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むしろユーカだから大丈夫だよ――「天使は奇跡を希う」015

「新海くんは行ったことある? しまなみ海道」

「いや」

 興味はあるけど、いざ地元民になってみるといつでも行ける気分になってしまった。

 星月さんが残念そうな顔をしたけど、すぐに切り替えて、

「じゃあ、ちょうどいいじゃん!」

 トートバッグからヘルメットを取り出し、ぼくに渡してきた。

「今日は、美少女天使とのサイクリングをプレゼントするよっ!」

「これ……」

 白いずんぐりとしたフォルムに、青のラインが入っている。小中校指定のやつだった。

「サイクリングだからかぶらないとね。今治ルールだよ」

 言いながら、自分も赤いラインの入ったものを装着する。

 ださいヘルメットも彼女が着けると不思議とおしゃれの一種に映った。

 ぼくは迷った末に、しぶしぶとかぶる。

「よし。じゃあ行こう!」

 そういうことになって、ぼくはふと気づく。

「星月さんのチャリは?」

「ユーカでいいよ」

「いやだよ」

「いやだよって言われた!」

「星月さんのチャリは?」

「ないよ」

「え?」

「持ってないもん」

 星月さんがぼくの自転車(ママチャリ)にとことこ歩み寄ってきて、後ろの荷台に腰掛けた。

「さ、いこ?」

「いや……だめだろ」

「なんで?」

「二人乗り。法律的に」

「大丈夫! 天使だから法律は関係ないよ。むしろユーカだから大丈夫だよ」

「意味わかんねえよ」

 彼女に対しては遠慮のない言葉がすっと出せた。すごく話しやすいと感じた。

 でも一応理屈は通っている。法律は人間のものなので、天使は対象外だろう。

 ならヘルメットもいいじゃないかと、出発してから気づいた。


七月隆文・著/前康輔・写真 

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