【映画】「ドンバス」感想・レビュー・解説

なかなかよく分からない映画だった。

ロシアによるウクライナ侵攻のニュースを見ていたから、「ドネツク人民共和国」という名前に聞き覚えはあったし、ウクライナ東部である親ロシア地域でウクライナからの独立を勝手に宣言しているという事実も知っていた。その程度の知識がまだあったから、映画で描かれていることがまだなんとなくは理解できたが、そうでなかったら、この映画で何が映し出されているのか、最初から最後まで理解できなかっただろう。

映画は、様々な登場人物がすれ違うようにして関わり合う、複数の物語のオムニバスみたいな形で展開されていく。すべて同じ町で起こっている出来事であり、「親ロシア派が『戦闘状態』を維持している」という状況も同じなのだが、しかし描かれる場面は相互にはほぼ関係がないように思われる。ある場面では結婚式が行われ、ある場面では町中で「裏切り者」(?)の兵士」が市民からボロクソに殴られ、ある場面では市議会に侵入してきた女が議員の一人に泥をぶっかける。

もちろんすべてが、同じ根を持っている。国際的には「ウクライナ」という国家の一部でありながら、「自分たちは『ドネツク人民共和国』だ」と主張し、「ファシストから市民を守っている」と主張する親ロシア派の市民軍のような存在が「横暴」を巻き散らかしている。それ故の混乱が当然のように固着してしまっている地域なのだ。

そしてこの映画で描かれる世界は、まさに今回の「ロシアによるウクライナ侵攻」に直接的に関係している。というのも、ロシアが「特別軍事作戦」を行った理由は、「『ドネツク人民共和国』(と『ルガンスク人民共和国』)の独立を承認し、その平和維持を実現する」という名目だったからだ。まさにこの映画は、「ロシアによるウクライナ侵攻」を引き起こした世界観をリアルに映し出しているというわけである。

映画ではそういう表示はされなかったが、公式HPによると、この映画は「実話を元に構成されたエピソード」なのだそうだ。どの場面の何が事実だったのかそれはさっぱり分からないが、大体において「イカれた」場面が続く映画なので、どれが実話だとしてもなかなかに驚きであることは間違いない。

さて、冒頭でも書いたが、映画の中身は大体意味が分からなかった。それは、「ウクライナのドンバス地方」に対する基本情報を僕が持っていなかったという理由ももちろん大きいわけだが、「映画で全然説明されない」という点も大きいと思う。

正直僕は、映画冒頭のシーンも全然意味が分からず、家に帰って公式HPを読んでやっと理解できた。冒頭シーンは、役者と思しき人物がメイクをしている場面で始まる。そして彼女たちが、カメラの前で何かを語る場面が映し出されるのだが、それがなんなのか理解できなかった。

公式HPによると、これは「フェイクニュース」を作るために雇われた役者なのだそうだ。「クライシスアクター」と呼ばれているらしい。しかしそれが説明されても、結局彼らがどちら側の人なのか、つまり「親ロシア派に雇われている」のか「反ロシア派に雇われている」のかもよく分からない。

そんなわけで、よく分からないことだらけだった。

映画を観ていて混乱したのは、「これはドキュメンタリーなのか、フィクションなのか」ということだった。途中ぐらいから「フィクションだろう」とはっきりしてきたが、冒頭からしばらくの間、「これはドキュメンタリーなんだろうか?」という気分もあった。映画映画していないというか、ざらっとしたリアル感があるというか、フィクションではない可能性を少し抱かせるような作品だった。

「面白かったのか」と聞かれたら、「ちょっと微妙」と答えるしかない。ただやはり、「ロシアがウクライナに侵攻している」という現実を背景にこの映画を観ることには、なにかしらの意味があるようにも感じられる。

オススメはしにくいが、観てもいい映画だとは思う。


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