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デジタル庁「デジタルを活用した交通社会の未来2022」で紹介されました!

8月1日にデジタル庁からデジタルを活用した交通社会の未来2022(以下、本報告書)が発行されました。本報告書の「国内における課題解決の事例」の項目で、当センターで取り組んでいる広島県庄原市の事例を取り上げていただきました。

本報告書では、国内外のデジタルを活用したサービスの成功事例の紹介を通して、「サービス設計に当たっての11の視点」が提言されています。
たとえば、「『暮らし目線』で目指す先を考える」、「小規模な取り組みからスタートし回しながら大きくしていく」、そして「強調領域の考え方『共助のビジネスモデル』」といった提言が挙げられ、これらは庄原市での取り組みでも実践されています。

本記事では、庄原市の取り組みを中心に、デジタル時代の交通社会システムの実現に向けた、いくつかの重要なポイントをご紹介していきます。

報告書の全文はこちら:https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/22791050-006d-48fd-914d-e374c240a0bd/1ae00570/20220802_news_mobility_outline_01.pdf


デジタル技術を活用した経済モデルの転換とその課題

本報告書では、デジタル技術を利用した交通社会システムの実現の必要性は、日本の人口減少という根本的な理由から迫られていることが述べられています。すなわち、人口減少にともない、需要が供給に合わせる経済モデルがより成立しにくくなっていくということです。

そのため、シェアードエコノミーなど、供給が需要に合わせる経済モデルへ転向する必要性があります。

この転向の必要性は、交通サービスも同様です。
たとえば、乗客がバス停でバスを待つというサービスモデル(需要が供給に合わせる経済モデル)から、サービス車両が乗客の望む時間に、望む場所に迎えに行くサービスモデル(供給が需要に合わせる経済モデル)への転換が要請されます。

デジタル技術は、この経済モデルの転換を可能にする手段として考えることができます(図1)。

図1:新たな生活経済モデル(報告書より)


需要を中心に据えた経済モデルとは、言い換えれば、地域住民の暮らしの課題(ペインポイント)を解決することに重点を置いたモデルと言えます。

そのため、日本におけるデジタル技術を利用した交通社会システムの実現とは、人々の暮らしの視点から将来像を描き、そこからバックキャストして交通システムのあり方を考え、実現していくアプローチを取る必要があります(図2)。

図2:供給が需要にあわせる経済へ(報告書より)


広島県庄原市での取り組み──評価された4つポイント

先述の課題に取り組みながら、社会実装へ向けた取り組みの事例として、当センターで取り組んでいる広島県庄原市の事例を紹介していただきました。当センターでは、人口減少の進む広島県庄原市において、様々なデータを利用して地域交通の課題解決に取り組んでいます。

庄原市での取り組みで、特筆すべき点は主に以下の4つにあります。

  • 消費データと移動データの掛け合わせによる、多角的な地域課題のみえる化

  • 産官学にまたがる幅広いメンバーが参加するガバナンスモデル、「地域データフォーラム」

  • アイデアから迅速にアクションを実行し、再び課題感を探る、アジャイルなPDCAサイクルモデル

  • 「実証」ではなく「実装」を目指す(地域の課題に根ざした施策づくり)

図3:「デジタルを活用した交通社会の未来2022」内での掲載部分(報告書より)


現在庄原市では、移動データと消費データを掛け合わせて、住民の行動パターンを分析すること進めています。
そのために個人情報保護を遵守しつつ、住民のデータ(公共交通、自家用車、消費など)を組み合わせて分析しています。

そこで得られたインサイトを、産官学(地元商工会、地方自治体、ITスタートアップ、自動車OEM/サプライヤー、中央省庁、大学教授など)にまたがる幅広いメンバーが参加する月次の「地域データフォーラム」で共有し、地域全体で、その有効性や利用可能性について討議しています。

その中で、形になりそうなアイデアは、当センターがサポートしつつ、「地域データフォーラム」の幅広い関係者が協調してスモールステップで実行していきます。
たとえば、下記の記事で紹介されている三好–庄原間における貨客混載事業は、「地域データフォーラム」発のアクションです。

図4:貨客混載事業でのパンの荷積みの様子


そしてまた、「『実証』ではなく『実装』を目指す」のも庄原市での取り組みで特筆すべき点です。
国内でのデジタルを活用した交通社会システム実現の取り組みは、多くは「実証」どまりで、「実装」に至っていないのが課題の一つでもあります。

そこで重要になってくるのは、地域の暮らし目線で施策を立案・実行していくことです。「地域データフォーラム」は、デジタルの有効性・アクションの実現可能性を、地域の暮らし目線で理解・合意していく重要な役割を果たしています。

現在も様々な施策が始動しており、貨客混載事業のさらなる展開、地域のモビリティハブの設立の検討、様々なモビリティを横断的に用いて地域内でのスムーズな移動の実現を目指す交通事業の検討、市民の方とMaaS事業についてのより深いトラストを醸成するためのさらなるフォーラムの開催、等々が展開を計画しています。

こういった取り組み一つ一つについて、単に「実証」的に留まらず、そのさきの「実装」を見据えて取り組んでいます。

庄原市での活動については以下の記事も是非ご覧ください:


デジタルを活用した交通社会の実現へ向けて

デジタルを活用した交通社会の未来2022」で紹介された広島県庄原市での取り組みを中心に、デジタル技術を利用した地域交通社会の実現のための課題や施策についてみてきました。
他にも、多くの事例を通して、「取組の設計はシステム思考・アーキテクチャ思考で考える」、「デジタル活用に加えて、アナログ的な要素も重視する」、……といった提言がされています。
中でもそれらの視点に通底しているのは、「地域住民の生活」という視点で需要中心の制度を設計すること、そして「実証」ではなく「実装」を目指すことです。

これら多くの紹介しきれなかった事例や提言にご興味のある方は、ぜひ本報告書をご一読ください。


執筆:粕谷健太(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
構成・監修:伊藤雄亮(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター フェロー)

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