ダボス・アジェンダ2022: 国際貿易とサプライチェーンにおける信頼回復
世界経済フォーラム主催「ダボス・アジェンダ2022」の4日目には「国際貿易とサプライチェーンにおける信頼回復(Restoring Trust in Global Trade and Supply Chains)」が行われました。
”Just in time"から"Just in case"への転換をキーワードに、COVID-19をきっかけに注目されるグローバル・サプライチェーンのレジリエンス(回復力)の確保に向けた議論が展開されました。
世界経済フォーラムのサプライチェーンに関する取組みはこちら↓
登壇者(敬称略)
<パネリスト>
Ngozi Okonjo-Iweala(WTO 事務局長)
Pat Gelsinger(米国 Intel Corporation CEO)
Sultan Ahmed bin Sulayem(アラブ首長国連邦 DP World Limited CEO)
Martin Lundstedt(スウェーデン AB Volvo CEO)
Katherine Tai(米国 通商代表部 通商代表)
<モデレーター>
Klaus Schwab(世界経済フォーラム 会長)
レジリエントなサプライチェーンの再構築
COVID-19の影響によりグローバルサプライチェーンが分断され、私たちの日々の生活にも大きな影響がでています。そこで新たに注目されているのがレジリエンス(Resilience: 回復力)という考え方です。
効率性を追求する(”Just in time")ばかりでなく、パンデミック発生など有事の際にも対応可能なシステムを構築する(”Just in case")ことが、生産側の視点だけでなく、消費者の視点から見ても重要となることが広く認識され始めています。
新たなシステムの再構築に向け、ビジネス界からは米国Intel社のPat CEO、アラブ首長国連邦DP World社のSultan CEO、スウェーデンAB Volvo社のMartin CEOが、政界からはWTOのNgozi事務局長、米国通商代表部のKatherine通商代表がオンラインで集い、それぞれの経験を踏まえた議論を行いました。
半導体のレジリエンス
サプライチェーンの分断が生む問題の中でも、特にデジタル化で需要が急増している半導体の供給不足は様々な産業へと波及し、私たちの日々の生活に影響を及ぼしています。
半導体メーカーIntel社のPat CEOは、サプライチェーンの再構築に取り組むなかで地政学的なレジリエンスが欠けていることを特に問題視しています。半導体の製造を始めとするサプライチェーン全体におけるアジアのシェアが増加し、欧米のシェアが減少していることを受け、Pat CEOはEUで法制化が進められる欧州半導体法の施行に期待を寄せました。欧州半導体法のもと、2030年までにEUの半導体世界シェアを9%から20%へ増加させることが明言されたほか、アメリカでも同様にシェアを12%から30%まで増加させることを目指します。
透明性・包摂性・公正性を充たす国際ルールのアップデート
WTOのNgozi事務局長は、テクノロジー・ナショナリズムの台頭に懸念を示しました。
政府の関与のもと、海外拠点を国内へ移転させようとする取り組みへ理解は示すものの、行き過ぎた施策は競争力や貿易システムに新たな問題を生むことが考えられます。サプライチェーンの再構築の中では、単に安定した供給を取り戻すためにルールを策定するのではなく、今まで世界の中で取り残されていた途上国などを新たに統合し、再グローバル化を目指すことで不平等の解決に繋げることも可能です。
新たなサプライチェーンを構築する上で、透明性・包摂性・公正性を満たすべくルールをアップデートする必要がありますが、それを目的に即した建付けのもと進めることが最も重要になると強調しました。
米国のサプライチェーン政策
また、米国通商代表部のKatherine通商代表によると、パンデミックにより露呈したサプライチェーンの脆弱性を克服し信頼を取り戻すためには、レジリエンスだけではなくバランスが求めれられます。ナショナリズム・保護主義に傾倒するのではなく、政府が建設的な議論を行うことで、レジリエントな国際貿易を推進することが重要となります。
また、世界の貿易を先導する経済大国として、アメリカは人・労働者を主体とし人々の生活の質を高めることを目的とした貿易政策を展開することを原則としていることを述べました。サステイナビリティ・包摂性・競争力などの要素に注力し、富を生むだけでなく、人々の生活の質を高めるべく世界の貿易を先導することを目指すことを主張しました。
ビジネス界からの提言
シュワブ会長からは各登壇者に対し、パンデミックを乗り越えた2年間の経験をもとにビジネス界から政界へ提言を行うことを求めました。
メガターミナルオペレーターであるDP World社のSultan CEOは、ユネスコと共に新型コロナウイルスのワクチンを配給した経験をもとに、政策リーダーはテクノロジーを用いたカスタムプロセスをさらに推進すべきだと述べました。温度もスピードも重要となるワクチンの配給では、デジタル技術を用いた管理手順が不可欠です。今後の世界の貿易支援においててはあらゆる面で政策リーダーによるデジタルの駆使を前提とすることが重要だと主張しました。
この見解にNgozi事務局長も賛同を示し、政府のデジタル化は関税システムの問題を解決することにも繋がる一方で、まだ取組みが不十分であるとの認識を共有しました。
パンデミック以前の状態を目指すのではなく、より良い世界を目指すための問題解決にパンデミックがもたらした潮流を利用し、新たなシステムを構築するというグローバルリーダー達の姿勢が通貫して感じられたセッションでした。官民の連携を通じた理想的なサプライチェーンの再構築の動向に、今後も注目を続けたいと思います。
サプライチェーン強靭化に向けた取組みを紹介している記事はこちら↓
Day4: 他の注目セッション
「ダボス・アジェンダ2022」Day4 では、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長による特別講演が行われました。各セッションでは「ESG」や「宇宙技術の可能性」などのトピックが話されました。
Day4 関連記事はこちら↓
Day1 セッション「第四次産業革命におけるテクノロジー連携」紹介記事はこちら↓
Day2 「岸田総理特別講演」紹介記事はこちら↓
Day3 関連記事はこちら↓
Day5 セッション「世界経済の展望(Global Economic Outlook)」紹介記事はこちら↓
執筆 : 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 佐藤良磨(インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)・ティルグナー順子(広報)
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