見出し画像

4IRアジェンダブログ: ドローンによる医療物資の配布支援

ルワンダやガーナで行われているドローンを用いた医療品配送がよく知られているように、この数年、無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems、UAS)を使って遠隔地に物資を運んだり、地域社会に医療品を提供したりする試みが注目されてきました。近年は遠隔地での成功を踏まえ、イスラエルのように都市での実証実験の成功させ、将来への枠組みを作っているケースがでてきています。商品配送、緊急支援、将来的にはクルマの代替など、巨大な可能性を秘めた都市におけるドローン技術ですが、実際は障害物、安全性、密集した空域といった難題を抱えているのが現実です。都市におけるドローン実証の現在地を伝えるアジェンダブログ「How drones in cities can help distribute medical supplies」をご紹介します。

原文(How drones in cities can help distribute medical supplies) はこちら↓

イスラエルの挑戦

イスラエルの空域は、厳格な管理のもと商業用飛行区域が制限されており、国境沿いには飛行区域がありません。また国内でのドローン活用はセキュリティ用途に寄っていることから、結果として、空域が密集し、民間アプリケーションを試す経済的な機会や支援の枠組みが不足している状態でした。

2020年1月、ヘブライ語でCity Air Transportの頭文字をとったNAAMA Initiativeが発足しました。Israel Innovation Authority、Civil Aviation Authority of Israel(CAAI)、Ayalon Highways、Fuel Choices and Smart Mobility Initiative、世界経済フォーラム第四次産業革命イスラエルセンターなどを主要パートナーにしたこの構想は、イスラエルの空を商業用ドローンの配達に開放し、医療、輸送、都市部のエアモビリティの可能性を見極め、無人航空機システムのためのアジャイルな規制を可能にし、地域のエコシステムを支援することを目的としています。

スクリーンショット 2021-07-01 12.28.29

実証デモで得られた4つのポイント

1.  ドローンのエコシステム                        公共部門と民間部門の連携は、規制当局が技術能力、ユースケース、ギャップを理解し、より弾力的な規制エコシステムの支援・構築方法の学びにつながった。

2.  意外と簡単だったプロセスのアジャイル化                ギャップ分析から技術的なRFP文書の発行、一次選考までのプロセスは5週間で完了。このプロセスの速さは、関係者の信頼と自信を高めた。

3.  ドローンを必要とする医療業界
高価な医薬品を病院で常備しておくことができないため、無人航空機システムによる配送は、医療サプライチェーンのゲームチェンジャーとなる可能性が高い。

4.  BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
パイロットの目線を超えた飛行、いわゆるBVLOS(Beyond Visual Line of Sight)が許可されればドローンの飛行距離は飛躍するが、BVLOS採用は規制をクリアするのが非常に困難。

スクリーンショット 2021-07-01 12.29.13

実証とバブル戦略

実証では「バブル戦略」がとられました。コミュニティのニーズ、アクセスのしやすさ、地元パートナーという3つの要素を元にバブル(対象の移動を一定の空間に限定すること)が設定され、そのうえで「ファーストマイル」と「ラストマイル」のソリューションにドローンを活用。長距離区間は鉄道を利用した結果、同じ配送を行ったタクシーよりも圧倒的に早い時間内で荷物を届けました。このバブル戦略と国内を網羅する列車ネットワークの組み合わせにより、イスラエル国内のほとんどの場所への効率的な輸送が可能になったといいます。

ネクストステップ

実証実験の次の段階は、運用予測のモデル化、経済的実現性の検討です。今後2年間で国際的なドローン企業にもエコシステムを開放し、産官学連携を拡大する計画に沿って、パートナーとして実証実験に参画している世界経済フォーラム第四次産業革命イスラエルセンターでは2021年3月に第1回国際ドローンラウンドテーブルを開催しました。今後も引き続きグローバルコミュニティとの対話と、規制当局、産業界、市民社会グループを交えた議論を行っています。

実証から実装へ

NAAMA Initiativeの事例は、公共部門と民間部門の対話と連携がもつ変革の力を示しています。筆者は今後、都市部でのドローン運用を実装し、スケールアップできるかどうかは、市民との対話が重要な要素となると指摘しています。マルチステークホルダーという概念が、大きな力となって現実を変えていく潮流を感じます。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター               ティルグナー順子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?