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おばあさん秘密のレシピ

田舎の小さな村におばあさんが住んでいました。

おばあさんは村一番の料理上手。
得意料理の「チキンと野菜のシチュー」は、誰もがおいしいと大絶賛し、その味にみんなが夢中になるほどでした。

ある日、村の人々はおばあさんに尋ねました。

「おばあさん、あなたの料理はいつも美味しいけれど、その秘密は何ですか?」と。

するとおばあさんはにっこり笑いながら、村の人々に教えました。

「それはね、私の秘密のレシピ本があるからなのよ」

村の人々はレシピ本に興味津々。
あんなにおいしいシチューが作りたいと思い、「それを見せてもらえませんか?」と尋ねました。

するとおばあさんは微笑んで言いました。

「もちろんいいわよ。けど、ちょっと特別な条件があるわ」
「条件?」
「そう、秘密のレシピ本を見るには、村の池に入らなくちゃいけないのよ」

村の人々は驚きました。
レシピ本と池に何の関係があるのか、分からないからです。

最初のうちは、誰もがおばあさんに理由を尋ねることを躊躇していました。

レシピ本は見たい。
けど、池に入るのは嫌だ。
とはいえ、入りたくないなんて言ったらレシピ本を見せてもらえないかもしれない。

そんな不安に駆られたからです。

そしてついに、一人の勇敢な村人が言いました。

「なぜ池に入らないといけないのですか? 普通に見せてくれてもいいと思うのですが……」

するとおばあさんは笑顔で答えました。

「ふふ、理由なんてないわ。ただ、どのくらい本気なのか知りたかっただけ。苦労して考えたレシピですもの、そんな簡単に見せられるわけないでしょう」
「なるほど、本気かどうかを試した……と」
「そうよ。それに、人生だって時には冒険が必要でしょ? 料理もそうなのよ。ちょっと冒険するくらいのほうが、おいしくなったりするんだから」

村の人々の反応は様々でした。
おばあさんの言葉に納得した人。
「ふざけんな」と悪態をつく人。
周りの様子をうかがう人。

そんな様子を楽しそうに眺めていたおばあさんが言いました。

「さあ、レシピを見たい人は池に飛び込んで! 私は反対の岸で待っているから」

その声に背中を押されたのか、村の人々は次々と池に飛び込んでいきました。
そして懸命に、向こう岸を目指します。

しかし、池には大量の水草が浮き、泥もたくさんあり、前に進むのにとても苦労しました。

やっとの思いで向こう岸につくと、おばあさんは笑顔で皆を迎えました。

「さあ、私の秘密のレシピ本を見せてあげるわ!」とおばあさんが言うと、彼女は大きな箱を取り出しました。

中にはたくさんのレシピ本が入っています。
けど、どのレシピも普通で、特別なことは何も書いてありません。

おばあさんの得意料理の「チキンと野菜のシチュー」のレシピも、ありふれた内容でした。

おばあさんは笑いながら言いました。

「普通の内容で驚いたでしょ? おいしい料理を作るコツはね、基本をきちんと守ること。それと、心を込めて作ることなのよ」

村の人々はおばあさんの言葉を聞いて、思わず笑ってしまいました。

「お腹がすいたでしょ? せっかくだからチキンと野菜のシチューを食べて行って」

村の人々は、笑いながら彼女の料理を楽しみました。
そして以後、彼らは料理を作るときに心を込め、楽しむことを忘れなかったのでした。

こうして、おばあさんの料理はますます有名になり、村の人々は幸せな日々を過ごすことができましたとさ。

<了>

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