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しんとしている。赤いボックスは無人で、車の通る気配はまったくない。「この先っぽくない?」――『天使は奇跡を希う』022

 バスの停まっている港を通り過ぎ、案内標識に従って水色と白のストライプで示されるしまなみ海道を走っていく。

 ……と。

「どっちだ」

 分かれ道でぼくは立ち尽くす。

「ごめん、ちょっと待って」

 言って、スマホの地図アプリを立ち上げる。

 目的地が分かれ道のどちらからでも行けると表示されていたり、欲しいところに標識がなかったり、道案内がけっこうわかりづらかった。

 星月さんは何も言わずに待っている。

 それがぼくには若干プレッシャーになっていく。

「こっちかな?」

 彼女が右を指して言う。

「うーん……」

 ぼくは地図を拡大したりスクロールさせたりする。

 山道になっていて判然としないけど、方向的にはたしかに合っている。

「行ってみるか」

 右にハンドルを切った。

 道なりに行くと、高速道路の料金所みたいなものが見えてきた。

 しんとしている。赤いボックスは無人で、車の通る気配はまったくない。

「この先っぽくない?」

 彼女が言う。たしかにゲートの先には山道のうねりがあった。

「だな」

 チャリで通っていいのかなという迷いはあったけど、ここからは無人に見える料金所にも実は誰かいるかもしれない。

 道を聞けるかもしれない。そう思ってペダルを漕いだ。

 ゲートが近づく。

 そのとき。


七月隆文・著/前康輔・写真 


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