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ダボス・アジェンダ2022: 第四次産業革命におけるテクノロジー連携

2022年1月17日-21日、世界経済フォーラムは、グローバルリーダーたちがオンラインで集結する「ダボス・アジェンダ2022」を開催しました。国家元首や首脳、CEO、市民社会や国際機関のリーダーたちとともに「世界の今(State of the World)」について考え、重要課題の解決策を年初に共有する機会を提供することを狙いとしています。

このブログでは、Day1 に行われたセッション「第四次産業革命におけるテクノロジー連携(Technology Cooperation in the Fourth Industrial Revolution)」での議論をご紹介します。


登壇者(敬称略)

<パネリスト>
Paula Ingabire(ルワンダ政府 ICT・イノベーション大臣)
Sunil Bharti Mittal(インド Bharti Enterprises 会長)
Hans Vestberg(米国 Verizon Communications CEO)

<閉会の言葉>
Jeremy Jurgens(世界経済フォーラム マネージング・ディレクター)

<モデレーター>
Samir Saran (インド Observer 研究財団 理事長)


第四次産業革命の課題と産官学の連携

冒頭、各パネリストから第四次産業革命の現状と課題、テクノロジー分野における連携について意見交換を行いました。

アメリカ大手通信事業者 Verizon Communications Hans Vestberg CEOは、パンデミックによって5-7年分のデジタル変革が一気に起きたことを評価した一方で、テクノロジーギャップに伴う社会格差を課題として挙げ、インターネットにアクセスがない人が世界で約36億人、十分なヘルスケアを受けられない人が約20億人、銀行口座を持っていない人が約17億人、そして教育を受けられない子供達が約2億6千万人いることを問題視しました。こうした課題に対して、世界経済フォーラムが開始したEDISON Allianceと連携しながら教育ヘルスケア金融の包摂性に注力することにより、10億人のデジタルデバイド解消に努める決意を表明しました。

EDISON Allianceの詳細はこちら↓

インドでモバイルネットワーク事業にも取り組む Bharti Enterprises Sunil Bharti Mittal 会長は、パンデミックにおいて第四次産業革命が具現化されていることに期待を寄せる一方、全ての人が手頃な価格でインターネットに接続できる環境の整備を課題として挙げ、インドで高品質かつ大容量のデータ通信を月3ドルで提供していることや、10億人単位のデジタルアクセスを可能にする衛星コミュニケーションに今後9年間で4250億ドルの投資計画を表明しました。Sinil会長は、巨額の投資だけではなく、デジタルエコシステムにおける政府やプレイヤーとの協力が必要不可欠であることを強調しました。

ルワンダ政府ICT・イノベーション省Paula Ingabire 大臣は、第四次産業革命におけるオペレーション・パートナーシップの重要性を説き、EDISON Allianceのように具現化された協力から得られた成果をグローバルに展開していくことに意欲をみせました。また政策担当者として、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による新たな資金調達の実装や政策の転換、イノベーションを促進する旨を表明しました。

質疑応答

Vestberg CEOへの質問

Q. 官民セクターのステークホルダーは、何らかのインセンティブを提供することにより責任あるビジネスを推奨しているのでしょうか。

Vestberg CEOは、インセンティブの提供による責任あるビジネスを否定しました。またデジタル包摂性を実現するためには、1対1ではなく全てのステークホルダーと対話をしないことには始まらないと強調し、EDISON Allianceでは産官学の連携を強化して全てのベストプラクティスを集結させる狙いがあることを明かしました。

さらにこれからの時代は、テクノロジーの利用しやすさ(Accessibility to Technology)手頃な価格(Affordability)、そしてアプリケーション(Application)の3つが必要であると語り、これらは決して単一企業・単一政府で成し遂げることはできないため、クロスオーバーで実施することの重要性を説きました。

Sunil 会長への質問

Q. パンデミックは企業とユーザーの関係をどのように変化させ、またユーザーとの新しい関係はテクノロジー分野における協力にどのような変化をもたらしましたか。

消費者は誰がモバイルオペレーターであるかということを重要視しなくなった、とSunil会長は語りました。最近は高速度高品質のインターネットアクセスを実現するためにヨーロッパのオペレーターがインドに進出するなど、事業環境の変化も指摘しています。またモバイル業界のみが、年間IRR比3-4%の投資や事業継続の責任があるわけではなく、業界の垣根を超えた新しい秩序が必要であると主張しました。

Q. デジタル化を推進することにより、一定数の職業が奪われるという問題が発生します。特に大企業が存在感を発揮しやすくなる中で、デジタル化に伴う中小企業の雇用安定や再統合についてどのようにお考えですか。

Sunil会長は、中小企業がデジタル化に対応したビジネスモデルを自ら構築していく必要性を訴えました。そして、中小企業がデジタルエコシステムに参画できるようにツールやクラウド、トレーニングを提供し、サポートし続けると語りました。

Ingabire 大臣への質問

Q. ルワンダ政府として、テクノロジー関連の国際的な問題にどのように対応していますか。また、新興国がリーダーシップをとるにはどうしたらいいとお考えですか。

Ingabire 大臣は、政府が透明性を確保しながら政策を議論するべきと語り、最終的にはトラストを担保することが台頭する技術へのエネルギーになり得ると指摘しました。そして、イノベーションのペースにあわせてアジャイル・ガバナンスのフレームワークを構築することが鍵であると強調しました。新興国がリーダーシップをとる例として、グローバルな基準や規制が存在しないドローン分野において、ルワンダが遠隔地への医薬品ドローン配送を実現した先進的な事例を紹介しました。

アジャイル・ガバナンスに関する取組みやルワンダにおけるドローンによる医療物資配送を紹介した関連記事はこちら↓


Q. 監視資本主義やステークホルダー資本主義など新しいムーブメントが起きています。新興国ルワンダでは、こうした世界的な流れにどのように対応していくのでしょうか。

Ingabire 大臣は、新興国において既存のインフラが整備されていないこと、レガシーポリシーがないことは大きな機会であると語りました。こうした機会を活かすためにはグローバルパートナーシップが必要不可欠であると主張し、33ヶ国が参加するアフリカアライアンスでは、共通目的意識を持ってデジタルトランスフォーメーションを推進していることを紹介しました。

トラスト構築に関する議論

Q. 新たな経済問題、地政学的問題、第四次産業革命を踏まえて、どのようにトラストを構築するべきだと思いますか。

Vestberg CEOは、著しいテクノロジーの発展に対してアジャイルな規制改革の必要性を訴えました。重要なことは、企業がデータ活用に関する透明性を担保することであり、消費者がデータ活用に関する意思決定ができるようになることも透明性のひとつの形であると指摘しました。

Sunil会長は、全てのテクノロジーには良い面と悪い面があると認めた上で、ネガティブな側面をサイバーセキュリティ分野への投資などで企業が軽減していくしかないと語りました。またEDISON Allianceのような国際協力の枠組みを活用しながら活動スケールを拡大する重要性も指摘しました。

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Day1: 他の注目セッション

「ダボス・アジェンダ 2022」Day1 では、本セッションに加えて、中華人民共和国の習近平国家主席、インドのナレンドラ・モディ首相、国連のグテーレス事務総長が特別講演が行われました。
各セッションでは「新型コロナウイルス感染症対策」、「ワクチンの公平性」、「平等な復興」などのトピックが話されました。

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Day2 「岸田総理特別講演」紹介記事はこちら↓

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Day4 セッション「国際貿易とサプライチェーンにおける信頼回復(Restoring Trust in Global Trade and Supply Chains)」紹介記事はこちら↓

Day5 セッション「世界経済の展望(Global Economic Outlook)」紹介記事はこちら↓


執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 竹原梨紗(インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)・ティルグナー順子 (広報)


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