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アパレルSPA企業におけるデータ活用によるMD最適化の計画づくり

分析屋の下滝です。

今回は、ちょっと(結構?)粗い内容ですが、あるアパレルのSPA企業さんを対象に勉強用に作っていた資料をもとに記事化してみました。

私はアパレル業界は素人ですので、業界のことはわからないですが、参考書をもとに考えてみたといった内容になります。

今回の記事のテーマは、アパレルSPA企業(SPA:製造小売業)におけるデータやAI活用を進めていくには、というものです。流行りの言葉で言えばDXとなりますが、DXは意味合いが広いので使わないようにしたいと思います。代わりに、ここでは、MD(マーチャンダイジング)の最適化、という観点から整理するにはどういう考え方ができるのかを書いてみました。MDは、商品計画、商品企画などと表現されます。

今回の大枠の内容は、MDにおける適正化(後述します)を指針にしながら、各業務が最適となる状態を設定し、その状態を目指す(予算)計画を作成し、実行していく、というものです。

各業務に対して、データ分析、AI、生成AIの活用の可能性を体系的に検討することで最適化の余地を特定します。

ファッションビジネスとマーチャンダイジング

まず、ファッションビジネスに関して概要だけ確認しておきます。

文献[4]では、ファッションビジネスとは「生活者に夢と発見を提案し、明日のファッション生活を創造する商品やサービスを提供することによって収益を獲得する、生活文化提案ビジネス」とされています。

文献[3]では、次のように説明されます。

…ファッションビジネスといえば、狭義には服飾ビジネス、広義には生活文化全体にかかわるすべてのビジネスを指し、ビューティー、インテリア、食関連などのビジネスまでが含まれてきます。いずれの場合も、生活者が日々の生活を通じて「心の豊かさ」を表現するための商品やサービスを提供しているビジネス、ということになります。
 言い換えれば、生活者が個性ある生活表現を動機づける夢や感動を与えていくビジネスが、ファッションビジネスです。ファッションビジネスとは、生活者の生活に対する心も欲求を満たす商品やサービスを提供することによって利益を確保する「生活文化提案ビジネス」なのです。ファッションビジネスは、「ライフスタイル提案ビジネス」「デザイン提案ビジネス」「情報提案ビジネス」の側面をもっているのです。

『ファッションビジネス入門と実践』, p.16

これらの定義は、あまりすっと頭には入ってこないのではないでしょうか。「心の豊かさ」や「生活文化提案」というのは、個人的には普段考えたことがないため慣れる必要がありそうです。

一方で、ファッションビジネスは、次のような図で表現されることもあります[1][2]。上記で紹介したファッションビジネスを機能の面から捉えたものと言えそうです。

『 実践!リテールマーチャンダイジング』, 図4をもとに作成

1~6の機能があるとされます。
・①情報の収集と分析(マーケティング)
・②企画(創)
・③企画の製品化(モデリング)
・④生産(工) 
・⑤物流(ロジスティクス)
・⑥販売(商) 

②と④と⑥だけをまず考えてみるとイメージしやすいように思えました。
・企画(デザイン)する
・企画したものを生産する
・生産されたものを販売する
という考えます。
残りの①③⑤は、それらの間をつなぐ機能だとされます。

これらの機能は、業務フローとしてさらに具体的に表現されると考えられます。業務フローについては、後に紹介します。

次に、マーチャンダイジングという言葉についてです。図の曲線の左側がアパレルマーチャンダイジング(アパレルMD)、右側がリテールマーチャンダイジング(リテールMD)とされます。

マーチャンダイジングは一般的には次のように説明がされます[1]。
「マーケティング活動における、最適な商品、サービスを、最適な場所と時間に、数量と価格で取り扱うことに関する計画」
これは、アメリカマーケティング協会による定義です。

一般に、このマーチャンダイジングの定義は、5適という構成要素からなると解釈されます。

なお、ファッションビジネスに限らず、スーパーなどの小売店でも使われる定義として参照されることもあります[5]。

ファッションビジネスに上記の定義を当てはめた場合は、次のように説明されます[1]。今回は、製造小売業(SPA)を対象としているため、アパレルとリテールの2つのMD観点があります[1]。異なる点がわかりやすように太字にしています。製造小売業(SPA)は、アパレルメーカーの機能と専門店の機能が一体となった業態です[3]。ざっくりいえば、自社店舗で販売することを前提に、自社で商品企画開発もするといったものです。

アパレルMD
適品・・・シーズンの方針に基づいた最適な商品の開発と構成
適所・・・基本コンセプトにおけるターゲットにとって最適な売場の選択
適時・・・販売時期を想定したシーズン内の適切な納品計画
適量・・・販売における適正な数量の設定と生産ロットの検討
適価・・・商品の価値に対する適切な価格設定

リテールMD
適品・・・シーズンの方針に基づいた最適な商品の品揃えとその構成
適所・・・商品または商品群に対して売り場内の適正な販売場所の設定
適時・・・販売時期を想定したシーズン内の適切な商品展開計画
適量・・・売り場の総FKUに対して適切な商品量販売量の確保
適価・・・商品の価値に対する適切な価格設定

ファッションビジネスとして少し強調が必要なのは、シーズンというものかもしれません。MDでは、春夏と秋冬のシーズンに分けて計画することが前提のようです[1]。

これらの5適は、それぞれの観点での適切さの指針となると考えます。顧客満足のための指針といってもいいかもしれません。

本記事では、5適を、次のように問いとしても表現できると考えます。これのように表現しなおせば、各適切さを追求できているかを考えやすくするのではないかと思われます。

アパレルMD
適品・・・シーズンの方針に基づいた最適な商品の開発と構成になっているか?
適所・・・基本コンセプトにおけるターゲットにとって最適な売場の選択になっているか?
適時・・・販売時期を想定したシーズン内の適切な納品計画になっているか?
適量・・・販売における適正な数量の設定と生産ロットを検討できているか?
適価・・・商品の価値に対する適切な価格設定になっているか?

リテールMD
適品・・・シーズンの方針に基づいた最適な商品の品揃えとその構成になっているか?
適所・・・商品または商品群に対して売り場内の適正な販売場所を設定できているか?
適時・・・販売時期を想定したシーズン内の適切な商品展開計画になっているか?
適量・・・売り場の総FKUに対して適切な商品量と販売量を確保できているか?
適価・・・商品の価値に対する適切な価格設定になっているか?

これらの5適については詳しくは説明しませんが、このような指針となるものが存在するということだけ理解しておきたいと思います。

続いてアパレルMDとリテールMDのそれぞれのMDの業務フローをみてみましょう。各業務をどのように行うのかで、5適を守れているかどうかが決まると考えられます。

アパレルMDの業務フロー

アパレルMDの業務フローは次のようなもののようです[1]。今回の記事では詳しい内容は扱いません。このような業務フローとして様々な業務が存在するということだけ知っておきます。

『 実践!リテールマーチャンダイジング』, 図2をもとに作成(一部省略)

リテールMDの業務フロー

リテールMDの業務フローは次のようなもののようです[1]。

『 実践!リテールマーチャンダイジング』, 図3をもとに作成(一部省略)

MDの最適化

データ分析やAI、生成AIは、各業務に最適化(改善)余地を作る、と考えます。

前述の業務フローから例として一つを取り上げてみます。アパレルMDでの「シーズンコンセプトの設定」という業務です。

この業務は「マスターデザイン、テーマカラー、テーマ素材などを決定」することだとされます。業務内容としてこれらの決定に関して詳しいことはわかりませんが、問いかけたいことは「この業務が最適化されているとはどのような状態か?」というものです。最適化というのは少し曖昧な言葉ですので、「最も理想的な状態は?」というものでも良いかもしれません。

この問いに対し、データ分析やAI、生成AIの観点から考えます。潜在的な最適化余地があるかどうか考えます。

最適化余地に気づくために、各観点をチェックリストのように使います。まだ網羅的なチェックリストではありませんが、例えば、以下のような項目で考えます。
データ分析

・仮説作りと確認をしやすくしたい
・課題(問題点)を発見・抽出しやすくしたい
・施策の検証をしやすくしたい

AI
・予測(値の予測、分類)
・最適値の発見

生成AI
・対話式の意思決定支援
・高精度なテキスト処理

たとえば、「マスターデザインの決定」では、次のように問いかけます。
データ分析
・マスターデザインを決定するにあたり、データをもとに仮説作りをしたいか? データをもとに仮説を確認をしやすくしたいか?
・マスターデザインを決定するにあたり、データをもとに課題(問題点)を発見・抽出しやすくしたいか?
・マスターデザインを決定するにあたり、施策の検証をしやすくしたいか?

AI
・マスターデザインを決定するにあたり、予測(値の予測、分類)をしたいことがあるか?
・マスターデザインを決定するにあたり、最適値を自動で発見したいことがあるか?

生成AI
・マスターデザインを決定するにあたり、対話式の意思決定支援があると助かるか?
・マスターデザインを決定するにあたり、高精度なテキスト処理をしたいことがあるか?

業務によっては、一部の項目は関係がないものも含まれます。たとえば、施策自体はこの段階では行われることはないと考えると、施策の検証にデータを使うことはありません。

次に、データを使いたいと思っても、データが存在しないことがあります。システムとしてデータ活用を妨げているものを確認します。

ここでも、網羅的ではありませんが典型的なものとしては次のようなものが考えられます。
・可視化されたデータを見れるシステムがない
・統合されたデータを蓄積するシステムがない

続いて、「この業務が最適化されているとはどのような状態か?」をどのようにかして表現します。ここでは、仮に次のように表現しました。
・人の介在が最小になっている
・データに基づいている

ここではマスターデザインの決定がどのようなものかわからないため、抽象度高く表現しています。

各業務(あるいはいくつかの業務)に対して、上記のような最適化の状態を設定したら、実現に向けて計画に落とし込む必要が出てきます。そのためには、いくつかかの評価項目が必要です。というのも評価なしでは優先順位や期間がわからないためです。

設定された最適化の状態は、業務の大きさによっては、フェーズに分解することも考えられます。たとえば次のように分解できます。
・フェーズ1:マスターデザインの決定がデータに基づいている
・フェーズ2:テーマカラーの決定がデータに基づいている
・フェーズ3:テーマ素材の決定がデータに基づいている

続いて、評価項目の例としては以下となります。

5適の観点:何を適正化するのか?
・適品

効果の観点:この最適化により何が良くなるのか?
・見込まれる工数削減時間
・品質の向上

実現工数の観点:この最適化に必要な工数はどのくらいだと見積もるか?
・XX日

実現可能性の観点:この最適化の実現可能性はどのような種類のものか?
・可能、精度検証が必要など

なお、5適を指針と使いたいのですが、抽象度のギャップがあり、そのままでは使いにくいかもしれません。たとえば、この例では「適品」に関わるとしましたが、「この業務が最適化されているとはどのような状態か?」と対応付けて考えるには距離がありそうです。
適品・・・シーズンの方針に基づいた最適な商品の開発と構成になっているか?

この点に関しては、各業務で、5適のどれが対応するのかについても分析が必要かもしれません。

最適化計画に落とし込むには

各業務をもとに具体的に計画するにあたっては、進め方の方針が必要になります。というのも、各業務の最適化状態を設定すること自体に工数がかかるためです。したがって、
・各業務の最適化状態をすべて設定してから進めていくのか
部分的な業務からまずは進めていくのか
といった、進め方の議論と決定が必要になります。

さらに、実施時期(シーズン開始直後や終了前など)により、取り組める業務がそもそも限定されることも考えられます。

現実的には、各種関係者(ステークホルダー)との調整も発生します。取り組みやすい部署や部門から実施することになると考えられます。

基本的な考え方としては、期待できる効果や工数、実現可能性などを考慮しながら優先順位をつけて計画を作ると考えられます。

おわりに

本記事では、ファッションビジネス業界、特にアパレルのSPA企業において、マーチャンダイジングを最適化するためにデータとAIを活用していくための大枠の考え方を議論しました。

課題としては、以下が残ります。
1.5適を指針として活用しきれるのかどうかを検証する
2.データ分析、AI、生成AIのチェックリストを網羅的にする
3.各業務を汎用的に可視化できるのかどうか

3は、業務知識(問題領域)に関しての、
2は、技術知識(解決領域)に関しての、
1は、3と2をつなぐ共通の達成基準の拠り所(指針)となります。もちろん、最終的な良し悪しは、顧客(消費者)満足であり、売上という形で顧客が評価します。

参考文献

[1] 実践!リテールマーチャンダイジング, 2014
[2] アパレルマーチャンダイザー 増補新版, 2013
[3] ファッションビジネス入門と実践, 2003
[4] ファッションビジネス3級 新版, 2022
[5] 改訂版 ようこそ小売業の世界へ, 2017

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