見出し画像

ビジュアルと反比例する生き方と場所     映画「ミッドサマー」感想

話題になっている映画ですが、とても面白かったです。

私はホラー映画は滅多に見ないし、アリ・アスター監督の作品もこれが初めてですが、負の想像力大爆発‼、を感じさせる映画だと思います。

そして、もしこの方に恨みを買うようなことがあれば、脳内や作品の中で、トリッキーな方法で抹殺されそうだなと、全く個人的な見解を持ちました。

この映画の舞台は、スェーデンのヘルシングランド地方にある、とある村。90年に一度(という触れ込み)の祝祭に参加するため、大学院生である主人公と彼女の恋人、恋人の友人数人でアメリカから遥々海を渡っていきますが、その地が何とも現実離れした土地でした(勿論架空です)。

四季の緩急を感じさせない、穏やかで住みやすそうな気候を思わせるような自然環境、建物内部の壁面に描かれる、宗教的ながらもどこかポップで目を引く絵画の数々、白い民族衣装をまとった、争いごとを好まない心穏やかそうな村人たち。

絵面えづらだけだと、是非そこにいって癒されたい、と思わせる場所ですが(劇中でも、主人公が出発前に見せてもらった写メで、心を動かされる場面があります)、現地での出来事は、そんな甘い観光客の現実逃避気分を打ち消すような、なかなか勢いのある内容でした。

ホルガという小さな共同体の中で行われているのが、まさに奇祭や奇儀式、奇習のオンパレード。
時代遅れとはまた別次元のものです。
私の極小脳みそがストーリーに追いつけず、途中何度も脱落しそうにもなりました。が、画面の美しさだけが救いを与えくれ、映画に引き戻してくれます。

この映画のディレクターズカット版を、私は自宅で夫とネットフリックスで鑑賞したのですが、ここで行われる儀式は、現代社会の価値観とは合わないものの、本来人間はこうあるべきではないか、と考えさせられるものもあったよなあ、と鑑賞後に話をしました。

公式サイトを見ると、この映画は、北欧の歴史や民話・神話を参照した部分が多々あるようです。
我が夫と語ったこの場面が現代社会に対して問題提起を意図しているかどうかはわかりませんが、大昔の生活というのは、集団から孤立してしまえば生きていくのが難しく、今よりもずっと不便で苦しいでしょうから、生まれた場所が多少トンチキ(というレベルを遥かに超越していますが)でも従わざるを得ない、というのは私でも想像できます。

なので、劇中で見られる儀式や慣習も、オリジナルだとは理解できますが、時代や環境によって人の価値観や考え方は変容するものだろうし、何か根拠や願いがあって祭りや儀式は発生するものだろうし、別な形であれ、あながち昔はこれくらいトンチキな生き方も存在していたのでは、とふと思わせました(それでも、これはどうしてもありえないだろう、という行事等も多々見受けられましたが)。


劇中ではあまりフィーチャーされていませんが、淡々と儀式を行う村人よりも遥かにサイコパスなのが、この共同体出身で、留学生としてアメリカの大学生で学ぶペレです。
彼がまさに、主人公たちをこの祭りに招いた人物でした。

主人公ダニーの恋人の友人の一人ですが、誰よりも人当たりが良く、話が通じそうな彼で、ダニーも彼には多少心を開いていたようです(外の友人はメンヘラな彼女に割と塩対応)。
が、その普段の態度とは裏腹に、故郷とは異次元のアメリカ文化にうまく順応し、学校で主人公の恋人やその友人たちと友情を温め、来るべき日のため虎視眈々と狙っていたのでしょうか。

何というか人は見かけによらないもの、この映画で私の人間不信感が復活しそうです。
一行が村に到着したらしめたもの、と考えたのでしょう、後は何の説明もなく、次から次へとトンデモ儀式に友達を連れまわすところが、何とも…

この作品は、ホラー映画のジャンルで、破損した人肉らしきものが前触れもなく登場することが結構あります。
思わず目を覆いたくなる場面もありますが、何の変哲もない繋ぎの場面だと思っていたところも、後のショッキングな出来事の伏線だったりするので(実はディレクターズカット版を見終わった数時間後に通常版も見たので気が付きました)、なかなか見逃しを許してくれない映画だな、と思ってしまいました。

その他気になった点は、家具や民族衣装に花をふんだんにあしらっているにもかかわらず、花畑的ものが見当たらないところ、食事があまりおいしそうではなく、画面を注視してもどんな料理かよくわからない(私の経験と知識が不足しているのもあります)ところでしょうか。

実はグロ画面をスキップして観たので、もしかしたら該当する場面も一緒に飛ばしたのかも知れないのですが、そういった不自然さがますます不気味さを引き立てていると思います。

冒頭でも言った通りとても面白かったのですが、内容がとてもハードだったので、自宅で観ていたのをいいことに、何度も小休止を入れて最後まで鑑賞することが出来ました。
映画館に行った方は、最後まで着席したまま鑑賞することが出来たのでしょうか。
私は内容を知った後でも、映画館で見る勇気は、とてもありませんが、この監督の別作品をまた自宅でじっくり見てみたい、と後引く面白さを感じました。

この映画の世界に、敢えて迷い込みたい、と思う人もいるかもね。


この記事が参加している募集

映画感想文