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Makuake最高売上を3度更新した蒸留酒の「脱セカイ戦略」(マルチバース・マーケティング戦略 事例紹介)

・ウイスキーやラムなどお酒は樽で熟成させると香味を増します。焼酎も同じです。ところが焼酎には光量規制(お酒に光がどれくらい通るかの量による規制)があり、長期熟成で濃色となった焼酎は、いくら美味しくて高品質であっても不適合焼酎となり出荷できません。
・後にサントリー白州の技師長も認めた美味しさの不適合焼酎が世に出た裏にはマルチバース・マーケティング戦略がありました。

クリックでMakuake→『菅原水鏡 後熟シリーズ』の酒商菅原から、日本らしさにこだわった米の蒸留酒が登場


■脱セカイ戦略

市場をマルチバースと見立てることで不利な条件を個性に変えるマルチバース・マーケティング戦略のうち、「視野」を盲点以上に拡大する「脱セカイ戦略」の事例です。

「脱セカイ戦略」は、市場での苦戦を、セカイへの囚われと見なすことで、現状見えている市場の外に、より大きな市場を発見し、ビジネスのフィールドを移動させます。

■ご依頼内容

脱セカイ戦略を行った事例として、樽熟蒸留酒『菅原水鏡』をご紹介します。自社のオリジナルのお酒の開発も行う酒販ベンチャーのお客様の事例です。Makuake史上最高売上(蒸留酒)を三度達成(自社で二回の記録更新)することができました。

『菅原水鏡』は、酒商菅原の土師はじ正記店主がブレンドした麹で醸した樽熟成された蒸留酒です。

麹で醸した蒸留酒は、普通は焼酎として出荷することになるのですが、『菅原水鏡』は長期熟成のため年代物のウイスキーのように樽の色がついてしまい、そのままでは酒税法に関係した光量規制のために不適合焼酎として市場に出せません。
「不適合」といっても、品質に問題があるのではなく、規制より色が濃いという一点のみで流通が許可されないだけなので、やむを得ず食物繊維を配合してリキュールとして販売しています。これを「ジャパニーズウイスキー」として販売するにはどうしたらよいかというのが、最初の依頼内容でした。

■あふれる熱い思い

ウイスキーでないものをウイスキーとして売るのは酒税法上御法度です。それをわかった上で可能な道を探りたいという土師店主を突き動かしているものは何か、まずはじっくりその熱い思いを聞かせていただきました。

土師店主の「ジャパニーズウイスキー」の考えは次のようなものでした。
・焼酎業界は販売不振が続き、売れない焼酎を樽で保存している蔵が多い。
・焼酎は、何年も樽で寝かせると色が付いてしまい、光量規制のために焼酎としては売れない。
・一方で、ウイスキー業界はジャパニーズウイスキーのブームで原酒不足であり、2030年までは解消されない。
・海外では長期樽熟成本格米焼酎がライスウイスキーとして売られている。
・日本のウイスキーの製造は高峰譲吉博士が麹で醸したのが最初であり、妨害により商用化はされなかったが、樽熟焼酎こそが日本のオリジナルウイスキーである。
・したがって樽熟焼酎は「ジャパニーズウイスキー」として販売するべきであり、高峰博士も報われる。それが焼酎業界を救う一番の道である。

長期樽熟成した焼酎こそが日本のオリジナルウイスキーであるとする土師店主の発想は過激なものですが、何がオリジナルの日本ウイスキーであるかという真贋論争を棚に置いてしまえば、焼酎業界の苦境を国産ウイスキーの歴史のはじまりにさかのぼってウイスキー市場と接続することで脱する「世界線戻し戦略」を取ることができそうですが、酒税法の壁は厚そうです。そんなことを考えながら、焼酎業界全体を救いたいという土師店主の熱い志に共鳴し、お手伝いすることにいたしました。

STEP1【認知不協和確認】マイナス要素とありえない事実の存在確認
[ジャンルの主流]・焼酎は木樽熟成しない
[アイデンティティへの抵触]・長期木樽熟成焼酎は、光量規制により市場に出せない
[ゴール]・ウイスキー市場で販売したい(可能か?)

■脱セカイ

最初は、第三のビールに倣って「麹ウイスキー」という愛称で売り出すことを考えました。第三のビールは、「第三の」という限定詞を付けることで「ビールでないビールのようなもの」であることを表現しており、酒税法上はリキュールやその他の醸造酒に該当します。長期樽熟成焼酎をベースにしたリキュールも「ウイスキーでないウイスキーのようなもの」であることを表現すれば良いのではないかと考えたのです。「麹」は、酒税法上ウイスキーに利用できませんから、「麹ウイスキー」なら「ウイスキーではないウイスキー」の表現にピッタリです。

残念ながら「麹ウイスキー」は世に出ませんでした。福岡国税局から商品まわりへの使用許可が下りなかったのです。ウイスキーでないものをウイスキーと誤認させてしまうからという理由です。「麹ウイスキー研究所」のように、商品ではないものに使用するのはOKとのことでした。「第三のビール」もビールに誤認されてしまうのでは?との問いに対しては、第三のビールとうたっているのは生産者ではなく流通や小売りであり、また第三のビールの生産者とビールの生産者は同じであるなど「麹ウイスキー」とは状況が違うので比べられないとのことでした。
また、『菅原水鏡』の開発に中心的な役割を果たしていた方の反対もありました。『菅原水鏡』の香味は世界的にも独自のものなので「麹ウイスキー」をキャッチフレーズに使うのは開発のベクトルが違うというご意見です。

焼酎としては不適合であり、麹ウイスキーも名乗れない。いくら美味しいお酒でも、なんだか分からないものを消費者に受け入れていただくのは大変です。こういった場合には、思い切って日本特有の事情から抜けだし、既存の市場とは別のところに市場を見出すしかありません。香味が独自な蒸留酒なのだから、その独自性に開き直って勝負です。

STEP2【セカイ確認】新ジャンル移行が合理的であることの確認
[既存ジャンルとの不整合]
・光量規制のため、焼酎としては出荷できない。
・「麹ウイスキー」はキャッチフレーズに使えない。

■ナラティブの創造

土師店主と改めて対話を重ね、救いたいのは焼酎業界であって焼酎という名称ではないこと、麹ウイスキーと規定せずお客様に自由に判断してもらうことで整理をつけていただきました。

マーケティング戦略としては、ジン、ラム、ウォッカ、テキーラに続く世界第五のスピリッツを目指すことで、世界に唯一無二のお酒であることを明確に打ち出すことにしました。
焼酎もウイスキーもテキーラも蒸留酒のカテゴリーの一つです。そこに新たなカテゴリーを確立することが『菅原水鏡』の新しい目標となりました。

焼酎業界を見定め、そこから視野を広げたことで、『菅原水鏡』は、焼酎というセカイから脱し、ウイスキーという他のセカイに移るのではなく、蒸留酒(スピリッツ)というそれらを含むより広い市場を得ました。

こうして位置する市場が決まり、それを前面に打ち出してMakuakeに出品したところ、売上げが1千万円を超え、蒸留酒としてMakuake史上最高の売上げを達成することができました。

焼酎やウイスキーといった既に確立されているカテゴリーではなく、まったく新しい世界観で勝負することになった『菅原水鏡』は樽のバリエーションで新商品を重ねることになります。

いずれも他のお酒と比較することのできない唯一無二性を前面に出し、これが「アタラシイモノや体験の応援購入サービス」であるMakuakeのコンセプトと一致したことが評価され、蒸留酒としてのMakuake史上最高の売上げを酒商菅原が自社で二度更新し、計三度の最高売上を記録することができました。

STEP3【創造的調査】セカイ相対化・ジン、ラム、ウォッカ、テキーラに続く世界第五のスピリッツを目指す新ジャンルの蒸留酒として自己定義

STEP4【ナラティブ創造】脱セカイのナラティブ作成
・「麹ウイスキー」への挑戦から始まった木樽熟成焼酎の取組みが新ジャンルの蒸留酒を誕生させた経緯をナラティブとして訴求

STEP5【マーケティング展開】ブランディング・マーケティングへの着地
・「アタラシイモノや体験の応援購入サービス」であるMakuakeにぴったりの蒸留酒としてMakuake史上最高の売上げ(蒸留酒)を三度達成


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