洗濯……機?【ショートショート】
リビングでテレビを見ていたら、不意に笛のような音が聞こえてきた。
ピーピーピー。
洗濯機のアラームだ。
(洗濯してないのにアラームが鳴ってる?)
不思議に思いながら、洗面所へ向かい扉を開ける。
薄暗い洗面所のなかで、洗濯終了を使えるランプが赤く点滅していた。
(おっかしいなぁ……。とりあえず、洗濯物を出して干すか)
なんて思いながら洗濯機の蓋を開けると、中から手が伸びてきた。
とっさに手で顔を隠すと、青白い手が私の腕をガシッと掴んだ!
「うわっ」
ものすごい力で引っ張られる。
必死に抵抗するが、ズルズルと引きずられている。
そして……手に引っ張られ、洗濯機の中に引きずり込まれた。
そこは真っ暗で、自分がどこにいるのか、周りがどうなっているのか分からなかった。
(何が起こったんだ? ここは、どこだ?)
ガタン。
なにか音が聞こえる。
ウィィィ。
ガタンゴトン。
地面がゆっくりと回り始めた。
どこからか水のようなものが流れてくる。
「みず?」
考える間もなく、どんどん回転が早くなる。
「うわぁぁぁぁぁ」
ガタン、ドン! ゴロゴロゴロ……。
「いって……」
ウィィィィ。
急に止まったかと思ったら、逆に回り始めた。
「のぅ、おぅぅー」
ウィィィィ。
「やめてくれぇぇー」
激しい回転によって、私は意識を失ってしまった。
……。
……。
「ここは……?」
目が覚めると、私は銀色の壁に囲まれていた。
(確か洗濯機のアラームが鳴って、それから……)
私は自分の身に起こったことを思い出そうとした。
(そうだ、手に引っ張られて洗濯機の中に……。それから、くるくると回って……。)
勢いよく回されたせいか、頭がクラクラする。
(ここは、洗濯機の中なのか?)
でこぼこした銀色の壁。
お椀状にへこんだ床。
充満する洗剤や柔軟剤の匂い。
(間違いない、洗濯機の中だ。でもなんで……? とりあえず、ここから出る方法を探そう)
そう思い、立ち上がろうとするが……。
(あれ?)
足がない。
いや、足……というより、腰から下がない。
よく見ると腕も、肩から先がなくなっていた。
それになぜか、胸からお腹にかけて写真のような絵が書かれている。
「これは……プリントティシャツ!?」
洗剤や柔軟剤の匂いが充満している中、私は自分が洗濯物になっていることに驚愕した。
途方に暮れた私は、それでも何とか脱出しようと、必死になって動き回った。
しかし、どんなに頑張っても脱出できない。
諦めかけたその時、突然目の前が明るくなった。
そして……上から手が伸びてくる。
その手は私を乱暴に掴むと、洗濯機の外へと放り投げた。
「な、なんだ!?」
なにかの容器に入れられ、運ばれていく。
かと思えば、乱暴に『パァン!』と弾かれ、頭から金具のようなものを入れられた。
(あぁ、そうか。私は、洗濯物になったんだ……)
私は今、物干し竿に干されている。
暖かな日差しを浴びながら、そよそよと風に吹かれて。
〈了〉
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