MEMENT COLI

    2020年の年末は2019年の年末から比べると、隔世の感がある。
 世の中の2020年の印象は、「一瞬で過ぎ去ってしまった」「何もできなかった」という印象がほとんどだろう。ただ、自分にとっての2020年はあまりの多くのことが変化し、揺れ動いた1年であった。

なぜなら、結婚、そして転職(おまけに引越)という2つの転機をこの1年間ですべて行ってしまったからである。2019年12月31日は、毎年恒例の里帰りで、父親の実家である長野県東御市に帰っていたが、まさか今年1年間でこれほどまでの変化があるとは露にも思わなかった。
2020年の年末は、「新型コロナウイルスの影響で長野県には行けず、パートナーと、実家ではないところで過ごし、1月から行く新会社で何をするか考える」なんでことを誰が想像できたであろうか。
 
 2019年の年末にぼんやりと考えていた2020年の年末とは全く異なることは従前の通りだが、実は2020年12月上旬に考えていた2020年の年末とも若干異なる。当初の予定では12月25日を今の会社の最終出社日として、退職日の12月30日までの3営業日は有給消化に充てさせてもらい、年末年始の9連休の間に次の会社で何をするかゆっくりサウナでも行きながら考えるというものであった。 
 実際はやや異なった。なぜなら12月24日の朝5時。アイツがやって来たからだ。
 早朝、吐き気、悪寒と主に起床した私は、トイレに直行。とんでもない下痢だった。24日は最後のアポを終え、25日に引継を入れ、課のメンバーに手紙を渡して、会社を去る。こんなイメージであったが、突如襲った下痢と悪寒によって、予定は無残に書き換えられ、24,25,28日を病欠にすることを余儀なくされ、29日が最終出社日となった。
 24日に這う様にベッドを飛び出し、病院に行くと、診断はカンピロバクター腸炎。またしても腸炎が私を襲ったのである。またしても、というのも私は2019年6月に急性大腸炎を患い、1週間の入院とさらに1週間の自宅療養生活をしていたのである。

 当時も1日10回以上の下痢や慢性的な腹痛に苦しめられた。そして、今回も全く同じように1日10回以上の下痢とこれまた慢性的な腹痛が私を襲ったのである。

 カンピロバクター腸炎により、引継業務はもちろん、様々なことが停滞し、食事も思うように取れず、パートナーにも大いに迷惑をかけてしまった。何より一つしかないトイレを占拠し、汚してしまったことや、楽しみにしていたクリスマスイブとクリスマスを不快な病人と過ごさせてしまったという申し訳なさが募る。


 腸炎の辛いところは、少し良くなったと思って食べてみると、またしても下痢を引き起こし、最悪な気分を味わうところにある。今回も、良くなった時にお菓子を食べてしまい、また下痢を起こすということが起こってしまっている。(お菓子を食べなければよい話でもあるが…)
 
 入院していた時に、医学に関する本を読んだが、消化器科の目線で言うと、人間は一本の管に過ぎない。口からものが入り、養分を吸収し、その残りカスを肛門から吐き出す。
そう考えると、人間は極めて単純な生き物であるが、臓器のチーム戦でもある為に、どこかが支障をきたすとアウトプット(とても聞こえが良いが、「うんち」のことである。)に何らかの問題が発生する。下痢になったり、便秘になって出てくるのが遅れたり、アウトプットの質は低下する。

そんなことを考えて、私の仕事のことを思い出した。私は、現在は保険会社に勤めており、1月からは保険ブローカーで働くことが決まっている。
あまり世間のイメージはないが、保険会社は金融という枠組みにありつつも、保険商品を作り、販売するメーカー的な業務が大半である。営業は保険商品を代理店さんと協業していかに多くのお客様にお届けするかというミッションを背負う。ただ、一般的なメーカーと異なるのは、原価が統計学的な事故率で規定されており、正確な原価が事後的にしか決定しないところや、紙とペンがあれば、商品が作れてしまうところである。ただ、本質的にはその2点以外ではメーカーとあまり変わらない。私はこれまで保険会社の営業部門に在籍していた。

前置きが長くなったが、私の仕事では、クライアントや代理店さんから、「こんな商品が作れませんかね」とオーダーが入る。そうすると、フワッとした顧客の課題を営業担当者が咀嚼して、保険商品のプロトタイプを作る。そうして、今度は商品部で世の中に出せる商品の形にしてもらい(保険には多くの規制がある為、そこを乗り越える必要がある)、最終的にその商品を世に出して、保険金支払い部門などが対応できるかなどの最終調整を行ったうえで、商品としてクライアントに提示する。
こうした商品を作ることは保険会社の醍醐味であるのだが、多くの場合、商品部や保険金支払い部門との折衝でうまくいかず、クライアントのオーダーをかなえられなかったり、提示期限までに間に合わないということが発生する。

これって、人間の消化器のようだなとなんとなく思ったのである。

インプットの段階で体に合うように咀嚼して、胃で溶かして、腸で固めてアウトプットにする。どこかが上手く機能しなければ、納期までに出てこなかったり(便秘)、固まっていないグチャグチャのものが出てきたり(下痢)する。人間の身体は仕事を同じように一本の管で繋がっているが、一筋縄ではない。他人とうまく話し合って一つのチームとしてバチっとはまった時に、固くて立派なアウトプットが出せる。

なかなか面白い示唆である。


ここで、これまで全く説明してこなかった表題の説明が出来る。MEMENTO COLIはMEMENTO MORIをモジった私の造語である。MORIは死を意味し、「死を想え」と訳されることが多い。COLIは何かというと、COLITIS=大腸炎のことである。
(ちなみにこのnoteは大腸炎で入院している時に始めたので、ハンドルネームをCOLITISにしている。)

今年1年間、うまくいったこと、うまくいかなかったこと等、多くのことが思い出される。
仕事は他人を行うので、多様性が顕在化されているが、実は自分の身体も異なる臓器のチームであり、赤の他人が内蔵されている。
美味しいからと言って何でも食べたり、飲みたいからと言って浴びるほど酒をのんでもいけない。身体の中の他人がその分、働かなければならず、時には壊れてしまうこともある。

年末のこのはた迷惑なタイミングでカンピロバクター腸炎にかかったことも、「MEMENTO COLI―大腸炎を想え―」という臓器からのメッセージなのかもしれない。
いや、そういうことでも思わなければこの苦しみは乗り越えられない。


明日は固くて立派なアウトプットが出るといいな。
そして、来年は仕事やプライベートでこれまた固くて立派なアウトプットを出せると良いな。
そんなことを考えながら、今日も整腸剤を飲む。


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