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気候変動 宗教者こそ危機感を

※文化時報2022年1月25日号の掲載記事です。写真はローマ教皇フランシスコと握手する峯岸総監(10月4日、バチカン=曹洞宗宗務庁提供)

 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)=用語解説=に関連してバチカンで昨年10月4日に開かれた諸宗教の指導者らによる会合「信仰と科学―COP26に向けて」に参加し、スピーチを行った曹洞宗ヨーロッパ国際布教総監の峯岸正典氏(68)が一時帰国し、文化時報のインタビューに応じた。地球温暖化に対する危機意識を宗教者が持ち、率先して啓蒙していくことが重要だと語った。(山根陽一)

禅とカトリックの共通項

――気候変動への対策は、持続可能な開発目標(SDGs)=用語解説=の13番目に掲げられ、大きなテーマとなっていますね。

 「COP26に向けたバチカンの会議には、ローマ教皇フランシスコをはじめ世界各国の宗教者や科学者が参加し、さまざまな意見交換を行った。気候変動は人類の存亡に関わる喫緊の課題で、欧州では危機意識が高い。海面上昇の危機にさらされている南太平洋に領土を持つフランスは、自国の問題と捉えている」

 「世界には多様な文化や価値観が共存し、先進国と発展途上国の間には格差や矛盾、不平等がある。気候変動もそれらと決して無関係ではなく、宗教にはこうした現状を変えていく力があると大きな期待を寄せられている」

――仏教だけではなく、他の宗教との連携も必要ですか。

 「私は曹洞宗の僧侶だが、カトリック系である上智大学大学院哲学研究科の出身で、南ドイツの修道院で修行にもいそしんだ。自己への厳しさと他者への優しさ、自分を捧げる精神、清貧の思想など、仏道とカトリックの思想には相通ずるものがあると体得した。知り合いの司祭には『私の趣味は禅です』と語る人もいた。それほど禅とカトリックは近いと感じている」

欧州、行動が加速

――電気自動車の導入姿勢などを見ても、欧州には危機意識がかなりあるようですね。

 「脱炭素社会に対する意識は、生活の隅々に及んでいる。電気自動車へのシフトだけでなく、自転車を活用したり、飛行機に乗らず電車を利用したりする人も着実に増えている。ロジカル(論理的)に行動する人が多いようだ」

 「ただ、米国と中国に対する牽制という見方もできる。二つの大きな力への対抗手段として、脱炭素社会を掲げている面もあるだろう」

――宗教者はどんな方法で啓蒙していくべきでしょうか。

 「例えば、化石燃料から作られるプラスチックやビニールを使うことを率先して避けてほしい。宗教者から政治家へのアプローチも有効だ。欧州では宗教者の社会的地位が高く、人々の敬意もある。日本でも政治家への働き掛けなどが必要ではないか」

――新型コロナウイルス感染拡大は続いていますが、再び欧州に戻られるのですか。

 「2月にはベルギーで修道士を対象にした坐禅の指導、3月にはフランスで仏教の講義を頼まれている。約390人の宗侶と共に、欧州での禅の普及や曹洞宗の布教活動に邁進したい」

「信仰と科学―COP26に向けて」のスピーチ

 仏教徒として「全てのものが関係し合っている」ということを、強く意識している。禅とカトリックの交流の中で、両者が伝統的に簡素な生活を送り、ものを大切にしていることを学んだ。それを実現すれば、世界は変わる。気候変動への努力もまたしかり。人生の豊かさはものの豊かさではない。精神の豊かさが何よりも大切だという価値観が広がり、あらゆるものが共生できる社会の達成を望む。(要約)

峯岸正典氏

峯岸正典( みねぎし・しょうてん)1953(昭和28)年10月生まれ。上智大学大学院哲学研究科、ドイツ・ミュンヘン大学などで学ぶ。長楽寺(群馬県下仁田町)住職、大本山永平寺国際部講師などを経て、2020年曹洞宗ヨーロッパ国際布教総監に就任。

【用語解説】国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)
 COPは、地球温暖化対策として温室効果ガス排出の削減目標などを決める国際会議。数字は開催回数を表す。COP26は2021年10月31日~11月13日、英グラスゴーで開催され、197カ国・地域代表が参加。産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える目標を掲げ、石炭火力発電の段階的削減などを盛り込んだ「グラスゴー気候合意」を採択した。

【用語解説】持続可能な開発目標(SDGs)
 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。15年に国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で採択された。17の目標と169の達成基準からなり、誰一人取り残さないことを誓っている。

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