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”ふまねっと”を世界中へ広げたい

話し手:北澤一利さん
 NPO法人ふまねっとの理事長であり設立者
聞き手:小林千絵美
 北星学園大学 文学部 心理・応用コミュニケーション学科所属 3年

北澤さんが抱いていた問題意識

 私は3年前まで大学で体育の教員をしていました。体育の授業の主な目的は学生の健康づくりです。けれども、一般的にそれがとても強制的に行われているという問題意識がありました。まあなんていいますか、処罰的っていったら言い過ぎですけど、体育の授業は必修になってますからほとんどの学生が自由に選べないわけですよ。
 なぜその健康づくりを私たちは、国民は、子供は、学生は、強制されなければならないのか。その強制さというのに疑問を持っていました。それで、そもそも健康とは何か。これが私の大学の教員のときの研究テーマでした。それは今でも変わりません。


問題意識から見えた活動の原点

 競うのが好きじゃないわけではないんだけども、人はみんな競おう競おうとしますよね。競争が好きな人はそれはとても心地良いと思うんだけども、そういうのが好みではない人も中にはいます。足が速い人とか、運動が上手な人は、いつでも注目を浴びることができるけども、運動が苦手な人、「ウンチ」って言うんだけどさ、運動音痴ね。運動音痴の人は愉快じゃないじゃん。
 「ウンチ」の人は、その場だけ我慢するだけだったらいいんだけど、僕は長く見ていて、学校の体育の時間で「ウンチ」の人は、その後の人生でも、もう運動がいやになっちゃから楽しめなくなっちゃうんだよ。コンプレックスを持ってね。そうすると、その人のその後の長い人生でさ、運動に一歩も二歩も抵抗というか劣等感を持ってしまうので、あまり進んでやらなくなっちゃうんです。僕はそれがすごく大きな現在の体育の罪というか、問題だと思います。
 学校教育全体がそうなんだけど、体育に限らず、子どもに劣等感を与えてしまうと、逆に負の荷物を追わせちゃうような結果になるだろうと感じます。それでやっぱり「ウンチ」の人が運動いやだといってやらないのと同じです。格好悪いって。それは教育の負の効果だと思います。そこをなんとかしなきゃいけないなというのが、今私がやっている活動の原点になります。


NPO法人として設立するきっかけと経緯

 私は今やっているNPO法人の設立総会を、2005年の6月1日にやりました。それはNPOを設立するときに法律で求められている設立総会です。
 私は教育大学の生涯教育コースに所属する学生たちと地域の健康づくりをやっていて、その活動で学生と地域住民と一緒に健康教室を始めたんですね。大学の体育館を使って、週に一回住民が来て、学生たちが体操を教える。そういう健康教室を大学でやったんです。
 地域貢献もかねて、大学の地域の健康づくりの貢献もできるし、学生たちのコミュニケーションの勉強にもなります。学生はあいさつをして、堂々と運動を教えてやる練習をするのです。しかし、みんな恥ずかしがってもじもじするから、そういう学生の教育の場にもなってとても良い勉強になります。それを2003年~2004年くらいには既にやってたの。NPOになる前にね。
 そうして毎週健康教室をやり始めると、住民が一生懸命協力して集まってくるじゃん。でも、大学ではこうした社会貢献活動をずっと継続することができないんですよ。学生はみんな卒業してしまいますし、アルバイトとか就職活動とか採用試験とかで忙しいですから。
 そうすると、住民は毎週来るけども、担当する学生はみんな忙しい時間の合間を縫ってやるから、流動的になるんですよ。ここが現実なんですね。そうすると、せっかく始めた大学の社会貢献が、不安定になっちゃう。学生の都合でやったり、やらなかったり。安定的にきちんといつも同じような健康教室ができるかというと、できないわけです。
 アルバイト代でも出すことができれば、学生も健康教室に継続して参加できると思うけども。最初の一回や二回はいいんだけど、やっぱり毎週学生が協力してできるかというと、そうではないわけ。そうすると、大学が地域貢献としての健康教室をやったりやらなかったりすることになり、だらしないことになります。ボランティア活動や社会貢献社会活動っていうのはみんなそうですね。ボランティアさんの都合で、やったりやらなかったり。自分の善意でやりたいときだけやる。仕事じゃないから。やりたくなきゃいつでもやめる。そういう活動なんです。
 これだと社会貢献も十分にできないし、安定的な健康教室もできないし、健康づくりなんかできるわけがない。せっかく教育大学がこうしてやってるんだよっていってみんな協力してくれてるのに「あれ~今日お休みなの!?」ってなっちゃう。
 そうすると、やっぱり社会貢献とか社会的活動っていうのはそれに参加してくれる学生なり住民なりの人たちの支えとなるような組織がきちんとあって、やってくれたら学生にもそれなりにアルバイト料とまではいかなくてもちょっと何か支援ができて、それでその活動を継続していけるような仕掛けが必要なんです。
 活動を継続するためには、自分で一度始めたことに責任をもつためには、その事業をやるための組織が必要になるだろう、だからNPO法人という組織を作って活動が継続するための仕組みを整える必要があるなと。それで、NPO法人を設立することにしたのです。
 学生が卒業していなくなっても、その人は社会で活躍すればいいんだけども、そこで始めた健康教室はじゃあそこで終わりというわけにはいかないなと。そこに責任を感じたので、ちょうどその頃NPO法人という制度ができていたから、その時の学生と住民でNPOを作ろうと。この活動は地域のためになるから、この活動をNPOにして、寄付を集めて、学生たちにも支援をして、それで活動を継続していこうと決めたんですね。


理事長として携わる中で意識していること

 経営なので、職員にお金を払ってこのNPOという一つの会社をつぶれないように維持していくためにどうしたらいいかっていうことはいつも考えています。
 NPOの場合は普通の会社と違って、利益を上げるためなら何をやってもいいってことではなくて、社会貢献というのが一つの運営の大きな目的なので、それをやりながら収入を上げるのはなかなか難しいんじゃないかな。だからみんな寄付をもらってやるんですよ。
 でも寄付はそんなに簡単には集まらない。信用がないと。そういうことで普通のNPOはなかなか大変だからね。その経営をするやりくりっていうのは今でも安定しているわけではないので、毎日どうしたらいいかっていうのは考えながらやっています。


まちづくりに繋がっていると感じる瞬間とは

 そもそも“まちづくり”とは何かっていうことだと思うんですよ。どうなったらまちづくりができたと言えるのか。
 何もないところに建物を建てて、お店を作って、道路を作って。そこに町ができたかというと、そうとはとはいえないと思うんですよね。「私はこの町が好きだ」「この町にいたい」と、町が好きになってそこに住みたいという気持ちがたくさん高まっていくのがまちづくりだと思うんですよね。
 それには友達が多い、歓迎してくれる人が多い、受け入れられているなと思うこと、私もたくさんの人を受け入れて話ができる...と、そういう関係がすごくたくさんあって、安心していられるような場所で。孤独感もあまり感じなくて、なにかあったときにはすぐに相談して助けてあげるけど、私も何かあったらすぐに助けてもらえるような、そういう町をみんな住みたいと思うんじゃないかと思うんですね。
 ここまでは多くの人がそうだというと思うんだけど、じゃあどうやったらそういう町ができるのかと。
 それを作るための方法はなかなか難しいと思いますよ。例えば、だれか一人が「私はまちづくりをやりたい」とアクションを起こしても、周りの人も同じように付いてくるとは限らない。だから、周囲の人も同時に変わらないとまちづくりはできない。あなたが一人変わっても町はできないんですね。何か同時にみんなできっかけがあるとそういうのがスムーズに偶然できてしまうことがあると思うんです。そこで、このふまねっとには、参加する人の気持ちをいっせいにつかむ、まちづくりの一つのきっかけになると思うんですね。
 だから運動というのは、筋肉を鍛えたり、速く走れるようになるとか、そういう筋トレスポーツ系の運動だけじゃなくて、初対面の人とか、障害を持つ人とか、なかなか関係づくりが苦手な人、そういう人でも自然に笑ったりほめたり励ましたりっていう、一つのきっかけをつくりだすツールとしての運動があるといいんじゃないかなと思ったんですね。
 そういうコミュニケーションの偶然的な関係づくりにつながるきかっけが生まれるのが運動だと思います。だからみんな楽しいっていって何度もふまねっとに参加してくれるんじゃないかと思いますね。


オンライン教室を始めてからの変化

 オンラインで参加している人のほとんどが既に私たちと長くふまねっとをやっているボランティアさんなんだけど、2月、3月くらいからオンラインで始めますよとなって、そこから初めて参加してくれる人も何人かいました。
 その人たちはやっているなかで、歩行が改善したっていう話があったけども、なんかやっぱり最初より声が明るくなって、挨拶ができるようになって...楽しみにしてるって言ってずっと参加してくれている人がいますね。
 一人で一日中家にいるとおかしくなっちゃうじゃん。だけど一回だけでもみんなとあいさつして声を出してちょっとだけ体を動かすだけでも大分違うと言ってました。そういう、多少の他の人との交流の機会にはなっているんじゃないかと思います。


オンライン教室の現状と見いだせる利点

 私達NPO法人の職員は、事務所のこの広々としたところで伸び伸びやるんだけど、参加しているみなさんは結構窮屈な部屋でやってます。あれでは爽快な気分にはならないって感じです。
 自宅でふまねっとをのびのびとできる家はあんまりありません。狭いベッドの横とか応接間のテレビの前でやります。これではのびのび動くのは難しいようです。しかし、コロナ禍で外出自粛をしているので、交流が楽しいからとか、家の中でじっとしてると頭がおかしくなっちゃうから、狭いところで窮屈だけど、それでもいいから参加するという感じじゃないかなあ。
 ただオンラインでもいいところがあると思うんだけどね。
 対面型のふまねっと教室は、せいぜい参加できても週に一回だと思うんですよ。週に一回ここにきて運動するだけだと高齢者にとっては生活機能を維持するためには十分ではないんだよね。高齢者の歩行機能とか認知機能は何もしないとどんどん低下していくから。
 そこで、毎日家で30分、ちっちゃなふまねっとでもオンラインで練習することができれば、大きな予防に繋がると思う。狭くて窮屈だけどね。
 外を毎日散歩できればそれはそれでいいんです。でもそこまでできない人もいるから、そういう人は毎日家でやるのがいいんじゃないかなあ。そういう意味でおうちでふまねっとは、歩行機能の改善や認知症の予防という点では家で毎日できるので良いと思います。


ふまねっとのこれから 世界中へ広げたい

 これからの時代は、IT化がすすむ反面、コミュニティづくり人間関係づくりでみんな苦労するんじゃないかと思います。私達は、そこに何か貢献したいと思います。認知機能とか歩行機能の改善という効果は、それはそれで重要なニーズが高齢化していく地域にはあると思うんだけども、それをやりながら、この運動をやると交流ができていいね、寂しくしている人が少なくなっていいね、友達が増えるねという効果を求める人が多くなると思います。
 あとは高齢者の社会参加です。それが私達の主な使命です。高齢者に教える役割を提供しようということです。そういう高齢者が増えれば地域のまちづくりに繋がるんじゃないかと。そしてそれを世界中に広げていきたいと思っています。
 具体的には、アメリカ韓国中国シンガポールでも、この資格を取ってやってる人がいるんです。そういう人たちと上手く連携して拠点を作って広げていくことができるといいなと思っています。そのためには、まずはこの自分達の現在のNPO法人の経営の基礎基本をきちっと作らないといけませんね。


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