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──── ではまず、新しい社名の意味についてお教えいただけますか。

魂を焚べろ。

──── は。

魂を焚べろ。焚べてます? あなた。焚べてないよね。目見たら分かるよ。足りてないんだ……あああッ(両手で両太ももを強く殴りつける)

──── その、魂を焚べる……。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。だからさ、漫然と生きてる場合じゃあ無いんだよね。燃やすんだよ。命を。鼓動を。

──── 鼓動を。

最近じゃ、やれ働き方改革だの、ホワイト企業だの、ワークライフバランスだの。おかしいよね? おかしいよねん?

──── おかしいよねん?

うん。馬鹿じゃねぇのって。お前ら、何のために生きてんだよ(笑)って。だからウチではワークライフバランスの代わりに、アイ・ドリーム・ディス・ワン・スリーピー・ドリーム、アンド・プット・マイ・ボディ、マイ・ソウル、アンド・エブリシング・エルス・イントゥ・ザ・ファイア・コールド・ワーク。イット・ウィル・ビー・ア・ファイアウィール・ザット・ウィル・バーンナップ・ザ・スリーワールズ・ザット・スピン・フュリオスリィって呼ぶようにしてるんだけど。

──── 何ですか?

朝起きてさ、前の晩はとにかくめちゃくちゃだった。酒を飲んで、吐いて、頭痛はひどいし、体中あちこち痛いんだ。それにベットには見知らぬ女の子が裸で寝てた。女の子はピカピカした、いやピチピチチャパチャパした貝殻の耳飾りをつけていた。耳朶がマシュマロみたいに柔らかそうだった。あ、マシュマロ食いてぇな、焚火でじっくり焼いたやつを。そう思ったんよ。その時ね、窓から朝の光が差し込んで、分かった。

──── 何がですか?

だから、焚火だよ。焚べろって。そうだ、全部焚べようと思った。それが21歳の7月。

──── え?

女の子をね、叩き起こして追い出して。それから弟に電話をかけてね、「焚べるぞ」と。弟は寝てたみたいで、「なに?」って言ってましたよ。だから僕こう言ってやりました。「全部だ、全部焚べるぞ」って。その足で法務局言って登記して。はぁーっ……。

(社長はここで足を組み椅子に背を預け胸を反らし天を仰ぐ)

──── ええと、それが社名の由来……?

違いますよ。馬鹿じゃないですか?

──── は?

かかってこいよ。

(録画一時中断)

──── 社員の皆さんはどういった反応でしょうか?

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ウチはだから、とにかく猛烈に焚べてもらいますよ。

──── 焚べるというのは、労働、と言う意味でしょうか?

焚べるんだよ。燃えてんのよ。

──── 今の時代、中々そういったスタイルは、何かと不都合がございませんか?

給与が良いからね。新卒で1兆CWドル。

──── 1兆CWドル?

前の社名がホラ、これでしょ? (徐に右手でCの形をつくる。続いて両手でWの形をつくる)。だから、通貨も。

──── 通貨? ええと、それは日本円だと幾ら……。

約26万ですね。それに社会保険と住宅手当。

──── あっ……。

でもね、ウチに来るやつって結局金じゃあ無いのよ。ここなんよ(胸を二度拳で叩き、力強く指で差す)。全員バチバチのやつしか採ってねぇから。給料日にね、一人ひとりに1兆CWドルがパンパンに詰まった革の鞄をね、渡すんです。

──── 振込ではなく?

CWドルなんて入金できるとこあるわけないでしょ? 頭おかしいんじゃねぇのアンタ。

──── あ?

でね、鞄渡すんだけどね、怒られるんだよ(笑)。「社長、そんなの今要らないっす、その時間で俺らもっと焚べたい、焚べたいっす!」つってね。「今なんだよ、今しかねぇんだわ」つって(笑)。タメ口っておいおい、俺っち社長ですゾ~(笑)って思うんだけど、まあ可愛いから許す(笑)。

──── ……。

実際今年入って家帰ったやつっていんのかな……(オフィスのほうを見て)おおい、今家あるやつっていんのか? あ、そう……やっぱいねぇわ。無駄だから。ここで、全てを焚べるってことだよね。

(記者注:オフィスには社長と記者以外誰もいない)

──── ……退職される方とかは?

初めのころはいましたよ、そりゃね。こんなどうなるかもわからん会社。初めのころのウチってどうやってたか知ってます? 声ですよ。大声出して、例えばA社からB社までね、とにかく大声で繋いでくんですよ。御堂筋にこう、社員がずらーっと立ってね、チャットの内容を。そりゃ怒られましたよ。「全部漏れとるがな~、全部漏れとるがな~」つって。今となってはいい思い出ですけど、まああの頃は緩かったから(笑)。時代だよね。

──── ……。

その頃からの叩き上げと、今入ってきてくれてる若い子たちがね、いま凄い良いバランスで嚙み合ってる(左右の指を胸の前で組み合わせる)。風が吹いてる。火が燃え上がるよね。中つ国が。これからの20年を、焚べて、この国をね。この国をね。この国をね。

──── ……最後に、この記事を読まれる読者へ向けて、何かあれば。

俺は今どこに向かってますか?(笑) つってね……。

(社長は突然椅子から床に転げ落ち、顔を床に埋め、獣のようにすすり泣き始める)

──── ありがとうございました。

おおっ、おおっ。うおおっ。んんっ。

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