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消防チャプレンを社会に 救急救命士の僧侶提唱

※文化時報2021年11月25日号の掲載記事です。

 明治国際医療大学(京都府南丹市)の諌山憲司教授は、かつて消防の最前線で働く救急救命士だった。「人命を救いたい」という純粋な思いを原点に、予防のための統合医療=用語解説=や福祉に関心を持ち、ついには僧侶になった。将来は、救急救命の現場で活動する「消防チャプレン=用語解説=」を社会に広めたいと考えている。(主筆 小野木康雄)

 救急救命士、医学博士、社会福祉士、そして真言宗僧侶。諌山教授の肩書や資格は、自身が必要だと感じて学んできた分野を、足跡のように示している。

 大学卒業後、1年間の会社員経験を経て、京都府京田辺市消防本部に入職した。消防隊員として勤務する傍ら、学生時代に打ち込んだアメリカンフットボールを、社会人のクラブチームでも続けた。とにかく体を動かすのが好きで、人の役に立つ仕事がしたかった。

 勤続19年間のうち8年間を、救急救命士として活動。さまざまな現場を見た。自死、孤独死、虐待事案。119番の向こう側に、生活困窮者や社会的弱者が大勢いた。「こうなる前に、何とかできないのか」。救急や救助だけでは人を救えないことを、嫌というほど思い知った。

途上国で技術支援

 消防に在職中からNPO法人で活動し、アジアや中南米などで技術支援に当たった。発展途上国では、道路や水道などのインフラが優先され、消防・救急体制の整備は後回しになりがちだ。軍や警察、民間など、消防の担い手は国によって異なるが、どの国も日本の消防の組織力や技術力に高い関心を寄せていた。

 日本より優れた国もあった。イスラエル。化学兵器による攻撃や自爆テロを想定した救急医療を行い、世界トップクラスの危機管理ができていた。ただ、人々が幸せそうに生きているとは思えなかった。

 2016年3月、コスタリカを訪れた時のことだ。軍隊を持たず、さまざまな幸福度指数調査で世界の上位に入る中米の小国。ヒスイ博物館でシャーマン(呪術師)に関する展示を見ていた時、ふと思った。

 「医療とスピリチュアリティーは本来、不可分なのに、無理やり科学が切り離したのではないか」。考え続けていたことのピースが埋まった感覚があった。

救急現場でも心のケア

 統合医療や福祉に続いて、仏教を学んだ。僧侶になれば何か分かるかもしれないと、インターネットで探した岡山県倉敷市の真言宗寺院で18年に得度。現在は大学教授を務めながら、NPO法人日本スピリチュアルケアワーカー協会(山添正会長)で、臨床宗教師=用語解説=になるための研鑽(けんさん)を積んでいる。

救命士時代と現在

救急隊員(上)から紆余曲折を経て僧侶になった(下)=本人提供

 「消防にいた頃から、ずいぶん回り道した」と話すが、多職種連携の必要性が高まってきた今、医療・福祉などさまざまな分野を知っていることは強みだ。

 自身が思い描く「消防チャプレン」は、欧米にいる。宗教者が緊急車両に同乗して救急現場に駆け付け、早い段階から遺族の悲嘆(グリーフ)ケアや隊員の心のケアに当たっているという。「日本でも、遺族や隊員同士が支え合うところに消防チャプレンが参加し、少しでもつらさを和らげられれば」。肩肘張らず、「いずれ文化として根付けばいい」と一歩ずつ進む考えだ。

【用語解説】統合医療
 近代西洋医学に基づく従来の医療の枠を越え、鍼灸や漢方、アロマセラピーなどの補完・代替医療を加味した医療システム。日本統合医療学会は、患者の治療を目的とした「医療モデル」と、地域住民の生活の質(QOL)向上を目指す「社会モデル」があるとしている。

【用語解説】チャプレン(宗教全般)
 主にキリスト教で、教会以外の施設・団体で心のケアに当たる聖職者。仏教僧侶などほかの宗教者にも使われる。日本では主に病院で活動している。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

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