「楽にダイエット」の誘い文句で糖尿病治療薬を安易に処方!?
一部の美容クリニックなどで、本来は糖尿病の患者が使用する薬がダイエット目的で処方されているそうです。食欲を抑える効果があるそうですが、オンライン診療による処方で副作用等が出た場合の対応が不十分なケースもみられ、国民生活センターなどにも相談が寄せられています。
「糖尿病治療薬でダイエット」が横行!?
先日、ニュース番組で取り上げているのを見て気になったので調べてみました。
まずは、東京新聞からの引用です。
糖尿病患者に行き渡らないほど、ダイエット目的で処方されているなんて恐ろしいです。副作用については、TBSのニュース番組で取り上げていました(約5分)。
糖尿病の治療薬「リベルサス」をダイエット目的で処方された、Aさんの事例です。
20代の女性Bさんは、“重篤な副作用”が出たとのこと。
動画では、クリニックのオンライン診療がどのように行われているかも取材しています。
事前にクリニックの事務員から「腹痛や吐き気などの副作用が出る場合があるが、2、3週間程度で治まる」といった説明があっただけで、医師の診察は、1分半ほどで終了。医師からは、副作用の説明は一切ないとのこと。こんなに簡単に処方されているなんて、驚きました。
リベルサスの添付文書や審査報告書は下記のページで公開されています。
一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)
販売名:リベルサス錠
劇薬です!
そして審査報告書は、黒塗り祭り!
申請時点で使用前例のない添加剤が含有されています。
このような処方について、2023年3月2日に日本医師会定例記者会見でも触れられていますが、2020年6月17日の定例記者会見でも指摘されていたとのこと。最近始まったことではなかったのですね。
厚労省は3年もの間、見過ごしてきたということなのでしょうか。
堂々と「GLP-1ダイエット」を勧めるクリニック
Googleで「GLP-1ダイエット」と検索すると、多くのクリニックがヒットします。上位にあったクリニックで処方されているのは、飲み薬ではなく注射タイプでした。堂々と「ダイエット注射」と書いていますし、注射の打ち方を動画で説明しています。
私が見た動画に出てきた注射「Saxenda(サクセンダ)」は、「GLP-1ダイエット」を勧めている多くのクリニックで使われています。PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のサイトで「サクセンダ」を検索しても、該当するものはありませんでした。
クリニックによって「サクセンダはFDA(アメリカ食品医薬品局)をはじめ、諸外国で肥満治療薬として承認されています」「サクセンダは日本では糖尿病治療薬として厚生労働省の認可を受けています」「サクセンダは糖尿病治療薬ではなくダイエット薬です」などと書かれていて、よくわかりませんでした。
サクセンダのサイトには、下記のように書かれています。
サクセンダ (リラグルチド) 注射剤 3 mg は、医学的な問題がある過剰体重(BMI ≧ 27)の成人、肥満 (BMI ≧ 30) を有する成人、および体重が 132 ポンド (60 kg) を超える 12 ~ 17 歳の小児に使用される注射用処方薬とのこと。これを読む限り、サクセンダは糖尿病の薬ではなく、医学的な介入が必要な過剰体重や肥満に使われる薬ということのようです。
「カロリーを減らした食事」と「身体活動を増やすこと」と併せて使う必要があるとも書かれており、これだけで痩せられるわけではなさそうです。
また、「サクセンダとビクトーザは同じ有効成分リラグルチドを含んでいる」と書かれています。
ビクトーザ(一般名「リラグルチド」)は、日本では糖尿病治療薬として承認されています。
「ビクトーザとサクセンダはほぼ同じ」と書かれているクリニックもあり、同じであるなら、サクセンダも糖尿病治療薬と考えてもよいように思うのですが、なんだかよくわかりません。結局、サクセンダは国内では未承認で、ビクトーザとは3mgと18mgという、量の違いということなのでしょうか。
ビクトーザ(一般名「リラグルチド」)は添付文書が公開されているので、確認してみました。
やっぱりこれも劇薬です!
劇薬なのに、初診からオンライン受診で処方しているクリニックもあります。
オンラインでどこまで訓練や指導ができるのでしょうか。
いくつかのクリニックでは副作用について、治療初期に「便秘、吐き気、胃のむかつき、下痢など」の症状が現れる場合があるが、毎日継続するとだんだんと症状が軽くなり消えていくと書かれていました。
それ以上のことについては、書いてあるクリニックもあれば、書いていないクリニックもありました。
有効成分が同じであるビクトーザの添付文書には、重大な副作用として下記のように書かれています。
頻度不明ということは、誰に起きるかわかりません。ビクトーザより量が少ないとしても継続して使うものなら、これらについてもリスクとして説明するべきではないでしょうか。
全国の消費生活センター等には、美容医療をオンライン診療で行うクリニックに関する相談が2017年頃から寄せられているそうで、国民生活センターのサイトには、「アドバイザーから自己注射の方法や薬剤の量を指示されるだけで、副作用が出ても医師の対応がない」という相談事例などが紹介されています(相談事例は下のPDFです)。
<概要>
<相談事例の詳細>
自宅で完結?手軽に痩せられる?痩身をうたうオンライン美容医療にご注意!-糖尿病治療薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられます(PDF)
PMDAの医療安全情報にも、下記のように書かれています。
GLP-1 受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の 適正使用に関するお知らせ
ダイエット目的でこれらの薬を処方されている人は、ご自身で添付文書を確認したほうがよいと思います。このリストにないサクセンダは国内未承認なので、もし健康被害が起きても医薬品被害救済制度の対象外となるようです。
PMDAのサイトでは、薬の名前を入れれば検索できます。
2023年9月20日に開催された「第13回 医薬品等行政評価・監視委員会」でも、取り上げられました。
【資料1-1】糖尿病治療薬等の適用外使用に関連した注意喚起の取組
【資料1-2】医薬品医療機器等法に係る医薬品広告の規制と適正使用に関する注意喚起について
もし、副作用についてきちんと対応してもらえない場合など、相談窓口も書かれています。