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年次総会(通称ダボス会議)2023 - Day 3

年次総会(通称ダボス会議)の3日目。世界経済フォーラムがまとめた開催3日目のハイライトは下記から参照ください。↓

このnote記事では、日本からの登壇者を迎えたセッションの一部の様子をご紹介します。

Japan’s Path to Economic Revival

世界経済フォーラム年次総会2023「Japan's Path to Economic Revival」より

成長鈍化とインフレの進行、増え続ける負債、サプライチェーンの制約、円安の進行など、先行き不透明な状況に直面していると言われる日本。冒頭、西村康稔経済産業大臣は、先進国のなかではトップクラスの経済成長率が見込まれていること、企業の投資意欲が大きく回復していることなどをあげ、日本の経済展望への自信を示しました。20年間に及ぶ恒常的なデフレのマインドセットのなかで進行している急性インフレについても先進国としては4%程度と低水準であり、ここから経済が活気を取り戻していけば、金融緩和の解消という難しい政策決定のタイミングになるだろうという見解を示しました。

またユニクロで話題になった賃上げについて「5%プラスアルファを実現し、外からのコストプッシュのインフレではなく、デマンドプルの穏やかなインフレに期待したい」と語りました。

原発再稼働をめぐっては、現在稼働中の10基に加え、あと7基に設置許可が、10基が審査中という状況を共有し、「原発が1基稼働すれば、LNG利用を100万トン減らすことができる」と指摘しました。

世界経済フォーラム年次総会2023「Japan's Path to Economic Revival」より

「日本はアニマルスピリットを失ってしまった」「もはや日本経済に平和の配当(Piece Dividend)はない」と語ったのは、サントリーの新浪剛史社長。今こそ企業メタボリズム(新陳代謝)の改善、労働市場の流動化、賃金の上昇といったアクションの柱を定めてロードマップを設定すべきだと説き、日本が30年間避け続けていたペインに向き合う時がきたとの主張を明確にしました。

米中デカップリングについても、戦略物資を除き、対中貿易の取引量は逆に増えているというデータを踏まえて日中の相互依存関係の深さを指摘、今年開催されるG7広島において韓国を招聘する動きなどを含め、経済安保の視点からも地域的な繁栄の重要性を強調しました。

同セッションの他の登壇者からは、対日投資が活発化していることに加え、日本経済が日本に対する地域協力の枠組みで主導的な役割を果たすことに対する期待などが議論されました。

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The Quantum Tipping Point

世界経済フォーラム年次総会2023「The Quantum Tipping Point」より

量子テクノロジーは、金融からエネルギーまで幅広い領域で大きな可能性を秘めていると言われます。いわゆる量子革命に私たちはどこまで近づいているのでしょうか。

物理学者である伊藤公平慶応義塾長は、2018年に量子コンピューティングを実際に導入したとき、たった1ステップしか計算できなかったことを振り返りました。それから4年たった現在でも量子コンピューターはまだまだ未熟であるとしたうえで、「隠された関係値」を明らかにするためのアルゴリズムを開発して株式市場や為替市場、手書きの認識などのさまざまな解析プロジェクトを産学共同で行なっている実際の経験から、量子コンピューターのパフォーマンスはあと5-10年後にスーパーコンピューターを上回るだろうとの見解を共有しました。

さらに量子コンピューターと既存のコンピュターシステムとのインターフェース開発を通じて、より現実的な稼働環境を構築していることも明らかにしました。そして量子コンピューター領域での圧倒的な人材不足については「量子コンピューターは応用数学のひとつにすぎない」とし、数学研究のバックグランドがあれば現場トレーニングで人材育成は可能との考えを示しました。

そのほかに同セッションでは、量子コンピューターが活用されるべき領域、データの安全性、開発競争に参加できない国々との格差などについて議論されました。

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AI for Climate Adaptation

世界経済フォーラム年次総会2023「AI for Climate Adaptation」より

気候変動はすでに予断を許さない状況です。山火事、熱波、ハリケーン、台風、洪水、津波などに対するレジリエンスのために、AIをはじめとするテクノロジーは何ができるのでしょうか。

NECの森田隆之CEOは、災害予防と緩和のためにAIとセンサーを使ったシステムを世界中で展開していることを共有しました。人工衛星や各種ケーブルを媒介して、地面や地表、社会インフラ、建物といった対象物の微細な変化を感知し、分析・予測することが可能になっています。こうした予測による予防措置は、結果的に多くの災害に伴う炭素排出量を防ぐという大きな貢献に繋がっています。

そして森田社長は、AIを用いた予測・予防の活動における最大の障害のひとつに不透明な規制をあげ、なかでも「データ」に関するルールの未整備を指摘しました。AIが正確に結果を出すためには、インプットされるデータの質と量が問われます。しかしながら現状はたとえテストデータであっても越境移転が難しく、災害予防と予測、環境保存に関する知見をグローバルに活用するための道は整備されていません。

その他の登壇者からも、予防・予測活動のためのデータ共有・データアクセスという課題解決の重要性が繰り返し指摘されたほか、AIを用いたエネルギーの最適配分化、批准された条約に基づく行動モニタリング、官民連携といったテーマが議論されました。

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世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子(広報)


【年次総会(通称ダボス会議)4日目および5日目のレポート】


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