてくれそうな人を探していることから、キマリは本当はこの場面で上級生に立ち向かうのが怖いのだとわかります。でも、誰もいないなら自分が助けなければならない。キマリはものの数秒でそう決断して、機転を利かせた嘘で報瀬を救い出しました。この決断の速さや勇気を見ると、キマリが「未知のことに挑戦して失敗することを恐れるあまり行動を起こすことができない」人ではなくなってきている=心情が変化してきていることがわかりますね。

「じゃあ一緒に行く?」ついに訪れた変化のきっかけ

16:54 「あなたのこと応援してる」
17:37 「何か手伝えることがあったら言って」

と熱く語るキマリに、報瀬は「じゃあ一緒に行く?」「船の下見。次の土曜、ここに来て。そしたら本気だって信じる」と答えます。

意外なのに、唐突なのに、もらったパンフレットから目が離せないキマリ。

18:08 「こわくなったとか」という報瀬の声を思い出して唇をかむ
18:55   旅に出られなかった自分の姿を思い出す
18:58 「それが普通だと思う」という報瀬の声を思い出す
19:03 「行けるわけないのにね」というめぐっちゃんの声を思い出す

これまでの「一歩踏み出すことができなかった自分」から脱却したい気持ちと、それに失敗した過去。こわくなっても当たり前なんだと正当化したい気持ちと、「行けるわけない」と言われた時に感じた反発。これらを交互に思い出している様子が描かれるこの場面は、キマリの葛藤を表しています。踏み出したい。怖い。でも、今度こそ踏み出したい。報瀬と一緒ならできるのではないか――。

片付いた部屋は「過去との決別」の象徴

キマリは最終的にどうすることを選んだのか、その答えは、19:29の段階でいち早くわかります。キマリを探していた妹が見たのは、思わず「うわあ~」と声をあげてしまうほど綺麗に片付いたキマリの部屋。この第1話の冒頭で、部屋を片付けることができなくて母親に呆れられていた時とは大違いです。この部屋こそが、キマリが「過去と決別して一歩踏み出すことを決めた」心情変化の象徴なのです。

というわけで

19:29の映像でキマリの部屋はきれいに片付いていました。この行動に込められたキマリの気持ちはどのようなものだったと思いますか?

への答えは、たとえば

報瀬とともに新しい世界へ踏み出したいという気持ちと、やったことのないことに挑戦し失敗するのをためらう気持ちの間で揺れ動きつつも、最終的には、報瀬とともにいることで自分の限界を超えられそうな期待と予感に背中を押され、一歩踏み出そう、自分を変えていこうと決意している気持ち

のように言語化できるのではないでしょうか。

夜中に起き出し、自分を足止めしていた過去の象徴でもある散らかった部屋を片付け、一睡もせずそのまま駅に向かったのでしょう。弾む足取りのキマリは、今度こそ躊躇なく電車に乗ります。そして、東京駅で新幹線のホームで報瀬と再び出会うのです。

私は、旅に出る 今度こそ、旅に出る いつもと反対方向の電車に乗り 見たことのない風景を見るために

第1話前半、実現できなかった「あてのない旅」の時と同じモノローグが、キマリの心情の変化、そして物語の始まりを強く印象づけています。

***

いかがでしたか?

物語文で問われることが多い「登場人物の心情やその変化」に関する設問は多くの場合、傍線部とその近くだけを読んだのでは十分な解答をつくることができません。なぜなら、心情はさまざまなきっかけを経て徐々に変化していくものであるため、文章全体の理解が必要となるからです。

今回の解説をお読みいただきながら行動や発言を丁寧に追っていくことで、キマリの心の揺れや葛藤、変化をつかんでいただければと思います。

次回の記事では「宇宙よりも遠い場所」第5話、南極へと旅立つ直前の話について解説したいと思います。また、第1話に関連する、入試用の語彙力アップドリルも作成する予定ですのであわせてお読みいただければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?