別れ際、地下鉄の改札で

別れ際、私は貴方と、すぐに別れられない。
改札の前でつい、帰りくないと言ってしまう。
貴方も別れるのが名残惜しいと思っていてくれたらいいのに。
人混みや、地下鉄の小さな改札の前で、ぶつかるよと腕を引いてくれるあなた。
私の知らない世界を知っている貴方。
自分は何か与えられているだろうかと少し不安になるから、この改札を通ったら二人のつながりがぷつりと離れていくような気がしてしまう。
またねというのはこれで最後になってしまうかもしれないなんて考えるから、言えない。

別れ際、後ろ姿に何度もまたねと言ってくれる貴方が好きで。
別れ際、ハイタッチしようとしてくる貴方が好きで。別に特別な事をしてくれなくていい。ただ、そんな貴方が好きで好きで堪らない。
どうして好きなのに、素直に言ってしまえないのだろう。好きだと、叫んでしまいたい程には好きなのにな。

イヤフォンから聞こえる榊原香保里の歌声が心地よい。このアルバムを聞き終わるまで、少し遠回りをして帰ろう。
気持ちがぐちゃぐちゃになるのは初めてだった。いや、恋が、初めてなのだな。私は恋をすると無意味にこんな事に悩むのかと今日もまた新しい自分との対面。
自信が無くて、いつも縮こまって、変わりたいと思う反面、それもまた、私だと思う。若くて未熟、歪な人間だけれどそれもまた、長い人生という旅のある地点に過ぎないと、思う。
火照った体温を冷ますように夜風に当たりながら考える事はいつも同じだ。
次はいつ会えるのだろう。

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