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「早ければ6月14日の日銀の金融政策決定会合の後に量的緩和縮小や、利上げが発表される」通貨ストラテジスト

通貨ストラテジストのAkira氏に、今後の日銀の利上げに対する見立てなどについて伺いました。

Akira氏 プロフィール

大学院修了後、複数の金融機関、シンクタンクでリサーチ業務に従事。2022年より大手金融機関にて、為替ストラテジストとして為替リサーチを担当。ドル円などG10通貨のほか、アジアを中心としたエマージング通貨が専門。毎月、中国・東南アジアに出張し、そこで得られる現地情報を踏まえた情報を発信。

取材実施日

2024年5月30日

日銀は市場予想よりも早く金融政策を引き締め方向に転じると予想

ーー現在のマーケットについてどのように見ていますか。

米国の利下げが2024年内に一、二回あり、日銀の金融緩和も長くは続かないだろうとみており、今後は「緩やかなドル安」、かつ「緩やかな円高」になると予想しています。

ーー「今後は緩やかなドル安、緩やかな円高になる」という予想について具体的に教えてください。

これまで高値を付けてきたドル円相場が急落するというよりは、緩やかに、じりじりとドル安円高が進むイメージです。

理由の一つはFRBの利下げですね。

はい、マーケットは少なくとも一回は2024年中に利下げが行われることを織り込んでいます。

理由の二つ目は日銀の金融引き締めです。

今年3月に、日銀はマイナス金利を撤廃し、イールドカーブコントロールもやめました。これまで長らく続けてきた異次元緩和を終えたことになります。

日銀は「2%の物価目標」を達成するまで金融緩和を続けるとみなされてきましたが、市場予想よりも早く、金融政策が引き締め方向に転じると予想しています。

超過貯蓄や資産効果の影響も弱まり、いよいよ米景気は冷える見立て

ーー「マーケットは少なくとも一回は2024年中に利下げが行われることを織り込んでいる」とのことですが、利下げは元々は2023年内での実施が織り込まれていました。しかし、現在でも、まだ実行されていません。本当に2024年内に利下げはあるとお考えですか。

はい、三つの根拠から、2024年内に利下げはあり得ると考えています。

一点目は、FRB自身が、いわゆるドットチャートで、年内に利下げを行うとの見通しを出していることが挙げられます。

二点目は、これまで強かった米国の景気がいよいよ冷えるだろうという見立てのためです。

これだけ急速な利上げの中で、これまで米国の消費が絶好調だったのは、手元で使えるキャッシュが大量に積み上がっていたためです。「超過貯蓄」と呼んでいますが、新型コロナウイルス感染症が流行した時期に、バイデン政権が各種給付金を支給したことで、家計の懐具合が良くなっていたのですね。

また、コロナ禍でばら撒かれたドルのうち、経済的に余裕がある人々は、株式投資などマーケットで資金を運用していたとみられます。

いわゆる資産効果によって消費が活発になり、厳しい引き締め環境でも景気が良かったのだとみられます。実際、2023年を振り返ると、テック株を中心に米国株が上昇し続けていました。

しかし、この積み上がっていたキャッシュがいよいよ底をつき、景気に歯止めがかかる、それを受けてFRBが利下げを検討する…と考えております。

三点目は、米国の大統領選挙です。

今年11月の選挙に向けて、大統領候補者は、景気と金融政策を絡めて、お互いを非難するでしょう。トランプ氏は「バイデンがFRBと組んで、ウォール街の人間を儲けさせるために利上げしたから生活が苦しくなった」と主張し、バイデン氏は「今後、利下げをするから生活は改善される」と反論する…という姿が容易に想像できそうですね。

どうしても、FRBには「利下げせよ」というプレッシャーがかかりそうです。

選挙の直前、9月や11月のFOMCでは利下げ決定は難しいかもしれませんが、選挙後には一回程度は利下げするとみています。

参考:もしトラでFRBの独立性が大きく脅かされるリスクが浮上:中央銀行の独立は人類の英知の産物 | 野村総合研究所(NRI)

大統領選の直前にマーケットに大きな変化を起こすというのはFRBとしても判断しづらい

ーー大統領選に関連して利下げが行われるとして、なぜ選挙前でなく選挙後なのでしょうか。

大統領選の直前にマーケットに大きな変化を起こすというのはFRBとしても判断しづらく、そのため選挙後に利下げが決定される可能性が高い、と見ています。

中央銀行と政府、政治家との間には、適切な距離感が必要なのですが、上手く距離を取ることは、とても難しい。これは米国に限らず、日本を含めてどの国でも同様です。

ーー大統領選が2024年11月の実施です。つまり11月か12月での利下げを予想しているということでしょうか。

マーケットのコンセンサスとしては11月に一回目の利下げが実施されると予想されています。ただし、予想は流動的で、今後の経済指標や、それを受けたFRBの情報発信によって容易に変化しそうです。

リボの延滞率などは2023年12月時点でリーマン・ショック以来の水準まで悪化してきている

ーー利下げを予想する理由の二つ目で「積み上がっていたキャッシュがいよいよ底をつき、景気に歯止めがかかる」とのことですが、具体的にはどのような指標を参考に主張されていますか。

米国のリボの延滞率などですね。実際、これらの数値では2023年12月時点でリーマン・ショック以来の水準まで悪化してきています。

今後は、おそらく家計消費など月次の統計でも、景気減速が反映されてくると思います。

トランプ氏もバイデン氏も、これら有権者を蔑ろにはできませんので、当然、利下げという形で期待に応えてくると思いますし、マーケットもそのような点を織り込んでいるのだろうと思います。

日銀が掲げてきた「2%の物価目標」は達成されつつあり、利上げに必要な条件は揃いつつある

ーー日本の金融政策について、「大規模な緩和が終わり引き締め方向に転じるだろう」との見立てとのことですが、利上げは実体経済へのダメージも大きいです。本当に引き締めできるのでしょうか。

総務省が公表している消費者物価指数(CPI)は既に2%を超えており、日銀が公表している輸入物価の数値も、円安の影響を受けてプラスに転じています。一般的に、輸入物価の上昇は数ヵ月かけて国内物価に波及していくため、今後もCPIは上昇すると予想されます。

こういった現状を考慮すれば、日銀が掲げてきた「2%の物価目標」は達成されつつあり、利上げに必要な条件は揃いつつあります。

実際、日銀が2024年4月に発表した『展望レポート』でも、「2026年度にかけて、コアCPI(消費者物価指数 除く生鮮食品)が前年比+1.9%まで上昇する」との見通しを示しています。

参考:https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2404b.pdf(9頁)

「2026年度まで2%近辺でインフレが続く」、すなわち、いつでも利上げを行えると日銀が主張していると言えます。

ーー2024年4月のレポートで「2026年度に至るまで1.9%程度まで物価は上昇する」との見解が示されていたとのことですが、そもそもレポートを作成した時点で物価はそれ以上に上がっていたのではないでしょうか。

今、物価が2%を超えて上昇していることについて、日銀としては「輸入物価が押し上げている」とみています。また、輸入物価が上昇しているのは「円安が要因である」という見解なんです。

では、「ドル安円高が進んだら、輸入物価が下がって2%の物価目標は未達になるのか」というと、そうではない。今後は人手不足を背景に国内の賃金が上昇することを通じて、「2%の物価目標」は達成できると日銀は予想しています。

実際、このような見立てに基づいて、日銀は2024年3月に金融政策を正常化しました。今後は量的緩和の縮小や利上げを進めると私は予想しています。

6月14日の日銀の金融政策決定会合にて量的緩和の縮小を発表する都合のよさ

ーー日銀が2024年内に利上げや量的緩和の縮小に進むと仮定して、それはいつ頃だと見ていますか。

私は、6月14日に行われる日銀の金融政策決定会合にて、量的緩和すなわち国債購入の縮小が発表されるとみています。また、追加利上げのメインシナリオは7月会合ですが、6月の会合でもサプライズの可能性はあり得ます。

ーーそれはなぜでしょうか。

FOMCがその直前の6月11日、12日に行われ、日銀としてはその結果を見て後出しで判断できるため、利上げのタイミングとしてはやりやすいのです。

ーー後出しできるといっても、米国の金利は維持か利下げしかないのではないでしょうか。

日本時間の6月12日に公表される米国CPIの数値が大きく上振れた場合、その後のFOMCが予想以上にタカ派に振れる可能性も決してゼロではありません。

そのため米国のCPI、FOMCの直後に日銀の金融政策決定会合が行われるというのは、金融政策を判断するタイミングとしてはとても都合がいいんです。

ーー6月14日の日銀の金融政策決定会合結果の発表はいつごろ行われるのでしょうか。

決まっていないのですが、早くて11時ごろ、遅いと13時ごろになりそうです。大きな政策変更がある場合、発表の時間が遅くなります。市場参加者は、その間、食事に行くこともままならなくなりますね。

5月の連休後、植田総裁の発言が明らかに円安を警戒する内容に変わってきている

ーー「量的緩和の縮小や追加利上げが行われる」と考える理由について教えてください。

5月の連休以降、日銀が、円安と金融政策を絡めて情報発信を行うようになった、という点に注目しています。

そもそも、4月の終わりに行われた金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁は円安と金融政策について、「日銀としては為替相場が動いたから金融政策を変更するということはない」旨の回答をしました。

参考:日銀金融政策決定会合:予想よりもハト派的なメッセージに | 野村総合研究所(NRI)

これが円安容認と捉えられ、連休前にドル円が160円近辺まで動きました。しかし、連休後には、植田総裁の発言が、明らかに円安を警戒する内容に変わってきています。

例えば、5月9日に公表された4月25日、26日の会合の「主な意見」で、やたらと円安を警戒するような発言が載っています。ちなみに、この「主な意見」の編集権は植田総裁にあります。

明らかに4月26日の記者会見と、5月9日に公表された「主な意見」では円安へのトーンが異なっています。これはあくまで推測ですが、植田総裁は5月7日の夕方に首相官邸に呼び出された際に、岸田首相から日銀の円安に関する情報発信について苦言を呈された、という事情もあったのではないでしょうか。

また、岸田首相のみならず、おそらく日銀の事務方、財務省からも注意された可能性が高いです。

参考:植田日銀総裁が首相と為替を議論、基調物価への影響を注視-連携確認 – Bloomberg

その後、5月29日に、ハト派とされている日銀の安達審議委員ですら、「円安進行でインフレが加速すれば、金融引き締めに転じる可能性も否定できない」旨を講演で主張されています。

参考:【挨拶】安達審議委員「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(熊本) : 日本銀行 Bank of Japan

こういった事実を考慮すれば、次の6月14日の会合で利上げする可能性もあり得ない話ではない、とみています。

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全三回のAkira氏のインタビュー、2記事目に続きます

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