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地蔵盆を守らなければ、日本の宗教が危うくなる

 ※文化時報2020年8月22日号に掲載された社説「足元の宗教性を守ろう」の全文を転載します。

 本来ならばこの週末、京都をはじめ関西各地の町内会や自治会は、大忙しだったはずだ。それがご多分に漏れず、新型コロナウイルスの影響を受け、中止や縮小が相次いでいるという。「地蔵盆」である。

 町内安全や子どもたちの健全育成を願う伝統行事で、京都を中心に遅くとも江戸時代から続いてきた。地蔵菩薩の縁日に当たる8月24日に近い土曜と日曜を中心に行われ、お盆の続きのように感じられることから、地蔵盆と呼ばれるようになったとされる。町内のお地蔵さまを着飾ったり白く塗って化粧を施したりし、子供向けの催しも開く。

 5年前、京都市内のある地蔵盆に"密着"したことがあった。こちらは取材にかこつけてお茶やお菓子をごちそうになり、一日中談笑していたようなものだったが、町内会のメンバーは約2カ月かけて開催準備を進めていた。それもそのはず、輪投げにビンゴゲーム、金魚すくいと、数々の催しを企画していた。

 町内会の役員は当時、こう話していた。「私らも昔、大人に遊んでもろたから、お返ししてちょうどやと思うてるけど、10年先はどうなってるかなあ…」

 町内には最も多い時期で子どもが50人ほどいたそうだが、この年、地蔵盆に参加したのは10人に満たなかった。

 少子高齢化で存続が難しくなっていたところへ、コロナ禍が追い打ちをかけている。

 京都市文化財保護課は「ウィズコロナの地蔵盆」と銘打ち、感染防止策を講じた上で地蔵盆を安全に開催できるよう、情報提供に努めてきた。また、「京のテレ地蔵盆」と題し、地蔵菩薩を本尊とする律宗大本山壬生寺(京都市中京区)の松浦俊昭副住職による法話を、動画配信する試みも行った。

 京都府立大学大学院の前田昌弘准教授が事前に行ったアンケートによれば、今年も地蔵盆を「開催する」と答えた京都市内の町内会は、4割以上に上ったという。集計は途中経過だが、住民の努力や行政の工夫によって地蔵盆が守られた地域があるなら、喜ばしいことだ。

 地蔵盆には、仏教と民間信仰の二面性がある。

 例えば、大きな数珠を囲んで車座になり、読経に合わせて次々と回す「数珠回し」。京都の地蔵盆には付き物で、浄土宗大本山百万遍知恩寺の大念珠繰りと似ているが、各町内にまつられるお地蔵さまに特定の宗旨はない。こうした儀礼が残ってきたこと自体、無宗教だと認識されることの多い日本人が、本当は豊かな宗教性を持っている証しだと言えよう。

 コロナ禍では、とかく葬儀やお参りの在り方について論じられることが多い。それらはもちろん大切な課題だが、檀信徒・門徒以外の人々から宗教性が失われるようなことがあれば、仏事を通した布教・伝道は絵に描いた餅になる。足元の危機に、敏感でありたい。

京都市内のお地蔵さま

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