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ソ連版ポップアート〈ソッツアート〉とは!?

ズドラーストヴィチェ!
皆様はロシアのアートというと、どのようなモノを思い浮かべますか?
構成主義やプロパガンダのポスター、さらには分野を広げロシア正教の教会建築や、スターリン様式の摩天楼のような建築物、バレエやクラシック音楽、ドストエフスキーやプーシキン、トルストイなどの文学などなど……人によって浮かんだジャンルは様々かと思います。

今回はリニューアルに伴ってBUNKER TOKYOに入荷した2点のアート作品
アレクサンドル・コソラポフによる『レーニンとコカ・コーラ』(画像1)と、レオニード・ソコフによる『レーニンとゴルバチョフ』(画像2)、これらの作品が属するソッツアートというジャンルについて解説していこうと思います!

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①ソッツアートの祖

ソッツアートとは社会主義リアリズムポップアートが掛け合わされて作られたジャンル。
第二次世界大戦が終わったあとの1950年代から60年代、西側諸国では大衆文化が花開き、大量生産・大量消費の社会が到来しました。その新たな風景を描いたポップアートの波が70年代になるとソ連にも伝わってきます。
1972年、ヴィタリー・コマールとアレサンドル・メラミッドがこのソッツアートの運動を始め、アンダーグラウンドの世界で広がっていきました。
アンディ・ウォーホルがマリリン・モンローをモチーフに消費社会を描いたのがポップアート。対して、レーニンやスターリンを描いて独裁的社会主義を批判したのがソッツアートです。

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"Quotation" (1972) Komar & Melamid

当時ソ連に溢れかえっていたプロパガンダのポスターからインスピレーションを受けて2人が作ったのがこの作品。
「共産主義の勝利に向かって」「労働者に栄光あれ」「栄光の祖国万歳」など使い回され、もはや見慣れてしまい中身を失ったフレーズを空欄にすることで共産主義の体制を痛烈に茶化しているのがわかります。

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"Double Self-Portrait as Young Pioneers"(1982) 

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"Stalin in Front of the Mirror" (1982)

他にもピオネールの姿で自分たちの自画像を描いたものや、鏡の前で自らに跪くスターリンを描きスターリンへの個人崇拝への皮肉を込めたものなど非常にシニカルな作品を描いたコマールとメラミッド。
今でこそ笑えるものですが、言論や表現の規制のあった当時ソ連でこの表現をするのは肝が座っているなと思います。見る人が見たらシベリアに送られずとも凍りついてしまいそうですよね笑

もちろんソ連でこんなことできるはずもなく1974年のブルドーザー展覧会と呼ばれる事件をきっかけに2人は亡命。
以後40年以上ニューヨークで暮らしているようです。

②アルクサンドル・コソラポフ

ソッツアートの先駆者であるコマールとメラミッドを紹介したので、当店にある作品もひとつずつアーティストと共に紹介させていただきます。

『レーニンとコカ・コーラ』を描いたコソラポフは1943年ソ連に生まれ、75年にニューヨークに移住して以降ソッツアートを盛り上げてきたアーティストです。
社会的・情報的な製品に惹かれたコソラポフは、ポスターや広告、コミック、政治的スローガンを作品に反映させ、共産主義のイデオロギーと西洋の大衆文化をミックスした作品を創ります。
『レーニンとコカ・コーラ』をはじめ、かなりポップな作品が多く、思わずクスッと笑ってしまう文化のミックスが魅力的ですね。

この『レーニンとコカ・コーラ』をコソラポフがデザインしたのは1980年。1982年にニューヨークでもポストカードの形で発行され、同時にシルクスクリーンで印刷されました。
中でもこのゴールドエディションは世界に75枚しかない代物。当店入荷の物も18/75と番号が割り振られております。

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ソ連では輸入が禁止されていたことや、とあるジョーク(ロシア人が月に着陸し、月を赤く塗った。その後にアメリカ人が月に到達し、その赤をコカ・コーラの背景に使用した)などもあり、文化の象徴でもあったコカ・コーラ。
それと共産主義の象徴ともいえるレーニンを結びつけたのがこのアート作品のデザインです。
発表当初は「コカ・コーラ社が共産主義を推奨しているというイメージをアメリカの消費者たちに植え付ける可能性がある」ことを指摘され、裁判沙汰にもなったこの作品ですが、現在ではロシア現代美術の中でもトップクラスに有名な作品となっております。

コソラポフは他にもレーニンとマクドナルドを合わせたデザインや、ウォーホルパロディのゴルバチョフ、さらにはモナリザの顔がプーチンになったものなどまさにソ連・ロシア×ポップな作品がたくさんあります。

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"McLenin's" (1990)

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"Gorby" (1991)

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"Mona Lisa" (2020)

③レオニード・ソコフ

続いては『レーニンとゴルバチョフ』を描いたレオニード・ソコフの紹介です。

ソコフは1941年にソ連で生まれ、1980年に渡米。元々は動物彫刻家としてソ連で活躍していたソコフですが、彼もコソラポフと同じくソッツアートを盛り上げたアーティストです。
コソラポフに比べて少しダークな作品が多い印象です。ポップなものと組み合わせるだけでない皮肉がチラ見えするような作風が彼の真骨頂。

『レーニンとゴルバチョフ』はレーニンにゴルバチョフのあの額の痣がついたデザインですが、当店に入荷した赤と黒のドットの物以外に金色の背景のものも。
ゴルバチョフがペレストロイカを推し進めていた時代はソ連でもソッツアートが許容され出した時代なので、それでも共産主義を主張するソ連の姿がドットとなって不明瞭なレーニンと重なった…など様々な憶測が捗ってしまいますね。

ソコフの他の作品には、かなり醜悪に描かれた木製のフルシチョフや、髭の政治家が好きなマリリンモンロー、鎌と槌を持ったミッ○ーマウスなどがあります。
造形にどこか闇を感じますね、、、笑

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"Khrushchov" (1983)

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"Stalin and Marilyn" (1986)

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"Micky Mouse with Sickle and Hammer" (2010)


まとめ


ポップアートの波に乗って、大衆文化と共産主義のイデオロギーのデザインを掛け合わせた生み出された芸術様式ソッツアート。
ソ連の指導者にまつわるジョークはたくさんありますが、アートという形に残して抵抗したこのシニカルさとアーティストの熱量には目を見張るものがあります。
ベルリンの壁のあの有名な絵画も実はソッツアートに分類されるものですね。
強い皮肉と批判を込めたポップなソビエトのデザイン。ぜひ皆様も探してみてください。

Ryusei

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おまけ

かの有名なベルリン壁作品「Kiss」ですが、ただ友好の象徴として描かれた物…ではなく実際にあった場面なのです。
ロシアの伝統的な挨拶である「トリプルキス」、これを最も熱く行なったのが誰であろうこの絵の左の人物、ソ連の最高指導者ブレジネフ。


トリプルキスならぬトリプルブレジネフは誰しもが歓迎した物ではなかったようで(そりゃそうだ…)ジョークの種ともなっています。


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