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94 教師の「電話力」

一つ、迷ったらかける

一つ、電話の姿勢はすべてに通ず


帰りがけに「ああ、どうしよっかな。言うまでもないことやけどな」「これ連絡しておかないとあとから何かあるかな」と胸騒ぎがするときがあります。

帰ってから、思いもよらないクレーム電話めいたことも今までありました。それは自分が思いつかなかったケースと、ああやっぱり…というケースです。ああやっぱりケースは、帰りがけなので面倒に感じてやりすごしたとき。気になったら「やっぱり」かけるべきなのです。

帰りがけにふと思いついてしまう時点で、自分のなかでは「本当なら連絡すべき内容」と思っている証拠です。

本当にかける気がないならハナから頭に浮かびません。

かける気がないことで連絡があったときはかなり落ち込みます。自分がそこまで気が回っていなかったと、暗い気持ちになります。こういうのが一番こたえるんですよねえ。

で、かけておけばよかったという、あとから後悔するケースはえてしてあとに尾を引く場合が多いもの。ここを外したときの失点はコールド負けに等しいものです。まだ「なんで連絡をくれなかったのですか」というようなものは誠心誠意謝っていく対応が考えられますが、静かに「あ、あの先生って連絡くれへんのや」って失望されていくパターンはもう取り返しがつきません。これは完全に終了のゴングです。

僕は「迷ったらかける」を心がけています。相手が中学生の時はほぼ毎日何かの連絡をしていました。大げさではなく、ほぼ毎日です。この調子で高校でもやっていたら「先生はマメですね」と言われたことがあります。「先生はザルですね」よりずいぶんマシな言葉です(笑)

さて、迷った挙げ句の電話はたいていは「わざわざありがとうございます」と終わります。たぶんそういう規模だから迷っているのでしょう。

モヤモヤしながら次の日の迎えるより、数分なんとでもない会話をしておくほうがよっぽどマシです。

特に土日を挟むときはそう。月曜日に「お母さんが先生に話したいことがあるって言ってました。電話するって言ってました」とか朝イチで言われたときには「ああ、やっぱり…」と週の始めからかなり暗いものになります。これも自業自得です。

「今日話せば説明、次の日になると言い訳」

と、例の校長先生から薫陶をうけたことがあります。言い得て妙。電話はまさに簡単だからこそかけられるし、こちらの姿勢を問われるものになります。実にこわいものです。

ちょっとしたやりとりですが、電話の際になにげない日常の風景をお伝えすると、保護者の方はホッとされるようです。いつも手伝ってくれます、提出物が早く出せるようになってきましたね、部活の先生がほめてました、ほんまええ子ですね、などなど。こんなのは電話ならではです。

最近は欠席連絡もデジタルで済むようになってきており、少しのやりとりもせずに「欠席」と文面通り受け取れるようにはなりました。ただ、朝の連絡のおりに「ああ、そうですか…。いつくらいから体調がすぐれないんですか?」など、僕としてはあってしかるべきものだと思っているのですが。これに関しての意見は人それぞれでしょうね。

もう一つ、いつでもすぐに電話をとってくれる先生がいます。たいへんありがたいし、そういう先生は日常でも頼りになる方です。電話に向かう姿勢はすべてに通じているな、と思う次第です。

つまらない営業電話もあるし、気を遣う取り次ぎもあります。これも大切な仕事です。そこの判断ややりとりは生徒や保護者と向き合う姿勢とやはり合致することも多くあるものです。

たまに、すごい剣幕でかけてこられることがあります。怒っているとき、「おお。これはこのまま取り次いだらたいへんやな」とワンクッション入れられるときは合いの手を入れることもあります。違う学年のときは「お忙しいときにご連絡ありがとうございます。学年の先生にお取次ぎいたしますので、お待ちいただけますか」と、なるべく丁寧にやったあとにパスします。前に書いたことがありますが、学校あての苦情電話の際はひとしきり聴いたあとで「生徒指導部に申し伝えます」だとか「担当の者に代わります」とかやることがあります。ヒヤヒヤしながら聴いたり、ものすごく怒っておられるときは「そうでしたか。たいへんご迷惑をおかけしました」と言うときもあります。

久しく、この手の部署についていないのでヒリヒリするやりとりは経験していません。その分、担任や顧問としてど真ん中ストレートの相談や僕に対する不平に対応してきました。誠心誠意、聴くだけです。

電話から逃げていると、こんなときも誰かのせいにしたり、言い訳をしたりするものです。

そんなあとの謝罪などはかえって空々しく聞こえます。電話ひとつとっても奥が深いのです。あいづち、受け応え、口調、傾聴。テクニックはたくさんあると思うのですが、電話とは不器用でもまっすぐに受け止め、向き合うのが前提だと僕は強く思います。

一大決心でかけてきてこられている場合もあります。忘れてはいけないのは、我々にとっての一人の子と保護者にとっての一人の子は違うということです。立場が違うから見える景色の違いから話せるし、その必要があります。

電話力。こんな言葉はありませんが、メールやカスタマー担当がいない学校だからこそ、求められる力ではないでしょうか。

スギモト