【映画】「モンサントの不自然な食べもの」

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こりゃあ凄いな。

モンサント社という名前は聞いたことがある。「遺伝子組み換え大豆」が話題になった時、よく聞いた名前だ。でも、それ以上のことはよく知らなかった。

だいぶヤベェ会社だな、こりゃあ。

創業は1901年。当初は化学薬品会社で、「ラウンドアップ」という除草剤は50年以上主力商品だ。しかし今はバイオ企業に変わっている。

【まるで静かな戦争のようです】

【爆弾よりも軍隊よりも、遥かに強力に世界を掌握しようとしている】

前者はエクアドルの農家の、後者はインドの科学者の言葉だ。これらの言葉は、モンサント社の現状を非常に的確に表現している。

モンサント社の現在の主力商品は、「ラウンドアップ耐性作物」だ。遺伝子組み換え(GM)の技術を利用し、「ラウンドアップ」という除草剤が利かない作物を開発した。どういうことか。これまで農業には、雑草の除去などの作業が手間だった。手作業で抜くのは大変だし、除草剤を撒くにしても、栽培している作物も枯らしてしまう。しかしこの「ラウンドアップ耐性作物」は、ラウンドアップという除草剤に耐性がある。つまり、農場にラウンドアップを一斉に振りまけば、雑草はすべて枯れ、栽培している作物だけが残る、という仕組みだ。

農家からすれば、最高だ。手間が格段に減るからだ。実際、「ラウンドアップ耐性作物(以後「GM作物」と表記)」が登場してからたった10年で、世界中で1億ヘクタールもGM作物の作付面積が増えたという(もしかしたらこの1億ヘクタールは、大豆だけだったかもしれない)。特に南米は、GM作物が広まっている地域だ。(※「GM作物」というのは、遺伝子組み換え作物全般のことで、モンサント社が生み出す遺伝子組み換え作物に限定されないが、ここでは、特に断らない限り、「GM作物」という言葉を、モンサント社の商品を指すものとして使う)

しかし、そこには大きな問題がある。分かりやすい問題からいこう。

まず単純に、生物多様性が失われる。育てるのが簡単だ、という理由で、皆がGM作物を育てると、同じものばかり育てる農場が増える。そうなればなるほど、植物の多様性はどんどん失われてしまう。

また、農家は毎年モンサント社から種子を買わなければならない。モンサント社は、遺伝子組み換えを行った種子の特許を取得しており、農家は契約を結ばなければモンサント社の種子を買えない。その契約は、「毎年モンサント社から種子を買う」というものだ。植物の種子は、植物自体から採取できる。しかし、それはしてはいけないのだ。そう決まっている。また、買うのは種子だけではない。セットになっている除草剤や肥料も必要だ。モンサント社から種子を買えば、その種子に合う除草剤や肥料を買う必要があるのだ。

問題は、その値段が高いこと。モンサント社はGM作物の他に、BT(害虫抵抗性を持つ商品)も作っている。薬を使わなくても、植物自体が害虫抵抗性を持っている、と。このBT綿の種子は、インドを席巻した。今インドでは、BT綿の種子以外の綿の種子は手に入らないという。選択肢が他にないのだ。ただその種子は、従来種よりも4倍も高い。不作だったら借金をするしかないし、自殺者も増えている。インドにBT綿の種子がやってきた2005年6月から、1年間で自殺者は600人。翌年は、半年で680人が自殺している。元々、綿農家の自殺者はゼロではなかったが、BT綿の種子によって異常に増加しているのだ。

また、モンサント社からGM作物の種子を買うと、「遺伝子警察」と農家が呼ぶ、モンサント社の密偵から監視される。時々農家にやってきて、種子を保存していないか、契約違反の作付けを行っていないかチェックされるのだ。ある農家は、種子販売会社の契約通りに作付けをしたにも関わらず、モンサント社から訴えられた。なんの非もないはずだったが、和解を選んだ。無実を訴えた2年半の間に、多くのものを失ったし、仮に裁判で負ければすべてを失ってしまうからだ。そんな風に、モンサント社から訴えられて破産した農家は100軒以上に上る。

こんな風にモンサント社は、地球上の食料のすべてを牛耳ろうとしている。モンサント社は、世界中の種子販売会社を買収している。映画の中で、このままではGM作物以外の作物は世界から消えてしまうのではないか、という懸念が表明されている。その懸念は、妥当なものだろう。自分たちが知らずに食べているものが、遺伝子組み換え作物ばかりになっている、なんていう未来は、すぐそこかもしれない。

日本でも、遺伝子組み換え大豆が取り沙汰された際に、表示の問題が持ち上がったはずだ。遺伝子組み換え大豆を使った豆腐に、「遺伝子組み換え大豆を使っている」と表記するかどうか。今どうなっているのか僕は知らないが、映画の中では、アメリカでは「遺伝子組み換え作物を使用している」という表記をすることが”禁止された”と言っていた。マジか。表示するか否かはそれぞれに委ねる、とかではなく、禁止されているのか。それはビックリだ。

その決定とも関わるだろうが、モンサント社は、アメリカという国家と深く結びついている。

FDAというのは、アメリカにおける食品の安全を審査するところだが、そのFDAが遺伝子組み換え技術によって生み出された作物について、「実質的同等性」という言葉を使って、その安全性を後押しした。この「実質的同等性」とは何か。それは、「遺伝子組み換えがされていない作物とされている作物は、実質的に同じものだ」という意味だ。この「実質的同等性」という言葉を使い、FDAは、遺伝子組み換え技術によって生み出された作物を規制するための新たな基準は作らない、とした。遺伝子組み換えがなされていない作物と「実質的に同じ」なのだから、検査や審査などはしなくてOK、ということだ。

当然これは、モンサント社のGM作物を早く市場に送り出すための方便だ、と多くの人が受け取った。実際はどうなのか?

疑惑は多い。

まず、当時FDAでこの遺伝子組み換え作物に関する方針を考えていた人物は、かつてモンサント社の弁護士をしていた人物だった。これだけでも、なかなか致命的だろう。しかし、多くの人が「回転ドア」と呼ぶ人事交流が、様々に行われている。環境省やホワイトハウスからモンサント社へ、モンサント社からFDAや裁判所へと、人が移動していく。このような形で、政府がモンサント社に有利な形で規制緩和を進めている、と疑われている。バイオ産業は、アメリカの政策の要となっている。モンサント社の優遇によって、アメリカも利益を得るのだ。

また、モンサント社から流出した内部文書から、遺伝子組み換え食物への懸念を示す科学者が多くいたことが明らかになっている。当時FDAに所属していた科学者のトップ(肩書きは忘れてしまったけど、科学者の取りまとめ的な人だったはず)だったマリアンスキ博士にその事実をぶつけてみると、「その懸念は、当時の科学者たちによる様々な意見の一部。最終的な意見には、すべての科学者が合意している」と言っている。

最終的な意見というのはもちろん、「遺伝子組み換え食物は安全」というものだ。これに対して、「どうして安全だと言い切れるのですか?」という質問に、マリアンスキ博士の回答は秀逸だった。

【モンサント社が提出した実験データによってです。
それをFDAが精査し、安全だと評価しました。
企業がデータの改ざんなどするはずがありません。
なんの得もありませんからね】

何を言ってるんだコイツは、と思った。

もちろんそう感じた映画製作者は、モンサント社のダイオキシン問題を取り上げた。モンサント社は、ナイトロという地に除草剤を製造する工場を有していたが、1949年にそこが爆発事故をおこし、228名にダイオキシン中毒の症状が出た。この工場で作っていた除草剤の原材料は、ベトナム戦争で使われた枯葉剤の主成分と同じものだった。1980年代に、アメリカの退役軍人が、枯葉剤を製造した会社を訴えた(彼らもベトナム戦争で、枯葉剤による被害を受けていた)。その際、モンサント社が、30年前に起こった工場爆発による調査を提出したのだ。ダイオキシン汚染を受けた人と健康な人を比較した調査で、それによりモンサント社は、「ダイオキシンに発がん性はない」と結論づけた。しかしそれは、データを都合よく操作し、求める結論を導き出した適当な報告書だった。しかし、この報告書を受けて、退役軍人たちの補償は見送られ、また、他の規制緩和の際にも、このモンサント社の報告書の結果が使われたのだという。

他にもモンサント社を非難する者がいる。「実質的同等性」は、モンサント社がある科学雑誌に提出した論文が根拠となっている。その論文を精査した人物は、「お粗末な論文」と言い切った。科学論文として、必要な調査方法や条件が整えられていないという。元データを提出するようにモンサント社に掛け合ったそうだが、様々な部署をたらまわしにされた挙句、拒否されたという。

モンサント社に振り回された科学者は多い。

イギリスの研究所で働いていたある科学者は、アメリカからGM作物を輸入する前に、あらゆる調査をするようにイギリス政府から依頼された。政府は、「国の最高機関が隅々まで調べて安全性が確かめられた」と謳いたかったようだが、彼は調査の過程で気になる事実を複数発見し、テレビカメラの前でこう言った。「GM作物の輸入は不当だ。イギリス国民をモルモットにするようなものだ」。テレビ番組の放送の翌日、彼は研究所を解雇され、チームも解散された。その研究所は、モンサント社の資金援助を受けていたのだ。

カナダでは、「ポジラック」という牛成長ホルモンの使用を止めようと、三人の科学者が法廷に立った。遺伝子組み換え技術が初めて食品に使用された例であり、アメリカでは安全だと認可されたが、科学者の告発を受けてカナダでは禁止に、それを受けてヨーロッパでも禁止となった。彼らは、モンサント社から、多額の”賄賂”の提示があったと証言した(モンサント社は、大金を提示したことは事実だが、それは賄賂ではない、と主張したらしい)。その後三人の科学者は服務規程違反を理由に解雇された。

この牛成長ホルモンに関しては、FDAに所属していた獣医師も被害者だ。彼は、モンサント社から送られてきた実験データに、酪農家が必要とするデータが足りないと指摘し、再提出を命じた。このせいで、「ポジラック」の販売は数年遅れたという。その後この獣医師は閑職に回され、やがて解雇された。

科学者ではないが、アメリカ農務省の元長官だった人物は、こんな証言をしていた。彼が長官だった当時、農業界では、バイオ技術や遺伝子組み換え作物の導入を早急に行うようにという”空気”があったという。彼は、多くの調査が必要だと指摘したが、それを望まない者は多く、ある場で、慎重な導入を訴えたところ、政府筋からも反発があったという。

ここまで証言があると、もはや疑いの余地はない、という感じだろう。

とはいえ、遺伝子組み換え食物が本当に安全であれば、特に問題はない。しかし、やはりそうでもないようだ。既に、「交配による汚染」が進んでいる。これは、遺伝子組み換え作物の遺伝子が在来種の遺伝子に組み込まれることをいう。中でも、チャペラ博士がネイチャーに発表した論文は衝撃を与えた。彼は、アメリカのトウモロコシの遺伝子を、メキシコの在来種のトウモロコシの遺伝子と比較しようとした。何故なら、メキシコのトウモロコシは1万年以上も他のトウモロコシとの交配がなされていない、最も純粋な在来種だったからだ。しかしそのメキシコの在来種から、GM作物の遺伝子が発見されたのだ。アメリカからのGM作物の輸入を禁じているメキシコでさえこうだ。

南米のパラグアイは、元々GM作物の輸入を禁じていたが、なし崩し的に許可するしかなくなった。何故なら、隣国が既に輸入を許可していたこともあり、エクアドル国内の作物が汚染されていたからだ。これについてエクアドルの高官(誰だったか忘れたけど、大統領だったかもしれない)は、「国内の作物を汚染させたのは、モンサント社の戦略の可能性も考えられる」と言っていた。世界中の作物がGM作物で汚染されることで利益を得るのは、唯一モンサント社のみだ。

GM作物による汚染がどういう影響をもたらすのか、花を使って実験したグループがいる。遺伝的にまったく同一の花を使い、そこにGM作物の遺伝子を組み込む。違いは、ほんの僅かな組み込む場所の違いだけだ。その僅かな挿入位置の差によって、様々な奇形が現れることが分かった。「交配による汚染」の悪影響は、これからさらに理解が進んでいくことだろう。

ある弁護士が、こんなことを言っていた。

【アメリカの企業のトップが、刑事責任を取らされることはほとんどない。
だから民事裁判で損害賠償請求を行うことになるが、企業が損害賠償を支払うのは数十年先だ。
その間に、莫大な利益を確保できる】

僕たちの食の未来は、アメリカの一企業に握られている。

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