【映画】「スラムドッグ$ミリオネア」感想・レビュー・解説

さて、インド映画だからこそ成立するという感じではあるけど、面白い映画だったなぁ。別に「スラム出身」の少年が主人公だからというわけじゃなくて、「さすがにそれは、ちょっと都合良すぎるだろ」みたいな展開が多いっていう意味なんだけど、まったく同じ物語を日本やハリウッドの映画でやっても、ちょっと受け入れられない気がする。インドの「なんだかよくわかんないけど、陽気でパワフルなエネルギーに溢れた感じ」だからこそ、「まあこういう物語もいいよね」って感じられる気がする。

というわけで、「ギャガがアカデミー賞受賞作品を映画館で上映する」って企画をやっているので、『スラムドッグ$ミリオネア』を観に行ってきた。若い人も含めて、客席は結構埋まってたから、「映画館で観たい」っていう需要って、まだまだあるんだろうなって感じはした(僕は別に、映画館で観たいというわけではないんだけど、「映画館で上映している映画しか観ない」という条件を付けることで、映画選びがなるべく偏らないようにしている)。

この映画は、物語全体の構成が見事だったと思う。

冒頭、主人公が拷問を受ける場面から始まる。観客には、何が起こっているのか分からない。特に、「クイズ番組で大金を手に入れる」みたいな内容だけ知って観ると、「??」という感じになるだろう。

実は主人公のジャマールは、「クイズ番組で不正を働いた」という疑惑で拘束され、警察で取り調べを受けているのだ。ジャマールは、スラム出身の若者であり、学校にも僅かな期間しか通ったことがない。普通に考えて、そんな人物が、医師や弁護士でさえ途中で間違えてしまうクイズ番組で、過去例のないほどの大金を手に入れられるはずがない。

という疑いを掛けられている、というわけだ。

警察は、ビデオに撮ったクイズ番組の放送を観ながら、「なぜこの問題を答えられたのか」とジャマールに問う。そしてそれに対しジャマールが、自身の過去を振り返りながら、「たまたまその問題の答えを知っていた理由」について語る、という構成になっている。

そしてその過程で、スラムで生まれ育ち、ずっと酷い暮らしぶりの中で生活していたジャマールの過去が明らかになる、という展開である。

しかもそれだけではない。ここでは詳しく書かないが、「なるほど、今ジャマールはそういう状況にいるのか」ということが、かなり後半になってから明らかになる。そして、そこからさらに一段階盛り上がりがある、という展開になる。この構成も上手い。

特に、後半に行くにつれて見事だと感じたのが、「ライフライン」の使い方だ。日本ではみのもんた司会で同じフォーマットの番組が行われていたが、「50:50」「電話」「オーディエンス」に助けを求められるという仕組みは、このインド版の番組でも同じである。

この「ライフライン」が、「なるほど!」というタイミングで使われるのだ。もちろんこれも、物語全体で観れば「ご都合主義」全開という感じだが、そもそも「ご都合主義」全開で展開されている物語なので、全然気にならない。むしろ、「そうくるか!」という感じだ。特に、最後に使うライフラインの場合、「そうでなければ実現不可能だったこと」に関わってくるし、なんなら「スラム出身で、どう考えても大金など獲得できるはずのないジャマールが、なぜこの番組に出演しようと思ったのか」という理由の説明にもなっている。ホントに、見事な構成だなと思う。

そのような、絶妙に構成された物語の中で、「ジャマールの個人史」とでもいうべき過去が描かれていくことになる。これはまさに、インドの現実そのものなのだろう。物語としては、「想像できる範囲内のこと」という感じではあるが、だからこそ「これが現実なんだ」という感覚も強くなるし、コミカルに描かれる部分も多々あるが、やはりそのリアリティには圧倒される思いがする。

細かなところには色々と突っ込みたくなる部分もあるかもしれないけど、そういうことを無視して楽しめる人は面白く観れると思います。インド映画らしく、エンドロールの始まりで踊るシーンがあったりして(本編中には、歌ったり踊ったりはない)、そういうのも楽しいですね。

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