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ダボス・アジェンダ2022: 日銀の黒田総裁登壇、世界経済の展望

世界経済フォーラム主催「ダボス・アジェンダ2022」の最終日に、セッション「世界経済の展望(Global Economic Outlook)」が行われました。

日本からは日本銀行の黒田総裁が登壇し、長引くコロナ渦やインフレ懸念があるなか、グローバル経済の安定化のためにとるべき政策について議論されました。その概要を紹介します。

セッション全体を視聴できる動画はこちら↓


​登壇者(敬称略)

<パネリスト>
Paulo Guedes (ブラジル経済相)
Christine Lagarde (欧州中央銀行総裁)
Kristalina Georgieva (国際通貨基金専務理事)
Sri Mulyani Indrawati (インドネシア財務大臣)
黒田晴彦 (日本銀行総裁)                                                                                  <<モデレーター>
Geoff Cutmore (CNBC アンカー)


2022年に金融当局が求められる対応

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国際通貨基金(IMF)のKristalina Georgieva 専務理事は、パンデミック発生で同じ課題に直面していた世界が、インフレ率、債務水準、失業率、ワクチン接種率などにおいて今や深刻度が国によって大きく異なることを指摘しました。

中央銀行に限らず、政策側も明確なコミュニケーションを図り、データ駆動で国ごとに最適な政策を打ち出さしていかなければならないと警鐘を鳴らしました。


欧州の金融政策の方向性

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欧州中央銀行のChristine Lagarde 総裁は、欧州におけるパンデミックからの回復は予想以上の速度で実現されていると評価しました。

金融政策は国家とデータに依存するとして、正確な分析で忍耐強く取り組む必要があると説き、昨年12月に約5%と記録されたインフレ水準についてもエネルギー価格や賃金交渉など、数字の“背景”を踏まえて見極めていると言及しました。

FRB(米国の連邦準備理事会)と比較して対応がスローペースだという指摘については、労働市場の回復速度、インフレの上昇度合いなどアメリカとは状況が異なることを強調のうえでインフレ率2%をターゲットとして掲げ、この持続性を注意深くフォローしながら機動的な対応をとることを表明しました。


日本におけるパンデミック対応と今後の経済政策

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日本銀行の黒田晴彦総裁は、2021年度上半期にGDPが4.5%も低下した要因に消費の減少と東南アジアにおけるサプライチェーンの混乱による輸出と生産の停滞を挙げました。現在GDPは回復傾向にあり、2022年度には3.8%になるとの数値予想を示しました。

欧米と比べれば著しく低いインフレ率0.5%については、需要の上昇速度が遅いこと、十分な供給能力を維持したこと、1998年‐2013年のデフレの経験で慎重になっている点を理由として挙げました。また現在の緩和的な金融政策は2%のインフレ率を達成するまで継続すると表明しました。

岸田首相が先日発表した補正予算で金融政策が変わるかという質問に対して、その可能性を否定しました。2021年度の補正予算で含まれた所得支援は国民が消費ではなく貯金に回した可能性もあったとした一方で、2022年度は政府によるテクノロジーやIT投資など様々な財政投資となり、国会が承認すれば十分な刺激となると期待を寄せました。またインフレ率は1%を予測しており、緩和的な金融政策を引き続き維持していく方針を示しました。


インドネシアにおける景気回復と今後

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インドネシア財務省の Sri Mulyani Indrawati 大臣は、2021年度はデルタ株の流行やロックダウンの影響があったにもかかわらず、急速な景気回復と収入増加が見られた例外的な1年であったと振り返りました。コモディティ価格の上昇に加えて、製造と貿易の分野が税収増に大きく貢献したと分析しています。

2021年度の税収、非関税収入はターゲットをはるかに上回ったものの、2022年度の予算は2021年度の基準値をベースにしているため低く設定してあると説明しました。また、コモディティ価格が平常に戻っても、製造や貿易、ITなどの分野において高い収益が見込め、パンデミック対策次第で建設や飲食業界も回復し、2022年度も収益面で高い成長が実現されると期待を寄せました。

また、パンデミックを機に成立させた法律として、3年以内に3%以上の財政赤字が出ないように厳しい規律を課す Emergency Law(緊急法律)を紹介。そのほかにも税制のハーモナゼーション雇用の創出に関する法律にも言及しました。こうした法改正は、脱税や租税回避など税制に関する問題への対応策であると同時に、急速に進展するデジタル化・デジタル経済への取組みでもあると強調しました。


ブラジルのパンデミック対応と景気回復

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ブラジルの Paulo Guedes 経済相は、パンデミック下でブラジルのGDPがIMFの予想に反して3.9%しか下落しなかった点や、債務対GDP比が予測より20%低かったこと、雇用の維持と創出においても成果をあげた点に触れ、ブラジルの経済が過小評価されていると主張しました。

世界銀行が発表したランキングで、ブラジルは南米大陸でトップの“デジタル政府”として認められています。同経済相は、ブラジルのデジタル政府が約1億2千万人にオンラインの公的サービスを提供し、所得振替のデジタル化を図っていることも紹介しました。

ワクチン接種についても、総人口の約70%が2回接種済みであり、仕事場に戻れる取り組みを推進していることがGDP回復の理由だと説明しました。支出や債務もパンデミック前の状態にまで回復していることから今後の対応にも自信を示しました。

欧米諸国のインフレは厄介な課題になると懸念を表明した一方で、ブラジルは過去のインフレの悲劇を経験からより迅速に動けるとの期待を示しました。


世界経済の今後

世界にとって重大な懸念材料として、Kristalina Georgieva 専務理事は中国の成長鈍化を挙げました。中国のゼロコロナ政策は一定期間において収束に近い状況を実現させましたが、次々と出現する感染力の高い変異株に対応しづけなければならないと指摘。感染抑制に必要とされる制限や政策は経済に負担をかけるもので、それは中国、ひいては全世界を大きなリスクへと晒すことにつながると危惧しました。

2022年も引き続き、パンデミック対応が各国の経済政策の最重要課題であることが確認され、セッションは終了となりました。今後、各国の状況にみあった政策をアジャイルに実施していくなかで、データ活用のありかた次第で経済政策にも大きな差がでてくるのかもしれません。


「ダボス・アジェンダ2022」では、グローバルな経済課題以外にも、気候変動、貿易とサプライチェーン、ESG、平等な復興、第四次産業革命におけるテクノロジー連携など、様々な重要課題をグローバルリーダーたちが議論し、解決策が示されました。全体の key takeaways はこちら↓


Day1 セッション「第四次産業革命におけるテクノロジー連携」紹介記事はこちら↓

Day2 「岸田総理特別講演」紹介記事はこちら↓

Day3 関連記事はこちら↓

Day4 セッション「国際貿易とサプライチェーンにおける信頼回復(Restoring Trust in Global Trade and Supply Chains)」紹介記事はこちら↓



執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター シャルマグンジャン(インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)・ティルグナー順子(広報)


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