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復興へ 福島の春①報恩講、小さくて大きな一歩

※2021年新年号の掲載記事を再構成しました。写真は帰還困難区域が広がる国道6号の周辺

 東日本大震災は今年、発生から10年を迎える。福島第1原子力発電所事故で、原発周辺の寺院や檀信徒・門徒らは平穏な生活が奪われ、今なお帰還困難区域や汚染水、汚染土の処分を巡る多くの問題に翻弄されている。それでも東京電力側との補償交渉は進み、多くの寺院が堂宇の修復を始めた。人が集まるお寺の再興は、町の復興にもつながる。節目の「3・11」を控える福島の今を追った。(編集委員 泉英明)

「何も変わらない」からの変化

 「あっという間だったが、9年もかかったのかという思いもある」

 福島県浪江町で昨年11月29日、2010年以来10年ぶりの報恩講を営んだ浄土真宗本願寺派常福寺の廣畑恵順住職は、安堵の表情を浮かべた。

 境内の離れを改修し、お内仏を据えて荘厳を整えた。廣畑住職の調声で法要を勤め、重枝真紹布教使が法話。新型コロナウイルスの影響もあって、集まった門徒は10人と小さな報恩講だったが、大きな一歩だった。

 これに先立つ11月18日には、福島市内にある本願寺派の福島県復興支援宗務事務所で、中通り地域の門徒らと報恩講を営んだ。どちらも、参拝できない門徒のために、動画投稿サイト「ユーチューブ」で生配信した。

 原発の北側に位置し、浜通り地域にある浪江町の避難指示は、山間部の旧津島村一帯などを除いて17年3月に解除された。昨年8月には、常福寺の隣に道の駅がオープン。町の復興は、徐々に進み始めている。

 一方で、寺院の本堂と庫裏は9年前のままだ。本堂は震災直後、応急処置を施したものの、庫裏は避難中に野生動物に荒らされた。

 廣畑住職は、これまで何年も「何も変わらない」と言い続けてきた。だが、この日は違った。「この報恩講がスタート地点だ」。笑顔でそう語った。

福島1

常福寺で営まれた報恩講

補償決着、修復にめど

 復興庁が12月11日、国会に提出した「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」によると、地震・津波の被災地域は「復興の総仕上げの段階」とされた一方で、福島第1原発事故の被災地域は「復興・再生が本格的に始まった段階」と位置付けられた。

 被災地とひとくくりにするだけでは、福島の現実は見えてこない。原発周辺の各寺院は、数年遅れの再興へと少しずつ歩みを進めている。

 一歩を踏み出すきっかけとなっているのが、東京電力側との補償交渉の決着だ。

 浄土宗浄林寺(富岡町)は補償問題が解決し、昨年6月に本堂の修復を終えた。現在は庫裏の修復に取り掛かっている。早川光明住職は「2月頃には完成するので、避難先のいわき市から戻りたい」と話す。

 早川住職が事務局長を務める「原発事故被災寺院『有志の会』」(会長、矢内俊道・曹洞宗龍台寺住職)は、原発30㌔圏内の寺院を対象に、多い時で60を超える寺院の賠償請求を支えた。17年5月にいったん交渉を終え、現在はそれぞれの寺院が再興への道を歩んでいる。

 常福寺は昨年3月、補償による本堂修復のめどが立った。庫裏は会館に建て替え、寺カフェの運営も構想する。十三回忌となる23年の完成が目標だ。

 常福寺の門徒総代、境宣勝さん(78)は「人が集まらなければ、何も始まらない。お寺が復興の象徴となることで、少しでも多くの人に戻ってきてもらいたい」と話す。

 境さんは、近くの幾世橋地区の修復した自宅で17年6月から暮らしている。近所で戻ってきた家は2割ほど。高齢者が多く、若い世代の姿は少ない。

 元のように暮らすのは難しいのではないか、との考えが頭をよぎるが、「帰還することしか考えていなかった。先祖の思いを引き継ぎたかったから」と語る。

福島の春1・地図

人口急減にどう対処

 原発事故に伴う人口急減は、原発周辺の寺院や檀信徒・門徒に重くのしかかる。浪江町は震災前、約2万1500人が暮らしていたが、現在の住民登録者数は約1万7千人。そのうち、実際に町内で暮らす人は約1500人にとどまる。

 福島県によると、県全体の県外避難者は昨年11月現在で約3万人。県北部の南相馬市や福島市、南部のいわき市など、原発周辺から県内の他の市町村に移って新たな生活を送る人も多いという。

 放射線への不安は今も人々を分断し、コロナ禍という新たな問題にも直面する。真宗大谷派原町別院(南相馬市)の木ノ下秀俊さんは「家族と同居する家庭が減っているように思う。若い世代が少ないのではないか」と話す。

 京都府内で避難者・移住者を支援し続けてきた浄土真宗本願寺派僧侶の大塚茜さんは「故郷に仕事がないので戻れない人も多く、里帰りの際に親の介護問題で悩むケースもある」と明かした。

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