お読書のコーナー① ─『厭魅の如き憑くもの』

さて、今回紹介するのは三津田信三『厭魅の如き憑くもの』です。
著者名は「みつだ しんぞう」、
作品名は『まじもののごときつくもの』と読みます。

表紙を見ていただければ分かると思うけど、ホラー要素があります。でもホラー要素もりもりのくそ怖い「だけ」の尻切れしょうもな小説じゃなくて、ミステリ要素が絡んできます。
「ホラーとミステリの融合」という触れ込みで名を轟かせている著者様ですが、それに土着的な要素を盛り込んだのが今回の作品です。「刀城言耶(とうじょうげんや)」という探偵が活躍するシリーズの第1作となっています。

あらすじ・紹介

戦後昭和、山村である神々櫛(かがぐし)村を舞台に、「憑きもの筋」である谺呀治(かがち)家と、「非憑きもの筋」である神櫛(かみぐし)家という2つの旧家をまたいで不可解な連続殺人が繰り広げられる。

この時点で厭魅とか刀城言耶とか村名・屋号を読んで「なにこの漢字?」と思った人いるでしょ?これらに面食らった人は多いと思うが、こんなもんは序の口で、同音異句の名前を持つ人物が複数人出てきたり、難読漢字が全編に渡ってしこたま使われていたりする。
慣れてきたら読みやすいかもしれないが、慣れていないうちは、ちょっとページを戻ってよみがなを確認する、みたいな行為を数回おこなうと思う。僕もやった。

物語は探偵・刀城言耶の「取材ノート」、谺呀治家の憑座(よりまし)を務める紗霧の「日記」、神櫛家の三男であり、村の土着信仰に疑問を抱き嫌っている漣三郎の「記述録」という三つを軸に語られていく。それぞれの視点から怪異に対する考えが語られていくため、そこの違いに着目して読むと面白い。それらを比較し、自分なりにまとめてみるとなお良いかもしれない。

基本的にネタバレ嫌いなので、あんまりオチに関してどうこう言いたくないのですが、この作品は本当に”すごい”です。
言ってしまうと「どんでん返し」がすごい作品なのですが、それについてはまた後述します。

感想

あらすじに「不可解な連続殺人が繰り広げられる」と書いたが、実際のところ、前半は村とそれに関する因習や信仰についてや、両家の特徴と関係性などの説明に割かれている。いわば導入部だ。さらっと「前半」という言葉で片付けたが、だいたい200ページほどだ。だってこの作品、解説抜きでも609ページあるもん。極厚。
導入部だけでなっげ~よ、と思われるかもしれない。でもこの説明を薄くしてしまうと、作品の魅力が半減すると考えている。

では、その理由はなぜか?
それは、この作者の「刀城言耶」シリーズ、ひいては土着モノのミステリ・ホラー作品において非常に重要な行為である「作品の舞台に没入する」ということをスムーズにおこなうためだろう、と。
あたかもその「舞台」に迷い込んだような感覚。いつのまにか村の空気、革が流れている音、山中の薄気味悪い雰囲気、屋敷の古びた匂い、登場人物たちの発する空気感。
それら全てが、読み進めていくうちにどんどんと強くなっていく。あのボリュームある導入部なくして、この作品は成立しないだろうと思う。

事件が起きてからの展開は意外とスピーディーに感じました。導入部がわりとゆっくり進むから、その反動で早く感じちゃうだけなのかも。村で信仰の対象なっている「カカシ様」という偶像の格好を殺されたのちに身につけさせられるのだが、その得も言えぬ不気味さがいい。
その事件の合間をぬって過去の怪異話が挿入されるのが、ミステリ展開にアクセントを加えつつ、恐怖を並行して植え付けてくる。織り交ぜ方が非常に上手だと思う。

さきほど触れた「どんでん返し」についても、まったく予測できない。
そこまでにたどり着くための伏線の張り方がえげつないほど練り込まれていて、筆者の才能と文筆力に目を見張ります。
最終章ですべてのからくりをバラされて、「え、あれもこれもそれもなの?」と再読しても気づくか下手したら気づかないかレベルなので、意識して読んでもたぶん気づかない。だから先程「どんでん返し」がすごいと明言しました。「アクロイド殺し」とかのレベルじゃない。

普段こういったテーマの小説を読まない人には、導入部がちょっとハードル高いかもしれません。読みづらい固有名詞も多いし。そこをなんとか乗り越えて、ミステリ的な興奮とホラー的なおぞましさを美味しくいただきながら、読み進めた果てにある何回もひねられる展開と圧巻の結末。

ホラー×ミステリ小説を味わうということを考えれば、本作は最高の作品だと思います。読んでくれ。

おわりに

①とかつけて、継続更新のハードさを上げていくスタイル。背水の陣だ。

というわけで、このコーナーでは最近読んだ本の話をしていこうと思います。したいんだから、させてよ。好きなんだから。

ジャンルは限りません。マンガでも小説でも。なんでも。

どこかの誰かに、僕が紹介した本で面白いと思ってもらえたら嬉しいです。これが動機です。

頑張るぞ。肩の力を抜きながら。だって趣味だし。

(終)

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