【映画】「アムステルダム」感想・レビュー・解説

面白い映画だったなぁ。

この映画の良かった点は、「実話」の部分を強く押し出さなかったこと。映画全体は、バート・ハロルド・ヴァレリーという3人の登場人物の物語という軸を明確に持ち、「実話」はその物語を補佐するような役割になっている。

もちろん僕は、ドキュメンタリー映画も好きだし、「実話」を忠実に再現したフィクションも好きだ。ただ、そういう作品はどうしても、「実話そのもの」に作品の良し悪しが左右されてしまう。「実話の部分がどれだけ魅力的か」に、作品のほとんどの重心が掛かっていると感じるのだ。

そう考えた時、映画『アムステルダム』が「実話」を作品のメインに据えなかったことは正解だと言える。というのも、『アムステルダム』で描かれる「実話」は、それ単体で物語にするにはちょっと「弱い」と感じるからだ。

「弱い」というのは決して「重大ではない」ということを意味しない。というか、この映画で描かれる「実話」はメチャクチャ重大で、「まさかこんなことが起こっていたのか」と驚かされるようなものだ。しかしそうだとしても、この「実話」を物語の中核に据えるにはちょっと厳しいと感じるようなものだった。

『アムステルダム』は、先に紹介した3人のハチャメチャな物語として展開される。映画の冒頭で、「この物語は、大部分が実話だ」と表記される。僕からすれば、バート・ハロルド・ヴァレリーの3人も実在する人物なのか(映画のために作られたキャラクターではないのか)ということも含め、何が事実で何が創作なのか分からない。しかし、「大部分が実話」というのは普通、「半分以上は実話」と捉えられるはずだし、そうだとすれば、どこが事実であったとしてもなかなかに驚かされる物語であると感じる。特にヴァレリーはなかなかに奇天烈な存在感を放っており、「ヴァレリーのような人物が実在した」とすれば、それだけでなかなかに魅力的だと感じさせる力がある。

内容をざっと紹介しておこう。
物語は、1933年のニューヨークで始まる。戦争で怪我を、片目を失いコルセットをし続けなければならないバートは、復員兵たちのための診療所を開いている。妻は上流階級の医者の家系だが、身分の違いや医療に対する考え方の違いなどから妻の家族に認められておらず、結婚しているのに別居状態だ。彼は普段から自作の薬(もちろん未承認)を作成しては自分で飲んでおり、事務員らから「そんなのがバレたら診療所閉鎖か刑務所ですよ」と心配されている。総じて、変なヤツである。
バートはある日、親友である黒人弁護士ハロルドから、緊急の用事だといって呼び出された。ハロルドは、「ある医学的措置をしてほしい」と持って回った言い方をするが、その場にいた女性がハロルドを急かし、「解剖してくれ」と打ち明ける。女性はリズ・ミーキンズ。彼女は、バートとハロルドが出会った369連隊を率いていたミーキンズ将軍の娘であり、まさにそのミーキンズ将軍が箱の中で死体となって眠っているのだ。リズは自然死のはずがないと他殺を疑っており、内密に解剖してほしいと頼んできたのだ。
仕方なく解剖を引き受けたバートは、馴染みの女医に手伝ってもらいながら(というか、女医がメインで執刀しながら)、将軍の解剖を行った。
その後、レストランでリズと落ち合う予定だったのだが、彼女は慌てた様子を見せ、そしてその後、バートとハロルドは窮地に陥ることとなる。
さて、時計の針を巻き戻そう。時は1918年のフランス。369連隊でのちょっとした揉め事から仲良くなったバートとハロルドは、「お互いを守り合おう」と約束。そしてその約束通りに行動し、2人とも瀕死の重症を負う。彼らが運び込まれた野戦病院にいたのが、看護師のヴァレリーだ。彼女は2人の体中に突き刺さった砲弾の破片を取り除いてはコレクションしていく。ハロルドは、「女なのにパイプを吸うのか」と驚きを見せる。そんな3人はすぐに意気投合し、片目を失ったバートに合う義眼を用意してくれる人がいると、アムステルダムへと向かうのだが……。
というような話です。

内容紹介を読んでも、なんのこっちゃ分からないだろう。冒頭からしばらくの間は正直、ストーリーがよく分からないまま進んでいく。ただそれでも面白いのは、メインの3人がメチャクチャ魅力的だからだ。物語的には意味を持つとは思えない描写がかなり続いた後で、ようやく「バートとハロルドが陥ってしまった窮地からどうにか脱出するために奮闘する物語」であることが理解出来るようになる。

そしてさらに、「彼らが窮地を脱するために行う行動」が、期せずして「巨悪を暴く行動」になっていく。バートたちは「個人的な問題を解決するために奮闘しているつもり」だったのだが、いつの間にか「世界中を巻き込むとんでもない騒動に足を突っ込んでいた」というわけだ。まあ、この辺りの展開もどこまで事実なのか分からないのだが、フィクションだとしてもなかなか上手い展開だという感じはする。

とにかく僕はヴァレリーが良いなぁと思う。マーゴット・ロビーという女優らしいのだけど、調べてみると普段は金髪みたいだ。いや、断然黒髪が似合うと思うのだけどどうだろう。とにかく彼女が魅力的だった。

僕は正直、「見た目が綺麗」というだけではさほど興味が持てないのだけど、ヴァレリーという看護師はかなりトリッキーな女性として登場する。謎のアート作品を作ったり、言動がぶっ飛んでたりするのだ。そういう性格の人物がメチャクチャ綺麗だということになんかワクワクした。変人好きな僕としては、ヴァレリーはメチャクチャ惹かれる存在だ。

バートを演じるクリスチャン・ベールって役者も凄いな。こちらも調べてみると、映画の雰囲気とは全然違う風貌だ。ってかメチャクチャイケメンやん。ネットには「カメレオン俳優」って書いてあるから、作品によって全然違う雰囲気を出す役者なんだろう。それは『アムステルダム』でも見事に発揮されていた。「奇天烈な町医者」にしか見えない雰囲気は素晴らしかった。

映画を観ながら改めて、「変な人との変な関係性」を常に自分は望んでるなぁ、と思わされた。

「実話」の部分も、なかなか凄い。っていうかラストの展開における、「え???あなたが???え???」っていう展開はなかなかの狂気である。僕は常日頃、それがどんな対象であれ、「狂信的に何かを信じている人」に怖さを感じてしまう。まあ、その人が1人で勝手に何かを信じている分には別に何の問題もないが、それを他人にも強要しようとするのはまったく許容できない。時代も時代だったとはいえ、とんでもないことを実現しようとする者がいたものだと思う。

ただ、現代でも状況はさほど変わらないかもしれない。権力やら大金持ちやらAIやらが、僕らの知らないところで何かとんでもない変革を起こそうとしているかもしれない。「昔って凄い時代だったんだな」と他人事のように考えているわけにもいかないかもしれない。

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