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【GIFT】 #おすすめギフト

汗が滴り落ちる

ケトルベルを振り、無心で汗を流し続ける

床に汗で水たまりができている

冬なのに汗が滝のようだ


ブザーが鳴る

インターバルを2分設けてあるのだ

そしてiPhoneをとり、noteを開くと【おすすめギフト】というお題が発表されているではないか

わたしは午後の予定を全てキャンセルし、さっとシャワーを浴びて、道場奥の事務所でこのnoteを書いている


落ち着かぬ


興奮しているのはケトルベルのせいではない

このお題が、そして脳内をめぐるおすすめしたい商品がわたしを奮い立たせるのだ


内線で秘書に烏龍茶を美味しく淹れてもってきてくれないか、そう頼み、鉄製の急須の中で茶葉の香りをひらいている間に書庫へ向かい例の資料を持ってくるように、とも告げる


ものの数分だろうか、資料を手に秘書が現れる

「とうとうこの日が。待ちわびておりました」

「うむ、わたしも同じ気持ちであるよ、キャサリン。よく今まで我慢してくれた。感謝している。ここからはわたし一人でできるし、きっとわたし一人でやるべきなのだろう。ありがとう、キャサリン。もう下がっていいよ。今まで本当にありがとう。」

先代より預かっていたものを一式彼女に渡し、この意思の強い女性からふと、長い年月の積み上げた細やかな塵のようなものが落ちていくように感じた。

「Madame Clione。わたしから申し上げることではないのでしょうが、あなたは立派に成し遂げました。原生林の奥深くにじっと動かぬ岩のように、静かに、けれど強く、誰よりも冷静に成し遂げたのです。三代続くこの想い、ようやく報われましょう。」


重いドアは音もなく、わたしをこの場所に残る最後の一人にした

万年筆を持つ腕が震えていた、そして気付く、我が両の眼を湿らすものに



さあ、なにについて語ろう。


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※ここから先はノンフィクション





母方の祖父はこれを半分に切ったものを冷えた状態で食べることを好んだ。

キリンのラガービールで喉の奥へと流し込み、なんの会話もなく、阪神の野球を観ている


父は同じテーブルで同じものを食べ、飲んだ。


母はなにかしらの会話を試みるが、祖父は返事もなくじっとこれを肴にビールを飲む。

ポメラニアンもいて、この小犬はあまり動かぬ祖父になついていた。

あまり動かないということは小さな生き物にとってとても安心できる存在なのだ。

父は足を動かしたりすることが多いのでよく噛まれる。

毎年夏に帰省する、神戸にある母方の実家での日常とはこんな光景だ。


食事が終わると祖父は部屋に戻り、残った私たちはゆっくりと食事の続きをしながら、父はお酒を飲む。

しばらくすると、祖母がわたしに、祖父の部屋に遊びに行ってらっしゃいと告げる。

寡黙な祖父は愛情表現を得意としない。今思えばわたしは愛されていたのだろう。祖父は愛を持っていたが、伝える能力は限定されたものだった。


祖父の部屋に入る。

タバコの匂いがする。

セブンスターのタバコと、金色の大きなライター。祖父の部屋は和室で、わたしは座椅子に座る祖父のそばに座る。

すると、祖父は短く刈られたわたしの髪を上に引っ張る。

「痛いか?」

「痛い」

当時のわたしはこの痛い行為が嫌いだった。

祖父はわたしの短く刈られた髪を不憫に思っていたのだと思う。

「引っ張ったら伸びる」

小さく強い声でそう言う。


日中になると、既に退職していた祖父がわたしにお金を渡す。

「天ぷら買うてこい」

天ぷらと呼ばれるそれをわたしは近所のスーパーへ買いに行く。

1日に3袋。

残ったお金の一部はわたしのお小遣いになり、ガチャガチャのおでんやらお寿司やらのレトロな消しゴムを買ってみたり、人形のおまけのついたお菓子を買ったりした。

お小遣いをあげるのが恥かしいので、天ぷらをまとめ買いすることなく毎日買いに行かせる。


家へ戻ると、シャンデリアのある立派な洋室でわたしはお小遣いで買ったおでんやらお寿司やらの消しゴムなどで遊ぶ。

たしかちくわぶが好きだった。ちくわぶのおでんの消しゴムはいつも物語の主役であった。

大きなステレオもあって、レコードでオペラやジャズがかかっていたように思う。

そんな洋室でわたしは帰省中の大半を過ごした。


夜になると、天ぷらと呼ばれるそれを冷蔵庫から取り出して、母がそれを切り分ける。

そしてまた夕飯が始まる。


祖父は大阪にある会社のいい役職の人だったようで、様々な美味しいものをもらってきていたが、それでもこの天ぷらと呼ばれるものを愛していた。


このごろはそんな昔のことを思い出していた。


私たち家族は幸せに生きている。

どちらの祖母も祖父ももう亡くなってしまったけれど、父も母も姉もわたしも生きていて、それは幸せなことだ。

でもみんな歳をとって、わたしは少し変わってしまって、父も母も少し変わってしまって、姉はやや病気がちだ。

どこの家庭もそんなことはあるのだけれど、確実に昔通りの仲の良さではない。


年末は長く実家へ帰る

いい年末年始にしたいな、そう考えた時に浮かんできた、この天ぷらと呼ばれるもの。

そうだ、これを買って、みんなで食べよう。そう思った。

ホームページを見てみた。

ネットでも買えることがわかった。

でも、天ぷらという商品は別の容姿をしていた。

傷ついた。

あの思い出の味はもうなかった。


あきらめ悪く、何かの間違いで違うカテゴリーに入ってるんじゃないか、そう思ったわたしはくまなく探した。

そして見つけた。

それが、これ


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カネテツ、野菜フライ。  ※カネテツさん、写真お借りしました

なんと、65周年記念のロングセラー。

祖父は自分で買うことはなかっただろうから、商品名を勝手につけて呼んでいたのだろう。

説明しても正式名に興味を示さないだろうから、だれも何も言わずに天ぷらと呼んでいた、そんなところだ。


GIFTにふさわしいかどうかはわからない。

それでもきっと、みんなで食べて、美味しくて、それでいいのではないか。


※この野菜フライに関する投稿が続いていますが、わたしは回し者ではありません


お味はというと、素朴で程よくジャンクな感じが良い。

めっちゃ美味しいけど、豪華な味ではないの。それがいい。


ネットで購入は楽天さんみたい。近畿地方のスーパーでは買えるんだけどね、そのほかの地域はわからない。

一袋2枚入りで200円プラス税金かしら。

楽天さんは今見てみたら5500円以上で送料無料なのかな。各自調べて欲しいけど、いったいどれだけの野菜フライをかえば送料無料になるのだろうか。

うむ、うれし悩まし


わたしは祖父から三世代続くこのカネテツの野菜フライ好きを四世代目に引き継げないけれど、これからもずっとあってくれるといいな。

これから家族の集まるときは、昔みたいにこれを食卓に並べたい!

楽しい年末年始になりそう!


【おしまい】

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