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息子と亡き母のちょっと不思議な話【5歳の息子の見る世界】

「かなしい曲を聞くと、バァバを思い出すの」

デパートの多目的トイレに5歳の息子と入っていた時のこと。そこには優しくて落ち着いた曲が流れていた。かなしいと息子は言ったその曲は、確かにほんの1グラムほど、寂しさを含んだ曲だった。

「バァバの何を思い出すの?」

私は疑問に思って聞いた。なぜなら、息子が生まれる10ヶ月前に母は亡くなっていたからだ。脳卒中だった。

当時のことは、まるで再現VTRのようによく覚えている。職場に父の携帯から電話がかかってきた。「お母さんが倒れた。今救急車にいるけど、ダメかもしれない」父の声は動揺と苦しみで震えていた。

病院で再会した母の顔には白い布がかけられていた。顔は白かった。動かなかった。私の名前をもう呼ぶことはないのだと、その時思った。

会いたい。会いたいな。もう一度でいいから会いたいよ。

その思いは七回忌が終わった今でも、感じ続けている。

バァバに会ったはずのない息子は言う。

「覚えているのはね。なでなでしてもらったこと。あと、頑張って大きくなってねって言ってたこと」

「どこで言われたの?」

「う〜ん、わかんない」

息子は不思議そうに私の顔を見る。
私の目を涙の粒が覆い、トイレの便器が滲んだ。

「他に何か言っていた?」私は喉の奥から込み上げてくるものを抑えながら、聞いた。

「ずっと見守っているよって言ってたよ」

「そうなんだね。教えてくれてありがとう」

息子は多分、生まれる前にお母さんに会ったのだ。それがどこだか私には分からないけれど、確かに2人は会っていたのだ。

私は息子をお母さんに見せられなかったことをずっと悔やんでいた。けれど、悔やむ必要なんてなかった。

お母さんは私よりも先に、息子に会い、頭を撫で、愛を与えてくれていたのだ。

お母さん、ありがとう。

あなたの孫は、大きくなっているよ。
もうすぐお彼岸だね。息子が馬を作りたがっているから、よかったらそれに乗って、息子の成長を見にきてね。

お母さん、ありがとう。

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