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【ショートエッセイ】日本舞踊が思い出させてくれる、美しくあろうという気持ち

日本舞踊の演目『うぐいす』の主人公は恋する少女だ。茶道のお稽古をしながら、愛おしい人を待っている。

この演目を踊っている時に、38歳ででっぷりとなってしまった私は、いかに舞の中で10代の娘のように、可憐に見えるかを考える。普段は猫背だが、猫も驚くくらい背をそり、客席から姿勢がきれいに見えるようにする。首や足、腕の角度を何度も変え、一つひとつの振りが客席から恋する少女に見えるように試行錯誤する。そしてなにより、恋する主人公の気持ちを自分に憑依させるべく、今は愛している夫に恋していた時の気持ちを思い出す。

出産を重ね、胎盤と共に体外に排出されてしまった美しくあろうとする気持ちが、日本舞踊のお稽古をしている時だけは、脳を満たす。

日本舞踊を習うことの効用は多い。着物や邦楽の文化に詳しくなる、礼儀作法を身に付けられる、体力がつくなどだ。しかしながら、美しくあろうとすること、これが、日本舞踊を習うことの最大の効用だと思う。

出産後の忙しさによって、そのような気持ちが薄れた人も多いのではないだろうか。そんなあなたにはぜひ、日本舞踊のお稽古場を訪れてほしい。お稽古場の鏡の中にいる着物姿の自分を見ることで、思い出すことがあると思う。

※この文章は、さとゆみライティングゼミの課題で作成したものです。

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