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短歌

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短歌066

言葉ってものを吐いたら吐いただけ手のひら汚れて癖になってて

べろべろと他人の舌に唇を舐められてるの気付かず話す

手の首を欲という手に絞められて連れていかれることを拒めず

目の玉を夜の水面へ落としても底を漂う星に届かず

テレビ台白いおひげがびっしりと生えてて指でざらざら遊ぶ

短歌065

はいこれも持ちなさいって唇を胸やら肉を抱えさせられ

何一つ通じないから言葉ってもので分かったふりをしている

熱っぽさ怖いのなんで近いうち炎とするの分かってるから

甲高い響きに我慢できんからブレーキかけんと突き進むんやね

トントンとその場で跳んで頭から澄んだ夜空へ落ちていこうと

短歌064

剥き出しの足で地面を踏むことを思い描いて靴下履いて

分かってるつもりになってる唇が好んで食むの想像の飴

自らの感覚考え疑わず他人のそれらばかり疑い

XやYをそのままにはできず代入しては解いた気になり

腰かけて足をぶらぶらさせながらかかと削って見た町の熱

短歌063

明るさが見向きもせずに踏み砕き欠片になった朽葉拾って

発露した攻撃性に正義とか道徳なんて名前をつけて

黄緑にしがみついてはゆらゆらと大気に浮かぶ蝉の抜け殻

お前など存在価値がないんだと言われてこころ微笑み軽く

流木の朽ちたところを親指で埋めて見下ろす足呑む土を

短歌062

響かない掠れるような声出してひっそり夜の深く沈めて

宝物だったら奥へ隠さなきゃ見せびらかしても傷がつくだけ

自らの感覚だけが正しいと思ってるから罵倒すんでしょ

駆け抜けてしゃがみ歩いてよじ登るそんな理想にひどく焦がれて

特別や意味ってものが奪ってく空もご飯もにおいも夜も

短歌061

比較っていう土必死に掘り続け握り締めたの濁った赤で

着せられた名前を脱げばはだかんぼなれば捕まるだから脱げずに

楽になるために自分を愛しても結局はただ騙してるだけ

息を噛みそうして飲んだつばの味苦くてきつく歯ブラシ握り

こっちだよ幸せの道引っ張っていく人の手の爪が食い込む

短歌060

前の日とまったくおんなじかっこして両手後ろにうんと遠くへ

一時間おんなじ場所にいた川の痩せた鳥見てふっと微笑し

手のひらにないものばかり見えていて刺さる陽光見えないままで

ぬかるみの冷えとやらかい感触に足を浸して潮を嗅ぎ嗅ぎ

嬉ションをしてるわんこにがおーって両手と笑みで威嚇してみて

短歌059

砂なでて土をえぐって石食べてぺっぺと吐いてまた砂なでて

側溝をずんずん進むカラスまね今はもうない秘密基地へと

馬鹿にして馬鹿にして馬鹿にして馬鹿にして馬鹿にして支えにして

生きろって石をいくつも投げ込まれ波紋広がる命濁って

煙ってる山を見上げて肌さすり冷たい朝に深くうつむく

短歌058

ひゅうひゅうと腕を広げて駆けてゆく風の胸元名札はなくて

するすると垂れた光の綱手繰り絞め上げ吊るす終わりの首を

呪って呪って呪って呪って呪って呪詛がもたらした受肉

にこにこと微笑みながら人のこと否定し続けそれに気づかず

散らばった日影のかけら寄せようとモザイク窓に触れれば濡れて

短歌057

甘くって吐いたあめ玉ゴミ箱に入らず落ちて陰毛のヒビ

そのやせた体をそっと抱き締めることで救いの温度に触れて

言葉と言葉をこすり合わせて燃やした暖を取るために他人を

綺麗だなぁ綺麗だなぁっていくらつぶやいても濁ったまま臭くて

濡れた壁に手をつき鼻すすればガス代に頭撫でられて出た

短歌056

電柱もカラスも朝もできている気持ちの悪い言葉ってもので

磨かれた鏡の浮かぶ秋空に映らぬ世のなかそぞろ歩いて

木枯らしと戯れ光る前髪をよけてはよけてよけて切ろって

価値という物差しで肉切っていくふりしてるうちほんとに切れて

自らの呼気だけにおう古ぼけたベンチのうえで私は話す

短歌055

仰いだらみ空の鏡へさらさらと息も心も落ち込んでいき

ふぅふぅと黄色の風船ふくらませみかんの皮の汁かけ笑い

ため池に並び浮かんでいる鳥の生んだ波紋のように燃えたい

近づけば相手は自分のなかで死に自分は相手のなかで息絶え

体温が一度違っているだけで人は相手を溶かし殺すし

短歌054

掃除機の吐息に鼻を舐められてかつて過ごした家の間取りが

人声の遠くでふくらむ気配嗅ぎ背もたれに首そっと預けて

手で文字を書くこと忘れて久しくてそれを忘れたことも忘れて

あの黒い翼のようにトットッと地面を跳ねてみたくて笑う

とろとろと雨声のはしゃぐ声を聞き文字で真白に音をスケッチ

短歌053

命って珠には死というヒビがありある日突然そこから裂けて

くちびるの本質はただたらしだと知っていながら言葉を継いで

仰向けば裂かれた月が熱せられ蒸発してて目玉が蒸れて

海水に絡んだ網をたぐり寄せ寄せれば寄せるほど傷しみて

天井の隅で震える銀の糸月光で濡れ白くきらつき