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白鷺の帯

 

 着付けを習い始めて5年になる。叔母さんや友人がもう着ないからと譲ってくれた着物たち。そして、大好きな門前仲町の古着屋さんで買った紬や帯。メルカリで入手した素敵な絞(しぼり)。そういうものたちを着まわして楽しんできたけどついに、自分のサイズで着物と帯を新調した。

 ここまで書いたものを下書きに保存したまま、なんともう2年が過ぎようとしている。この2年は私にとってはとっても長い2年だった。(初めてアパートを更新したし)

 英語圏の人たちは、離婚を「DIVORCE」ではなく「SEPARATION」と表現する、というのを最近知って、まさに「SEPARATION」を体験した自分としては、法律上の表現よりは、人間として人間同士が折り合わず、やむなく離別することになったニュアンスを含んだ「SEPARATION」というのは適切な言葉だなあと感じている。

 その「SEPARATION」を体験したのがちょうど2年前の6月。あの時は、別れることに必死で、別れる決断をした自分を正当化することに必死で、本当の気持ち、続けたいというわけではなかったけれど、どうして迎えに来てもらえなかったんだろうとか、やっぱり自分は異性からみると魅力が足りない動物個体なのかなあという劣等感が100%で、異常な精神状態だったんだなあと思う。

 その異常な精神を少しでも穏やかにしようという気持ちはあって、その一つが、着物だった。好きなことで回復するのが、人間の常だと思うのだけど、私の場合は、”初めての着物オーダーメイド"というのが、しっくりハマった。

 白い鷺(さぎ)が、柳の木の下から今にも飛び立ちそうな帯。真っ白な帯。本当は帯を買う予定は無かった。夏の浴衣をランクアップするのに、小千谷縮を買う予定で、知り合いの着物屋さんへ赴いたのだった。ブルーとグリーンとイエローの小千谷縮があって、好きなイエローを仕立てようと思って出かけたのだけれど、実際に身体に合わせてみると、ブルーが一番よく似合ったので、それで採寸して、購入した。そのとき、持っていた紺色の羅(透け感の高い、浴衣に締めるととてもモダンになる生地)の帯を合わせようと思っていたのだけれど、着物屋さんと話している中で出てきた絽(ろ)の真っ白な帯がとても素敵で、清水の舞台から飛び降りて、一緒に購入してしまったのだ。

 「SEPARATION」を体験した夏の終わり、秋の始まりくらいに仕立てた着物と帯が届いた。季節が少し進んでいたこともあり、その年に着付けることはなかった。翌年、私は何故か仕事にかまけて、浴衣しか着ることなく夏を過ごしてしまい、未だ、新調した着物に袖を通していない、という始末である。

 今年の夏は、どうなるのかわからないけれど、昨今の暑い気候を過ごしていると、つい、まだ五月なのに小千谷縮に袖を通したくなってしまう。今年はオンラインスナックも始めたし、そろそろ、着物をきてスナックを開くのもいいなあと思っている今日この頃。

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