『理念』は唱和したって浸透しない

ビジョン、ミッション、バリュー、経営理念、社是・・・

世の中の組織には呼び方は様々だとしても、組織の数だけ『理念』が存在しています。営利法人だろうが、非営利法人だろうが、地域のサッカークラブだろうが例外はありません。

もちろん、明文化されているものもあれば暗黙知として共有されているものも。とにかく、組織を運営するにあたって必要なものの一つが『理念』です。

『理念』の時代だ!

現代社会は、非常に複雑です。

物質的に豊かになったからこそ顧客のニーズは多岐に渡っており、企業が利益を得る手段も様々。「不確実性の時代」だからこそ、『理念』は非常に重要な経営資源となっているのです。

『理念』は灯台のようなものです。向かうべき方向を示して「不確実性の時代」という真っ暗闇の中でも進むべき道を間違えないようにするために存在しています。

多くの企業では、『理念』を掲げ自社のサイトや株主用の資料に声高に記載しています。それは、会社という組織が進むべき方向を示し、顧客や株主などのステークホルダー(利害関係者)に対して自社の価値観を宣言するためでもあります。

『理念』と実態の乖離は本来起こってはいけないことです。『理念』こそが経営方針を決定するための標であり、方向性を違えると組織は一瞬でただの無法者の集団に成り下がってしまいます。

『理念』が価値観となり、それが企業の文化を生み出し、一つのカラーとして成長していきます。取引先や顧客から「あの会社ってこんな感じだよね!」という段階までくれば、『理念』はかなりの浸透をしていると言えるでしょう。

自社が対外的に宣言している『理念』は今さら言うまでもなく重要なものであり、自社の社員全員が共有しておかなければならない価値観となるのです。

『理念』を大切にしそれを伸ばしていく。それこそが、現代社会という複雑怪奇な時代を生き抜くコツとなるでしょう。

『理念』はなかなか浸透しない

しかし、経営者と社員では『理念』に対しての認識の差がかなり激しいのも事実です。経営に関する悩みの種として「理念が浸透しない」というのは常套句のようなもの。

はっきり言えば、『理念』というものはなかなか浸透するようなものではりません。したがって、「理念が浸透しない」という悩みはある意味において正常です。

『理念』を浸透させるために、経営者は色々な施策を取ります。朝礼で唱和させたり、試験をしてみたり・・・などというなんとも昭和チックな対応も未だに見かける訳ですが、理念の浸透に重要なのは社員一人ひとりが「覚えているか」という問題ではありません。

そもそも大前提として、『理念』を作るのは経営者の仕事です。一般の社員が経営者の頭の中をすべて理解できるわけではありませんから、『理念』を浸透させるためには時間が必要です。

創業間もなく社員も少ない状態ならば『理念』を浸透させるのはさほど難しいものではありません。経営者が『理念』に基づいて行動し、その背中を示していればそれでいい。

しかし、ある程度組織の規模が大きくなると『理念』はなかなか浸透しなくなってしまいます。そしていつしか、『理念』は会社の壁の額縁に飾られただけのお題目となってしまい、サイト上にだけ記載されている味気のない文章となってしまいます。

せっかく経営者がうんうんうなって作り上げた『理念』も、「何だか御大層なことを書いてるな~」というものになってしまったら何ともむなしいものです。

『理念』の浸透を阻む壁

『理念』に基づいた経営で社会に貢献しよう!といくら経営者が考えたところで、浸透しなければ意味はありません。

時間も手間もかかりますが、浸透させていくことこそが『理念』を活かす唯一の解なのです。

しかし、なぜ『理念』はなかなか浸透しないのか。大きな原因は経営者の言行不一致に他なりません。

例えば、「顧客第一」を掲げているにも関わらず「売上第一」な社内体制にしている。「従業員満足度の向上」を掲げていながら「不正な残業を黙認している」といった場合。

このような言行不一致は、不信感を生むだけであり社員が『理念』に共感するはずもありません。

ちなみに、上述の例は作り話でも何でもなく、筆者が実際に経験したものです。その会社では、毎朝社員が唱和していました。そして、真逆のことをやっていたのです。そんなことなら、最初から『理念』を真逆に作ればいいだけですし、唱和している時間がもったいないだけです。

果たして、自分たちが考えたことすら実践できないような経営陣を社員は信頼するでしょうか?顧客やステークホルダーが納得するでしょうか?

言行不一致は非常に繊細ながらも重大な問題へと発展していくのです。

※筆者が例に出した企業は営業停止処分や労基署からの行政指導を沢山いただいていました。「顧客第一」「社員の幸せ」という『理念』があったにも関わらず、です。

率先垂範の意味を考える

『理念』を浸透させるためには、まずは経営陣が頑なに『理念』に従うしかありません。行動指針として、判断材料として常に『理念』を中心に据える。経営陣による言行不一致が生まれた瞬間、『理念』は紙切れに成り下がるリスクがあることをまずは知って欲しい。

経営者が思っている以上に、社員は経営者のことを見ています。だからこそ、高い自律心が求められる。その分の責任が役員報酬と給与の違いとすら言えるのではないでしょうか。

さて、「率先垂範」という言葉があります。辞書によると「人の先頭に立って物事を行い、模範を示すこと。」とあります。

経営者に求められている姿勢は、まさに「率先垂範」です。自らが『理念』に基づいて行動していない限り、『理念』は浸透しないのです。

経営者が経営陣に模範を示し、経営陣が役職者に模範を示し、役職者が一般社員に模範を示す。その中心には『理念』があり、『理念』に基づいた行動を積み重ねていくことでようやく『理念』は浸透していきます。

どれだけ素晴らしい『理念』を掲げていても、行動が伴っていなければ意味がありません。そして、行動を起こすのは経営トップからでなければ意味がありません。トップが率先して行動していない限り『理念』は軽視されてしまいます。

『理念』浸透に必要なのは、社員に毎朝唱和させることでも暗記させることでもありません。経営者自ら『理念』に基づいた行動を示し続けることです。

それがスタートラインです。人間はそもそも価値観や考え方がバラバラな生き物です。大きな集団になればなるほどその誤差は大きくなっていきます。そんなバラバラな生き物たちに『理念』を浸透させるには時間と労力がかかります。

もちろん、唱和や暗記に意味がない訳ではありません。しかし、それは二の次という話です。まずは、経営者が姿勢を示すこと。経営者が言行不一致であれば、『理念』を軽視していると捉えられてしまうわけです。

まとめ

『理念』は非常に重要なものです。だからこそ、経営者はそれをないがしろにしてはいけません。経営者自ら『理念』を守っていなければ、だれも『理念』に共感してくれません。

共感は大きなパワーを生み出します。価値観も考え方もバラバラな生き物たちが同じ方向を向いたとき、すさまじいパワーになるのは容易に想像できるかと思います。

『理念』に必要なのは、「飾られたいい言葉」ではありません。自らの価値観と行動指針、そして組織の方向性を自らの言葉で語った「生の声」でいいのです。

そして、愚直なまでに実行していく。その姿に共感する人が現れて、ようやく『理念』は浸透していきます。

せっかく作った『理念』を「単なる言葉の集まり」にしてしまうか、「組織をまとめ上げるための規範」にできるかは、経営者の腕次第ということになります。

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