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楽しむ防災拠点「nuovo(ノーボ)」僧侶が提唱

※文化時報2021年7月29日号の掲載記事を再構成しました。

 平時を楽しみ、有事に備える。そんなコンセプトでお寺に防災拠点をつくる動きが、全国に広がろうとしている。その名もライフアミューズメントパーク「nuovo(ノーボ)」。仕掛けたのは真言宗豊山派浄光寺(長野県小布施町)の副住職、林映寿さん(44)だ。四輪バギーや重機の運転・操縦に親しんでもらい、即戦力の災害ボランティアを育てようという試み。一昨年に台風被害を受け、災害と向き合いながらも、笑顔とエネルギーを絶やすことなく活動を続けている。(春尾悦子)

平時のスキルと蓄え

 2019年10月13日。台風19号で千曲川の堤防が決壊し、小布施町や近隣市町村では家屋や田畑が水に漬かる甚大な被害を受けた。浄光寺はボランティアの拠点となり、宗派を超えた青年僧らが続々と訪れて、泥出しなどの復旧・復興支援に当たった。

 ところが、重機はあっても操縦できる人が足りなかった。その経験が、重機オペレーターの養成を目的としたノーボの構想につながったという。

 ノーボは、「農」業と「防」災に、新しいを意味するイタリア語の「nuovo(ヌオーボ)」を掛け合わせた造語。林さんが代表を務める一般財団法人日本笑顔プロジェクトが提唱し、昨年10月に第1号の施設を浄光寺近くの遊休農地に開設した。

 自然に囲まれた約4千平方㍍の敷地には、張り渡した細いベルト状のロープの上でバランスを取るスポーツ「スラックライン」や農業体験を楽しむスペースもある。

 重機オペレーターの養成講座は1年間で約500人が受講。どんな難所でも移動できる四輪バギーの講習会も今春、スタートさせた。施設利用料や受講料を活動の財源に充てており、林さんは「平時にどれだけ蓄えとスキルアップをできるかが大切」と力を込める。

ノーボ重機オペレーター (1)

重機オペレーターの養成講座を受ける受講者たち

一過性にせず、全国へ

 6月には同じく長野県北部の飯山市にある曹洞宗高源院にもノーボができた。戸狩温泉スキー場に近いアジサイの名所で、森林セラピーも行う古刹。「お寺の民宿 高原荘」を営む。

 住職の江澤遠大さん(42)によると、檀家総代には当初、なかなか理解を得られなかったが、昨年秋に浄光寺のノーボを一緒に視察したところ、「こういう取り組みならぜひ、うちでもやろう」と快諾されたという。

 今年4月には、沢を隔てた所で山火事が起きた。消防団員でもあり、唯一道を知っていた江澤さんは、直ちに出動。ところが、消火に必要な水を軽トラックで運ぶのに苦労し、改めてバギーの必要性を痛感した。

 高源院のノーボにも、スラックラインや四輪バギーの体験施設がある。江澤さんは「私はお寺で遊んだ記憶のあるぎりぎりの世代。家族連れでいつでも遊びに来てほしい」と話す。

 千葉県成田市にも第3号のノーボを開設。日本笑顔プロジェクトは今後、全国展開に向け、遊休農地の所有者やお寺の参加、企業・団体からの協賛に期待を寄せる。すでに企業などの協力で、キャンピングカーやトレーラーハウス、ヘリコプターが出動できる体制が整っているという。

 林さんは「度重なる災害を一過性のものにせず、その都度検証して、次の災害に備える。まさに祖師の教えを相承する大切さや、将来に向け寺を護持することにも通じるのではないか」と語った。

熱海土石流災害にも出動

 林さんは今月6日、日本笑顔プロジェクトのメンバーや連携する支援者らと共に、静岡県熱海市の土石流現場に入った。発生から3日後のことだ。先遣隊として、何ができるか調べるためだった。

 雨が降り続き、作業現場へのアクセスが道路一本に限られていた上、かなりの急斜面に大量の泥土があったことから、まだ現地で活動できる状況にないと判断。いったん長野へ引き揚げた。

ノーボ熱海

熱海土石流災害の現場に入った林さんら。ただ手を合わせることしかできなかったという=7月6日

 翌7日の午後9時になって、救助犬捜索隊の知人からの協力要請を受け、現地駐在のメンバーが救助犬や犬を扱うハンドラーの後方支援を行った。

 救助犬は、長時間泥の中に漬かると、低体温症になる恐れがある。また、さまざまな異物が混入した泥の臭いが、敏感な嗅覚の妨げとなる。このため、メンバーらは休憩のたびに自前の給水車で救助犬の泥を洗い流した。それまでは、基地に戻らないと水が使えなかったという。

 林さんは「一晩でここまでの態勢を整えるには、平時からの備えと人のつながりがなければできない」と言い切る。

 日本笑顔プロジェクトは昨年12月、大雪で大規模な立ち往生が起きた関越自動車道に四輪バギーとスノーモービルで駆け付け、自衛隊と共に救援活動に当たったほか、今年1月にも豪雪に見舞われた北陸自動車道と国道8号に、東日本高速道路株式会社などの要請で出動した。同社新潟支社からは今春、感謝状を贈られ、林さんは今後も雪害に
備える決意を新たにしたという。

 100年に1度の災害が毎年のように起き、新型コロナウイルスとの複合災害が懸念される今、自身が真言僧侶であることが、災害現場に立つことへの原動力になっているという。

 林さんは言う。「重機も四輪バギーもない時代に、お大師様は各地で井戸を掘り、橋を架けられた。先祖供養をしながら、泥まみれで救援活動をすることもまたお大師様の教えではなかろうかと、最末端の弟子として考えている」

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