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新人の指導係の振り返り

「新人の指導係やってみたいです」
 自分の係に新人が入ってくると聞いて、指導係の手を上げていました。
 私は組織とか人事とか人材育成とかに興味があり、かれこれ何年か個人的に勉強していたこともあり「いい機会だ!」と思ったからです。ただ、任期の半年間は悩んだり悩んだり悩んだりの日々・・・(大事なことなので3度言いました)。
 「N=1」かつデータに基づかない「感想」でしかありませんが、私の内省(と誰かの役に少しでも立てたら)ということで、新人の指導係を通しての学びを書いていきたいと思います。


1 指導係って何をするの?


 めでたく指導係に任命された私。その最初の悩みが
 「で、うちの会社の指導係って何をすればいいの?」
 でした。
 最初に会社の新人育成のマニュアルに目を通したところ、
 「実務上の助言、指導」「職場生活全般の相談」
 とありました。
 
 うん・・・?これだけじゃわからないぞ・・・??
 もう少し読み進めてみよう。
 
「机や事務用品の準備をする、温かく迎える、社員としての心構えを説明する、担当の仕事の概要を説明する・・・」
うんうん、準備や受入は大事だよね。
 
「指導係は社内の案内をしたりコピー機の使い方や接遇を教えたりしましょう」。
うん、まあ、これも大事なこと。
 
「職場研修(OJT)の計画を立てましょう」
あ、肝心なところ。
 
「社員の個性を見極め、能力を伸ばす観点からその職員にあった目標を立てて下さい」
・・・??これだけじゃわからないけど・・・?
 
「研修が終わったら報告書を提出してください」
・・・終わっちゃった・・・。結局、何すればいいの?
 
「やさしいものから」「やってみる、やらせてみる」「わかりやすい言葉を使う」「根気強く」「失敗を責めない」
いや、一般論としてはわかるけど・・・。それで、何をどう教えれば・・・??
 
 ちなみに、OJTでしばらくネット検索をしていたら以下の文言が見つかりました。
「OJTとはOn-the-Job Trainingの頭文字を取った略称で、「日常の業務に就きながら行われる教育訓練」を意味します(能力開発基本調査(令和3年度)|厚生労働省の定義)。OJTの目的は現場で実務を行いながら、指導役のトレーナーがOJT対象者を対象に実践的な知識やスキルを教え、即戦力を育てることです」
 ・・・いや、やっぱり具体的に何をしたらいいかわかりませんね・・・。

 

2 とりあえずこうやってみよう



 結局、指導係に何を求められているかは今一つわかりませんでした。といっても、「わからないから何もしない」というのは無責任。ということで自分なりに「多くなりすぎず、複雑になりすぎず、やり切れる」と思う範囲で以下の工夫をしてみようと思いました。

①毎日1回以上のコミュニケーション
 タイトルの通り、毎日1回以上新人とコミュニケーションを取ることにしました。業務でも雑談でも、1分でも10分でもいい。とにかく「毎日1回以上」としました。
 相手の業務・悩み・個性など、何を取っても接しないとわからないため、業務でどうこう指導することを考える前にまずはコミュニケーションを取ろうという意図です。人材育成に関してあちこちで「コミュニケーションの(質より)量が大事」と聞いていたことが背景です。また、「最大の人材育成は相手に健全な関心を持つこと」という言葉に影響され、それを自分なりに砕いたものでもあります。
私の性格上、どちらかと言えば1人で黙って仕事をする方が好きで「なるべく話す」という漠然とした目標だと結局放置になりそうと感じていました。そのため、具体的に「毎日1回」(ただし内容も時間も問わない)としたというものです。
 
②業務状況の他のメンバーとの共有
 「新人がいつ、何をやって、今後何をしていくか」ということを定期的(初月のみ毎週、他は隔週)に他のメンバーに共有しました。狙いは「係全体で育てよう」という雰囲気を作ること。新人指導は誰もやっていないと躊躇しますが、とりあえずやっている人がいると他の人も参加しやすいかなと考えたことも背景です(要は呼び水です。①のコミュニケーションも他のメンバーが話しかけやすいようにという意図はあります)。
 また、新人は私の下につくわけではなく、係の中の様々な業務で他のメンバーの補助をすることになっていたというのもあります。実際、新人の業務において、私と直接関わるのは3割もないくらいです。私の係では業務の多様化により「隣の課や係は何をしているかわからない」どころか「同じ係の隣の人でも何をしているか把握しきれない」という状況でした。私が新人にかかりきりになれないというマンパワーの問題もありますが、業務の多様化と新人の仕事の割合から、育成においては他のメンバーの協力は不可欠でした(なお、これにはそれぞれのメンバーから多様な指導を引き出すというのを狙っている面もあります)。


3 上手くいったの?



 3①と②は「やり切れる範囲」として想定していましたが、それでも結構きつかったです。ただ、明確な指針を持ってやったのは間違いなく良かったと思っています。

①毎日1回以上のコミュニケーション
 指導係の任期半年のうち話せた日は感覚値で7割、3日に2日程度でした。
 こちらについては、自分の業務が忙しいとなかなか話しにいけないこと、単純に話のネタが切れてくること、本人もしくは私が出張や休暇でいないなど、「毎日」というルールは想像以上にハードルが高かったです・・・。
毎日と心に決めてもこの結果だったため、もし何も決めていなかったら週に1回程度だったと思います。ただ、「毎日話します」と他のメンバーに話したことと、週1の報告への記載事項探しを含め、本人に注意を払えました(外部圧力と仕組化でなんとかやり遂げた感じです。それが「健全な関心」に繋がったかはわかりませんが・・・)。
 本人のキャラクターが外交的でいわゆる「可愛がられるタイプ」のため、業務を通じて自然と周りと関わるようになりました。ただ、「指導係という『相談してもよい存在』がいたからこそ安心して職場に来ることができた」という本人談もあり、他のメンバーと話す際にもいわゆる「安全基地」として機能していた面はあるかと思います
 別の狙いとしての、他のメンバーとの会話の呼び水というのは今一つの効果でした。私(指導係)と新人という2人の会話だと、個別業務の指導となってしまい、他のメンバーにとっては口を挟みづらいという点が背景かなと。なるべく日常生活などの広げやすい話題で、かつ他のメンバーにも話を振るくらいの工夫をしてもよかったかなというのが反省点です。
 
②業務状況の他のメンバーとの共有
 新人に関心を持つタイプのメンバーがいたこともあり、私以外の指導が生まれている状態でした。ただ、私の狙いだけではなく、本人がコミュニケーションを積極的に取るタイプであった(しかも素直に指導を聞く)こと、他のメンバーも新人指導に対して親和的なタイプが多かったことという、本人・周囲ともによい要素がそろっていたことが大きいです。
 私と新人では仕事の進め方などでタイプが異なる部分があり、遠回しに新人から言われたこともあります。ただ、複数のメンバーが関わったことでそれぞれの進め方を学び、自分に合うものを選ぶ余地を与えることができたのはよかったと感じています。(なお、新人の言葉を誤解がないように付け加えるなら、不満や批判ではなく「タイプが違う中、苦労して指導してくれているのはありがたい」という好意的な言葉です。そんなことを言ってくれる新人で本当によかったです・・・)
 


4 やってみて思ったこと



 一言で言えば「OJTという手法は(一部では)限界ではないか」というものです。
 厚労省の定義ではOJTは「日常の業務に就きながら行われる教育訓練」であり、実施に当たり、どの業務が「訓練」に適しているかの難易度の「見積」が鍵ではないかというのが個人的な考えです。指導係と新人の業務が同一であれば、指導係において「自分は何に躓いてきた」「これができたら次はこれ」というイメージがつきやすいため、OJTは非常に有効な手法だと思います。業務が同一とまでは言えずとも、新人の担当が指導係の想像できる内容であればOJTは有効でしょう。
 ただ、業務の細分化が進み、「隣に座っているだけで業務上は繋がりがない」という関係ならば指導係の「見積」が難しく、OJTは機能しづらいのではないかと感じました。雑なたとえですが、同じ「理科」という部署でも、「物理の指導係」が「化学の新人」を適切に指導できるかと言えば難しいと思います(ゆえに、「指導係」ではなく「相談役」としてのメンター制度を導入している企業が見られるのかもしれません)。
 これからはDXによる新プロジェクトの創出やSDGsなどの新たな社会的要請に対する業務といった「誰も取り組んだことがないし、誰も詳しくない」という業務を持つ職場に、前提知識も経験もない新人が配置されることは大いにあり得ます(それこそ「新しい仕事には若い感性が必要だ!」という論理にもならない理由によって・・・)。そのような場合に、OJTという従来の手法が機能するかが疑問です。
 

5 で、どうしたらいいの?



 育成をOJTのみ、もしくはOJTと集合研修のみとするのではなく、新人自身においても必要な学習をするという考えに転換する必要があると感じています。また、必要な学習を自ら行うというのは新人に限らず全社員において行うべきです。
 上述のとおり、業務の細分化・専門化が進んだ現在では指導を完全に他人に委ねるのは無理がありますし、不完全な指導のツケは本人が負うことになります。それであれば、最初から自分でも勉強をすることを意識させていた方がよいと思います。「職場でも教えられるところは教えるけど、自分でも勉強するんだよ」というスタンスです。
 組織の本来の機能の1つとして、専門化・細分化による効率の向上が挙げられます。専門化が進むことで、社員が他の社員を指導するOJTが機能しづらくなるのはある意味当然の帰結なのかもしれません。厳しいですが、「会社が育ててくれる」はもはや幻想でしかなく、「自分で育つ」ための手段の1つとしてOJTや外部研修があるくらいの認識でよいと思います。
 また、「VUCA(ブーカ)の時代」という言葉に象徴されるように、これまでの延長ではない業務は増える一方でしょう。担当する業務について「誰かが教えてくれる」「会社に必要な蓄積がある」ということが期待できず、その都度で必要な学習をしていくのは新人に限った話ではありません。その意味で、経営層から新人まで全社員が学習をする組織文化が必要だと思います。
 

6 もしもう1回やるとしたら


 次があるとすれば、仕事の進め方を考える際に「相手の能力・個性を前提とする」ことを意識したいです。
 私のタイプは「ほどほどで考え、あとはやりながら考える」というものです。綿密な計画より、出たとこ勝負で口八丁で乗り切り、必要なら軌道修正していく方が好きです。これは好き嫌いもある一方、口八丁で乗り切れる能力があるという面もあります(自分で言うのもあれですが・・・)。
 新人の資料を確認した際、私がOKを出したものでも、その後に新人が上役に説明した際にNGを受けるということが何度かありました。これについて、無意識に「私なら」この資料で乗り切れるという目で見てしまっていたことが原因だと思います。あくまで、私なら出たとこ勝負で臨み、口八丁を駆使するでしょうが、新人にとってそれが合うか(できるか)は別問題です。今思えば、「どう作りこんでも想定外の突っ込みはあるもの」という私と、「突っ込まれるとフリーズしてしまう」という新人ではスタンスは全く違いました。
 次の機会では、仕事を見るのと合わせて、個性や能力も見るようにしたいです。

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