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テンミニッツTV講義録①『本当に役立つ経済学全史』柿埜真吾

3時間で、経済論の「嘘と真実」が見えてくる!
アダム・スミス、リカード、マルクス、ケインズ、ハイエク、シュンペーター、フリードマン……人々の生活を豊かにした学者は誰か?
40点の図表と50点の写真で、どんどん分かる。

この記事では2023年10月20日発売の書籍、柿埜真吾・著『本当に役立つ経済学全史』の「はじめに」を全文公開いたします。

はじめに


「経済学史」は現実の経済を読み解くのに役に立つ

「経済学全史」と聞くと、「昔の経済学の話なんか学んで、何の役に立つのだろう」と思う方もいらっしゃることでしょう。「なんだか難しそう」と思われる方も多いと思います。
しかし、それは正しくありません。

実は、経済学の歴史を学ぶことは、現実の経済を読み解くうえでも、大いに役に立つものなのです。
日々、経済の諸問題について、いろいろな議論が飛び交っています。その議論のなかには、正直に申しあげて「これは、どうかな?」と思わざるをえないものが混じっているのも事実です。

経済についての議論の多くは、何らかの「前提」を設定して、その前提をベースに論理を組み立てています。とすると、もし前提が間違っていたらすべてが間違いということになってしまうわけですが、議論そのものは「論理的」に組み立てられているので、意外と間違いに気づきづらいのです。

そのため、口がうまい政治家や、詐欺のような金融商品を扱っている人たちが、「皆さん、騙されているのですよ。本当はこうなのですよ」などと煽情的に語るのを聞いて、逆にうっかり自分自身が騙されてしまう……などということも起こりがちです。

そのようなときに、役に立つのが、「経済学史」です。
「経済学史」は、長い年月をかけて、多くの偉大な経済学者が現実の経済に向き合い、探究し、学説を闘わせてきた歴史です。なかには、実際の経済政策に反映された例も数多くあります。そして、その経済政策の現実的な結果を受けて、さらに議論が繰り広げられてきました。

そのようにして営々と行なわれてきた経済学的な議論のなかには、多くの「前提の間違い」もありますし、「情勢判断の見誤り」もあります。そのような誤りは、当時から論争の種となってきましたし、後年になってあらためて検証が行なわれてもいます。

だからこそ、そのような論争や検証の積み重ねとしての「経済学史」を知っていれば、今、眼前で行なわれている経済についての議論の「間違い」にも気づきやすくなるのです。

その観点から、今回の「経済学史講義」では、単にそれぞれの経済学者たちの議論を教科書的・並列的に紹介していくのではなく、後世の批判的検証や、私の立場からの評価も加えて論じていきたいと思います。
もちろん、あくまで私の立ち位置からの評価ですから、それが絶対に正しいものとはいえません。

しかし、あえてそのようにしたほうが、結果として「眼前で行なわれている経済議論」の妥当性を自分自身で検証するのに役立つはずです。また、私とは違う意見をお持ちの方にとっても、それぞれ各々の考え方を検証し、発展させていく材料にしていただきやすいのではないかと思います。

今回の「経済学史」は、インターネットで視聴できる1話10分の教養動画メディア「テンミニッツTV」での講義を元にした「講義録」です。
講義の雰囲気を活かしてまとめる「講義録」ですので、必要な修正は最小限にとどめています。その性質上、どうしても記述に厳密さを欠いたり、説明を十分に尽くせていなかったりする部分があることも事実です。

しかし、その半面、大きな流れを勢いよく摑みとっていただきやすいことも確かでしょう。そのような講義録の特性をご理解いただき、ご活用いただければ幸いです。

講義動画をご覧いただければ、別の角度からご理解を深めていただいたり、より簡便に内容をご理解いただけたりする部分もあるのではないかと思います。
ぜひ、併せてご活用いただければ幸いです。

なお、書籍化にあたっては、岩田規久男学習院大学名誉教授、原田泰名古屋商科大学ビジネススクール教授、若田部昌澄早稲田大学教授、田中秀臣上武大学教授より貴重なアドバイスをいただきました。記して感謝します。もちろん残る誤りは筆者の責任です。

2023年9月18日  柿埜真吾


CONTENTS


第1講 経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか

・資本主義はそれまでの経済とどう違うか
・必ずしも「古典派経済学は古い」わけではない?
・「何でも自由放任すればいい」は古典派的な発想ではない
・学説の失敗か、政策の失敗か──賢人政治と経済学
・「大きな政府」と「小さな政府」で行き来している
〈コラム〉ミクロ経済学とマクロ経済学

第2講 重商主義と重農主義の真実
重商主義と重農主義…古典派経済学の前段階の主張とは?

・重商主義の始まり──「経済には法則がある」という気づき
・重商主義の終わり──皆が気づきはじめた2つの「おかしい」
・経済は「自由放任(レッセフェール)が良い」
・重農主義は農業保護主義ではなく、自由放任主義 30
〈コラム〉「自由放任」の由来

第3講 見えざる手と比較優位の真意
アダム・スミス「見えざる手」の真実とリカード「比較優位」

・アダム・スミスによるイギリス重商主義に対する痛烈な批判
・「見えざる手」が説く価格メカニズムと市場経済
・アダム・スミスは自由放任を説いたわけではない
・リカードの「比較優位」を「シャーロック・ホームズ」で考えてみる
・国同士でも比較優位は成り立つ
〈コラム〉哲学者としてのアダム・スミス

第4講 古典派経済学の特徴と時代的背景
古典派経済学が繁栄をもたらした…柱は自由貿易と貨幣数量説

・古典派経済学の柱は「自由貿易」と「貨幣数量説」
・古典派の限界…現代では通用しない「労働価値説」
・マルサス「人口論」のおかしさ
・古典派経済学の帰結──自由貿易と産業革命による経済的繁栄
・デフレ不況をもたらした「金本位制」
〈コラム〉ドイツ関税同盟の誤解

第5講 古典派を批判した異端者たち
異端の経済学者…ドイツ歴史学派、社会主義、マルクス主義

・かなり問題含みの保護主義…リストの主張
・「空想的社会主義」は本当に「空想的」だった
・マルクス主義は、ややずるい?…人気となった理由
〈コラム〉マルクスの目指したのは脱成長だったのか

第6講 労働価値説から限界革命へ
限界効用理論とは?…「労働価値説」はいかに否定されたか

・「労働価値説」に向けられた批判
・「限界」とは、「追加の1単位」のこと
・経済学の数学化と「一般均衡理論」
・学説の純粋な進歩──イデオロギーは関係ない「限界効用理論」
〈コラム〉限界革命の先駆者たち

第7講 新古典派経済学とは何か
新古典派経済学への誤解と実際…特徴と古典派との違いは?

・「新古典派」への誤解──現実の「新古典派」はもっと柔軟
・穏健なケンブリッジ学派、数理的分析を好むローザンヌ学派
・新古典派では特殊なオーストリア学派、一番面白いのはメンガー
・資源の配分は限界生産力によって決まっている
・景気変動の問題と貨幣の関係
〈コラム〉クールヘッド&ウォームハート

第8講 1929年世界大恐慌の真実
貨幣数量説と大恐慌…大恐慌の本当の原因はFRBのミスだった

・「貨幣数量説」の重要なポイントは「短期的な影響」の大きさ
・なぜ大恐慌が起きたか
・大恐慌のスタートは「株価暴落」ではなかった
・FRBがやるべきことをやっていなかった
〈コラム〉真正手形ドクトリン

第9講 ケインズ、計画経済、オーストリア学派
大恐慌とケインズ…様々な「恐慌克服の処方箋」の真実を探る

・結局、ケインズの理論とはどういうものだったか
・宣伝と実態は大違い…ソ連の「プロパガンダ」を信じた人々
・オーストリア学派も有効な処方箋を示せず
〈コラム〉ケインズ理論の大流行

第10講 「ケインズ政策」の誤解と真実
ケインズ革命への誤解…真に独創的なのは、どの部分か?

・「ケインズ革命」は実は誤解されている
・ケインズが述べた財政政策の真のポイントとは?
・ケインズは金融政策の重要性も説いていた
・危うさも併せ持つケインズの発想…さらにその弟子
〈コラム〉流動性の罠

第11講 オーストリア学派の真実
オーストリア学派…ミーゼス、ハイエク、シュンペーター

・ミーゼスが提起した「そもそも計画経済は可能なのか」
・計画経済は「隷従への道」だと一蹴したハイエク
・シュンペーターが指摘した「企業家の創造的な破壊」
〈コラム〉企業家の役割

第12講 ヒトラーの経済政策への誤解
「ヒトラーの経済政策はケインズ的で大成功だった」は大噓

・ヒトラーの経済政策が「素晴らしかった」はまったくの誤解
・ドイツの失業率が激減したカラクリ
・第二次大戦前に「乳児死亡率」が上がっていた!
〈コラム〉ドイツ共産党の反ユダヤ主義

第13講 20世紀最大の経済学者フリードマン
ミルトン・フリードマン…金融政策の復権と自由市場の重要性

・「大きな政府」に異を唱えたフリードマン
・恒常所得仮説──公共事業の経済効果は大きくない
・マネタリズム──金融政策の重要性を指摘
・「弱肉強食」に非ず…福祉制度も提唱したフリードマン
・学説と人格は別なのに…それよりも大切なこと
〈コラム〉政府も失敗する

第14講 ケインズ政策の限界と転換
「貨幣量と物価」の現代経済史…そしてスタグフレーション

・長い目で見ると貨幣の量と物価はみごとに比例している
・ケインズ政策の「過信」が招いたスタグフレーション
・党派に関係なく、フリードマンの主張は受け入れられた
〈コラム〉ルールか裁量か

第15講 3つのケインジアンとMMTの違い
「ケインジアン」の分岐とMMT?…正統と異端の見分け方

・ケインズのすぐ後に登場した「オールドケインジアン」
・「制約された裁量」を重んじる「ニューケインジアン」
・市場経済への不信感が強い「ポストケインジアン」
・「MMT(現代貨幣理論)」とは何か
・ポストケインジアンからも批判されるMMTの問題点
〈コラム〉貨幣国定説とMMT

第16講 現代の経済学のコンセンサス
結局、主流派と異端派の何が違うか…経済学史の大きな示唆

・スタグフレーションが与えた影響
・主流派と異端派は何が根本的に違うのか
・「自分が考えた理論が正しい」という理論は誤り
・長期的視点でみると、起こるべくして起こったインフレ
・現代の経済学のコンセンサス──経済学の伝統と英知を活用すべし
〈コラム〉さらに知りたい読者のために

参考文献・読書リスト


テンミニッツTVとは


多分野の専門家たちの講義を1話10分の動画で配信する教養動画メディアです。「知は力」であり、「知は楽しみ」でもあります。しかも、その力や楽しみは、尽きることはありません。物事の本質をつかむためには、そのテーマについて「一番わかっている人」の話を聞くことこそ最良の手段。250人以上の講師陣による1話10分の講義動画で、最高水準の「知」や「教養」を学べます。

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ここまでお読みいただきありがとうございました。本書は全国の書店・ネット書店にて発売中です!ぜひお手に取っていただけたら幸いです、よろしくお願いいたします。

柿埜真吾(かきの・しんご)
1987年生まれ。経済学者、思想史家。2010年、学習院大学文学部哲学科卒業。2012年、学習院大学大学院経済学研究科修士課程修了。2013~2014年、立教大学兼任講師。2020年より高崎経済大学非常勤講師。
著書に『自由と成長の経済学~「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠 』『ミルトン・フリードマンの日本経済論』(以上、PHP新書)、『自由な社会をつくる経済学』(岩田規久男氏との共著、読書人)など。

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