見出し画像

住民とともに作り上げるスマートシティ ―メディアワークショップを終えて―

スマートシティとは何か?

結局、この質問への回答が一番、難しいと思います。スマートシティと聞いて人がイメージするものは様々だからです。例えば、先般撤退が表明されたGoogle姉妹会社のSidewalk Labs社によるトロント市の計画のような未来都市的なイメージで捉える人もいるでしょう。一方で、先日発表された株式会社インテージリサーチのスマートシティに関する調査では、1万802人に聞いたアンケート結果から、スマートシティと聞いて期待する分野として、上から順に、防災、高齢者・子供の見守りと続いています。

このように、恐らく現時点では、多くの日本人にとってはスマートシティと聞いてイメージするものはバラバラで、一般的な感覚だと、「自動運転が街を走ったり、ドローンがモノを配達してくれたり、ロボットが家事や見守りに役立ったり、そんな時代がいつか来ますよという感じですよね?」と自分ゴト化できないのが現状ではないかと思います。先日あるメディアの方との会話の中で、各都市がなぜスマートシティに取り組まねばならないのか、何を実現したいのか具体性が見えづらいとお話がありました。これについては、各都市共通の課題、個別の課題とありますし、広くDX化が必要という意味では、確かに具体性がない中ではイメージしづらい部分もあるでしょう。どのようなナラティブを構築できるのか、各都市のサポート役としても引き続き考えていきたいと思います。

非常に難しい「市民の声を集める」ということ

さて、そうした中、日本では、スーパーシティ法案が可決したことや、政権が変わりデジタル庁に関する議論が出てきたこと、コロナ禍において、実際に生活様式を大きく変えていく必要性が生じた事もあり、使い勝手の良い”スマートシティ”という言葉はますます注目を集めているのではないかと思います。「家にいながら授業を受けられるべきじゃないか」であるとか、「投票所に行かないでネットから選挙はできないのか」といったような声も様々に聞かれるようになり、日本社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた議論が活発化しているのを感じています。私ども世界経済フォーラム第4次産業革命日本センターでも、先日G20 Global Smart Cities Allianceのパイロット都市プログラムに参画する浜松市、前橋市、加古川市、加賀市の4首長をお招きし、メディアワークショップ「スマートシティの最前線で、何が起きているのか―競争から協調へ」を開催し、この点について議論を行いましたので本日はその辺りを紹介したいと思います。

このワークショップを通しての主なテーマは、「どのように住民との合意形成を図るのか」でした。各首長から現状の報告やどういった点が課題かなど、いくつかお話を頂きましたが(詳細はこちらの記事をご参照ください)、中でも重要な論点の一つは、「自治体が必ずしも住民の声を集められていない」ということだったと思います。住民集会やワークショップなど、様々な取り組みを自治体が企画しても、関心を示す市民は残念ながら少ないし、それを報じるメディアも少ない。結果として議論は深まらず、情報の非対称性が縮まらない中で、何かを行う際に、プライバシーやセキュリティの問題があると批判されてしまうのは残念なことであると、こういった議論がありました。確かに、セキュリティ等に関するリスクは、これは自治体がどんなに努力してもゼロにはならないので、何かあった際にどうするか、リスクをどこまで許容するかを議論し、合意できるポイントを探ることが大事なのに、そうした議論が行われておらず、ただリスクがあると批判されてしまうというのは、それ自体が問題だとも感じます。こうした状況では、政治家も行政も委縮し、新しいことにチャレンジする事に対し及び腰になってしまうのは当然でしょう。

ただ、こうした議論は今に始まったことではありません。カリフォルニア州知事のギャビンニューサム氏によるCitizenville(邦題「未来政府」)の中でも、氏が、いかに住民の声を集めるために様々な取り組みを行ったかが語られていますが、例えば、インターネットを用いた市民集会というアイデアはその一つでしょう。自宅にいながら市民がアクセスできるので、子どもを預ける先を見つけるのが難しい子育て世帯や介護等で目が離せないといったケースにおいても、会場に行かずして意見を届けることができるという意味では、より多くの声を拾える機会には繋がるのではと思います。一方で、誰でもアクセスできるようになることで、必ずしも市民ではない方で、特定のイデオロギーを持った人々が多くアクセスし、議論を一定の方向に寄せてしまうといったリスクも孕んでいます。先日も、GSCAのパイロット都市である前橋市がスーパーシティに関する住民説明会をネット上で公開し、コメント欄には賛成・反対を含む様々な意見が寄せられていました。当日の視聴者は300名を超えており、コロナ禍にあって、デジタルツールを活用したコミュニケーションの必要性を感じたイベントでしたが、健全な議論を積み上げていくためには、投稿におけるルールや書き込まれるコメントの信頼性や透明性といった点にも、向き合っていく必要があると改めて感じました。

加古川市で始まったDecidimの可能性

こうした状況の中、加古川市は市民の声を拾うツールとして、バルセロナ市等が採用しているDecidimというプラットフォームをCode For Japanと協力し立ち上げ、その運用を開始しています。11月21日には市民向けのワークショップを開催し、広く市民に活用されるべく様々な取り組みがなされています。私が聞いたところによれば、この記事を書いている11月24日時点で、登録者は100名を超えており、その内訳の中で半数近くが高校生、中でも7割程度がPCからではなくスマートフォンからアクセスしているとの事でした。多くの高校生が自分たちの街をどうしていきたいかという議論に参加しているという事実は、若者の政治離れが一般論として叫ばれている中では、非常に注目すべき結果ではないでしょうか。

一方で、インターネットを使い、誰でも書き込めるプラットフォームだからこそ、議論しなければならない点があるのも事実です。例えば、運営に際して、投稿は実名で行うのか匿名で行うのかといった論点はその一つでしょう。実名でなければ本当にそうなのかわからないという信頼性の問題がある一方で、匿名だから言いやすいという側面も事実です。他にも、登録時の本人確認の有無や厳格性といった点も重要な議論かもしれません。現在の加古川市のDecidimの仕様では必ずしも市民でなくても参加できますし、匿名で投稿できるようになっていますが、できる限りリアルな市民の声を拾っていくためにどういう設計がいいのかは引き続き議論が必要な部分ではないかと思います。この辺りについては、是非引き続き、ワークショップに参加されたメディアの皆様とも建設的な議論ができればと考えております。

言うまでもありませんが、現在のテクノロジーを使えば、機械学習されたコンピューターが人に成り代わって投稿することだって不可能ではありません。こうしたプラットフォームが正しく運営されていくためには、改めてルールや原則といったものを確かめながら前に進めていく必要があるのです。なお、加古川市はDecidimのサイト上にスマートシティ実装のための5原則を掲げており、これは私どもGlobal Smart Cities Allianceで定めている基本原則に準拠しています。私どもとしても、引き続き同市の取り組みを注視し、全力でサポートを行っていければと考えています。


執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
スマートシティ プロジェクトスペシャリスト
G20 Global Smart Cities Alliance(GSCA) 平山雄太

平山雄太


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?