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墜落女子が小さなスナックの継承を決めた夜は静か

あるきっかけで小さな場末の「スナックせつこ」に足を踏み入れ、そのまま沼にはまってしまった私は、新卒でその小さなスナックを引き継ぐことにした。

ーーと、今ではようやく言える。しかし、ママから「継がない?」とそそのかされてから、半年間「する!」だの「やっぱり...」だの煮えきらない態度を取り続け、きっと周囲には呆れられていただろう。

踏ん切りがつかなかったのは、言うまでもなく、不安があったからだ。
目をキラキラさせて「する!」と言ったプランも、当然笑われたり、不思議と怒られたりもする。そんなリアクションを真に受けてしまい、さっきの勢いはどこへやら。自信がすっからかんになり「やっぱり...」モードに戻る。これを言葉通り何度も繰り返した。

それでも「やらなきゃ」と静かに思った夜があった。

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度々言うが、自分の目標は「(せめて低空でも)明日も飛び続ける」ことだ。

これはカンボジアで働いていた一年前、完全に墜落して動けなくなったことがあるからだ。その時の苦さが痛烈に残っている。
明日も飛ぶためには、落下しそうな傾向を早めに察知し、軌道を元に戻せるような方法をいくつか自分で手札として持っておきたい。それに日々地味〜に向き合っている。

そんな自分操縦オタクな私にとっても、コロナは見えざる強敵だった。

スナックは休業し、もちろん人と会う機会は少なくなった。
じわりじわりと機体が下降に向かう。
幸いなことは、私だけでなく世間も同じということだ。
ヘルスケア、特にAIやIoTなどのデジタル技術を使うヘルステックのサービスが大盛り上がりしていた。

オタクな私にとって、こんなに嬉しい時機はない。

自分の傾向に合わせてパーソナライズしてくれるサプリメント、
瞑想を伴走してくれるアプリ、
日記を記録して、1ヶ月の気分の動向・傾向を分析してくれるアプリ
私との会話を記憶して「私にとって気持ちいい」話し相手にどんどん最適化されるAIの会話アプリ...

「そうこれよ、、これなのよ!!」と大歓喜し、色々と試した。
自分の下降傾向を分析してくれ、上昇をサポートしてくれる手札が増えた。

と思っていた。
1ヶ月後、私はどのサービスも使っていなかった。

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もちろんこれらの技術がより進化したり、サービスがさらに改善されたりするだろう。し、それを体験するのが一オタクとして楽しみだ。
それでも、現時点で感じた違和感があった。

それらの多くのサービスが「パーソナライズ」「自分にあった」をうたう。
ーーそうだ、墜落しそうな自分に寄り添ってくれる存在を期待している。
だが、サービス提供者の手中で自分が正しくカテゴリー分けされ、分類に準じて正しくサービスが提供される構図がどこまで行っても見えすいてしまう。
自分の情報を入力したデータを元にして、サービス提供者から「これが欲しかったんだろう?」の押し付け感も察知してしまう。(ここまでで分かっただろう。墜落女子は繊細で、本当に厄介で面倒だ。

もっと思ったことは、「こんなにマメに入力して、いろんな技術を利用して、自分に"最適な"何かを見つけること」は、結局何になるのか。
いや、最適ってなんだ。

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そうこう試している間に、周期的な波が来て私は墜落してしまう。
「こんなサービスも、アプリも、一方的なメディアも、本当に墜落しそうな夜に何の役に立つのだい...」

私に欲しかったものはもっともっとシンプルだ。
最適で気の利いた返しなんかはしてくれない人であり、場所だ。
それを諦めて、テクノロジーが解決するなんて幻想だ。
その片鱗を私はスナックで見た。同時に墜落女子が行きにくいのもよくわかるし、業態や文化として廃れているのも事実だ。
ーー実際、スナックせつこも今年で幕を下ろす。
それを、仮にでも渡されたバトンを受け取らずただ傍観するのが、やっぱりダメな気がした。

全国や全世界で普及するアプリではなく、カウンター席が10ほどしかない小さなスナックだからこそ生み出せる価値に、やっぱりときめいている自分がいる。
それが、全国にコンビニの数以上あり、しかし、それらの店舗が軒並み閉業になる未来が本当に近い。

よし、やるぞ。やるぞ。決意が静かに固まった夜だった。

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