復興へ 福島の春④故郷に帰れぬ遺骨
※文化時報2021年1月18日号の掲載記事です。写真は長安寺福島別院でお勤めをする横山住職
「104人預かっている」
再建に向けて歩みを進める寺院がある一方、福島第1原子力発電所事故から10年がたとうとする今も、元の場所に戻れない寺院は少なからずある。
真言宗豊山派の長安寺(横山周豐住職)は、福島県浪江町の旧津島村地区に立地し、帰還困難区域に含まれている。福島第1原発からは25㌔㍍ほど離れているが、風で運ばれた放射性物質が地区全体を覆った。寺院だけでなく、檀信徒も誰一人帰還できていない。
元々は山岳信仰の寺院で、江戸初期の1632(寛永9)年の創建と伝わる。檀信徒の多くが避難する中通り地区で法務を行おうと、福島市内の武道場だった建物を改装し、2014年3月に福島別院を立ち上げた。本尊などは津島から運んで荘厳を施し、法要を営む体制を整えた。
壁面の棚には、震災後に亡くなり、古里での埋葬を待つ遺骨が並ぶ。「津島で埋葬してほしいという避難者の遺骨を104人預かっている」。横山住職は語った。
コロナ禍が絆を断つ
帰還困難区域は、福島第1原発が立地する双葉町と大熊町、浪江町、南相馬市、葛尾村、飯舘村にまたがる。総面積は約337平方キロメートル。このうち旧津島村地区は、国道114号こそ開通したものの、道路周辺はバリケードに囲まれ、除染作業が至る所で行われている。住民らは2015年、国と東京電力に原状復帰を求める「ふるさとを返せ! 津島原発訴訟」を福島地裁に起こした。
長安寺は旧津島村地区にある唯一の寺院だ。檀信徒の約6割は県内で暮らしているが、県外で土地や家を購入する人も増えた。避難先で生まれた子どもたちにとっては、その土地が故郷になってしまうことを、横山住職は危惧している。
昨年以降、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。葬儀や法事は、離散した人々が集まる数少ない機会だったが、減ってしまった。親類ですら、どこに避難しているのか分からないケースもあるという。
「このままでは地域の絆がズタズタにされてしまう。バラバラになった檀信徒をどうするか。先が見えない」。横山住職は語る。
帰還困難区域となった長安寺周辺
除染を待って再建へ
「何とか残せるものを移そうと作業に追われている。天井裏にたまった動物のふん尿の臭いだけでも、気がめいる」
横山住職は、長安寺本坊の様子をときどき見に訪れるが、イノシシやハクビシンに荒らされ、とても人が使える状態ではないという。すでに解体を申請しており、土地の除染を待っている状態だ。
それでも、除染は今春にも本格的に始まる見込みで、本堂の再建や倉庫の建設などを計画している。「維持管理を考えると、本堂は規模を縮小せざるを得ないが、檀信徒の要望に応えたい」と話す。
建物の補償は交渉中。民法では、賠償債権の消滅時効は3年だが、原発事故は特例法により10年とする措置が取られている。その期間も、間もなく終了する。
「帰還には何年かかるか分からないが、地域から寺院がなくなるわけにはいかない。亡くなっていった人々は『津島に帰りたい』と言い残している。何としてもお骨を津島に返したい」。横山住職は、振り絞るように語った。
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