【映画】「サイドバイサイド 隣にいる人」感想・レビュー・解説

僕は基本的に、「家族」という既存の括り方をナチュラルにぶっ壊していくような関係性が大好きなので、そういう意味で、莉子(齋藤飛鳥)が出てきてからのストーリーはなかなか面白かった。

まあ、単純に齋藤飛鳥が好きだってのもあるんだけど。

先に書いておくと、ストーリーは正直よく分からなかった。ただ、作品全体の雰囲気は良かったと思う。そして、その「なんとも言えない雰囲気」を、坂口健太郎・市川実日子・齋藤飛鳥が絶妙に「成立させている」感じがする。他にも合うキャスティングはあるかもしれないけど、少なくともこの3人は、この作品世界には見事に合うキャスティングだったなぁ、と思う。そこはとにかくお見事でした。

少しだけ、「家族」の話を。

僕はとにかく、「恋人なんだから」「友達だったらさぁ」「家族でしょ」みたいな言葉が嫌いすぎる。心の底から、「そんなことどうだっていい」と思っているのだ。

そんなこと言わずに、「私はそうしてほしくない」「俺はこんな風にしてほしい」って言えばいいのに、どうしてか「関係性の名前」を盾にとって、「そうしないお前が悪い」と相手のせいにしたがる風潮があるよなぁ、と思う。

そして、その謎の「圧力」は、「家族」という関係性に対して一番感じる。僕は、当時はそこまで言語化出来ていなかったものの、それこそ小学生ぐらいの頃からずっと、そういう「違和感」を感じ続けてきた。

だから、この映画で描かれる「家族」は、割と僕にとっては理想だ。こう書くと誤解されそうだけど、別に僕は未山の立場に立って「理想」と言っているのではない。そりゃあ、未山からすれば理想だろう(感じ方は人によって違うかもだが)。「イマカノとモトカノの両方と一緒に暮らしている」のだから。

しかし僕は、未山の立場だけではなく、詩織・莉子・美々、どの立場からでも、「この『家族』は羨ましい」と感じられる自信がある。

「家族」という重力から軽々と解き放たれたこんな関係性が、何らかの形で僕の身近でも実現するといいなと思う。そして、「家族」という呪縛に「囚われている」という自覚もないまま生きているすべての人に、こういう可能性も存在することを理解してもらえたらいいなと思う。

内容に入ろうと思います。
未山は、「存在しないものが視える」という性質がある。その力を活かし、何か困りごとがある人の身体を触ってはアドバイスするような生活をしている。恋人の詩織は看護師として働くシングルマザーであり、未山は主夫みたいな形で一人娘である美々の面倒を見るなどしている。散歩途中で農家の人からじゃがいもをもらったり、失踪した牛を牛舎に連れ戻したりと、静かで穏やかな生活をしている。
しかしそんな彼はしばらく前から、自分の身に「存在しないもの」がまとわりついていることに気づく。そして彼は、その存在を辿ることによって、かつての恋人・莉子と再会を果たすことになる。
真っ黒の服を来て、白いものしか食べない妊婦の莉子を連れて帰った未山。当然、詩織との関係は終わりになると思っていた。しかし、未山の家を訪れた詩織は思いがけない提案をし……。
というような話です。

とにかく極端に説明の少ない作品で、僕の体感では、最初の1時間ぐらいはほぼなんの説明もなく話が進む。だから初めは、未山と詩織が結婚していて、美々はその娘なんだと思ってたし、未山の後ろをついて歩く男が何者なのかまったく分からなかったし、とにかく何も分からなかった。「なんだか分からないけど、これがここからどうなるんだろう」という興味だけで観ていた感じだ(映像は全体的にキレイなのだけど、ビジュアル的なものにあまり興味のない僕としては、その点にはあんまり惹かれなかった)。

で、莉子が出てくるちょっと前ぐらいから、ようやく色んな背景が理解できるようになってきて、さらに莉子が加わることで「謎の関係性」が成立することになったこともあって、僕としてはちょっと面白くなってきたぞ、という感じで見れた。

さっきも書いたけど、やっぱり坂口健太郎・市川実日子・齋藤飛鳥っていうキャスティングは絶妙だなと思う。特に、贔屓目はあるにせよ、莉子というキャラクターを成立させられる人はあまりいないだろう。莉子が発する「よく分からなさ」みたいなものは、普通であれば「現実味」からどんどんと離れていってしまうような性質だと思うのだけど、齋藤飛鳥は莉子という存在を割とナチュラルに成立させられる存在だと感じる。

坂口健太郎も市川実日子も、この奇妙な関係性を受け入れそうだなと感じさせる何かのある人で、だから、この訳の分からない物語がギリギリのところで成立しているんだろうな、という気がする。

とにかく、未山・詩織・莉子・美々という4人の関係性は、その異常さに反比例するように穏やかなものであり、僕が思う「他者との関係性の1つの理想」だなと感じた。こういう関係性を「異常」だと感じなくてもいいような世の中になってくれたらいいなと思う。

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