惑星ソラリスのラストの、びしょびしょの実家でびしょびしょの父親と抱き合うびしょびしょの主人公

騎士

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蔵の地下

1. 踏みしめるたびに厭な音を立てる急な階段を降りて蔵の地下へ辿り着くと、ひんやりといやな湿り方をした空気が僕の全身を撫でた。僕はしばらくのあいだ、そこにぼんやりと立っていた。鼻の奥に黴と埃の臭いがした。足の裏には土の湿り気があった。何かが足の指の上を這った気がして、僕は驚いて飛び上がったが、足元の闇にいくら目を凝らしても何も見えなかった。  いま降りてきた階段(ほとんど梯子といってもいい角度だ)の先には地下への入口があった。それは濃淡も混じり気もない闇のなかに、ただぽっかり

    • チコリータ

      1. バスの車内でうつらうつらしていたところ「チョケブリィィィィ!」という甲高い絶叫が突然響いて、僕はびくりと目を覚ました。  咄嗟に隣のほうを見ると、通路を挟んで向かいの席に高校生が二人いた。彼らもまた驚いた顔を浮かべ、バスの後方を見て、それから僕のほうをちらりと見て、最後に互いに顔を見合わせ、そっと目を伏せた。  後方には老婆と30代ほどの女と中年男がいた。老婆と女は中年男のほうを一瞬見たあと、すぐにそっと目を伏せた。中年男だけが真っすぐにバスの進行方向を見据えていた。

      • 腰の炎、丸太小屋

         大谷翔平さんへ  貴方のいなくなったこの丸太小屋はとても寒々としています。窓の外では雪がしんしんと降って、世界は塗りつぶされたような闇の底に沈んでいます。物音一つしません。まるですべての生き物たちが死んでしまったよう。貴方の割ってくれた薪の最後の一束をいま使い切りました。じきに暖炉の火は燃え尽き、外の寒さと静けさと死が、私のいるこの小屋の中に入り込んでくるしょう。  私はかじかむ手でこの手紙を書いています。しかし貴方がこれを読むことはない。私たちは決して交わらない二つの直

        • PERFECT DAYS 雑感

          平山?ジジイのなろう系? 一般に「殆ど喋らず片隅にいてただニコニコしているジジイ」が一目置かれるということはないのだが…… これが成立する、つまり平山の魅力を担保する「何か」はどこにある? 仕事に対する誠実な態度? 平山くらい「与えられた仕事(のみ)を誠実にこなす」人間はいくらでもいるのでは…… また同じくらい「与えられた仕事(責任)を超えた範囲について突然キレ散らかす」人間もいると思うが…… そういう人間は一般に「一目置かれる」のとはむしろ逆の扱いを受けるのでは?